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これだけは知っておきたい――胃がん編 早期がん、治療の主流は縮小手術。進行がんでも治癒を望める

監修●山口俊晴 癌研有明病院消化器外科部長
取材・文●半沢裕子
発行:2005年7月
更新:2019年8月

  
山口俊晴さん
癌研有明病院
消化器外科部長の
山口俊晴さん

胃がんは胃の粘膜から発生するがんで、発生には食生活が大きく関わっていると言われる。粘膜にとどまっている早期がんは、十分に完治が望めるが、胃壁の外に向かって浸潤を始める進行がんになると、他臓器へ転移しやすくなり予後が悪くなる。とはいえ、胃がんは治療すれば治る可能性もある。胃がんと診断され、治療を受けるにあたって、患者さんとしてこれだけは知っておきたい事柄をまとめた。

最も重要なのは、深達度と、転移があるかないか

胃がんは世界的に見ても、最も患者数の多いがんです。とくに日本人には頻繁に見られ、日本人なら誰でもかかる可能性があると言っても過言ではありません。その一方、大腸がんと並び、治療すれば治るがんの代表で、10人中7~8人は治ると言われています。おまけに、胃がんに関して、日本は診断も治療も世界1です。胃がんと診断されても悲観せず、落ち着いて治療を受けてください。

胃がんでまず知っておきたいのは、自分のがんが早期がんか進行がんかということです。胃がんの分類基準は大きさ、型などさまざまですが、最も重要なのは、胃の壁のどのくらいの深さまでがんが達しているか(深達度)と、転移があるかないかです。

胃の壁は粘膜、粘膜下層、筋肉層、いちばん外側の漿膜という4つの層からなっています。粘膜にとどまる最も浅いがんで、リンパ節などに転移がない場合、95パーセント以上が治り、再発もしません。ですから、胃がんは早期発見、早期治療がとても大事なのです。

[胃壁の構造]
図:胃壁の構造

一時期、「早期がんは進行がんにならない」という説が主張され、治療を拒む患者さんが少なからず出ました。が、事情があって手術不可能な患者さんの経過などを総合すると、早期がんは3~4年でだいたい進行がんになります。中には進行の遅いものもありますが、発育速度は予測が困難ですから、がんが発見されたら必ず治療を受けるべきだと思います。

また、がんが漿膜まで達し、周辺のリンパ節に転移がある3a期のがんでも、治療成績は77パーセントに達します(癌研94~02年)。胃がんの場合、進行がんでもかなり治るということを、心に留めておいてください。

[胃の位置と構造]
図:胃の位置と構造

CTと内視鏡で診断確定 大腸がん検査を行うことも

さて、胃がんであることを確認し、深達度や転移の有無を調べて診断を下すためには、レントゲン検査、内視鏡検査、CT検査、超音波内視鏡検査などの各種検査が行われます。中でも重要なのは内視鏡検査とCT検査で、この2つによって治療方針はほぼ決まります。

癌研ではさらに、大腸がんがあるかどうかの内視鏡検査を、補足的に行っています。胃がんと大腸がんは重複しているケースが少なくないためです。ポリープが見つかったら切除し、手術の必要ながんが見つかったら、胃がんと同時に切除することを勧めています。

大腸検査は強制ではありませんが、私自身は実施すべきと考えています。長寿の時代です。胃がんの患者さんが生還して、大腸がんにかかる可能性は決して少なくありません。医師としても、患者さんの大腸がんをあとで発見し、「あのときは胃がんを診ていたから大腸がんを見逃しました」という言い訳をしたくないと思うのです。

診断がついたら治療が始まりますが、主な治療法は(1)内視鏡治療、(2)手術、(3)化学療法(抗がん剤)の3つです。放射線治療、免疫療法などもありますが、数的には少数です。胃がんの治療は転移があるかどうかで大きく異なります。内視鏡治療は早期がんの一部に、化学療法は進行がんに対して行われ、手術はどちらに対しても行われます。

早期がんの第1選択は何といっても内視鏡治療

内視鏡治療とは、胃に内視鏡を入れて病巣を見ながらナイフ状のもので切除したり、切り取りにくい病巣粘膜の下に生理食塩水などを注入して粘膜を盛り上げ、輪状の針金で焼ききったりする方法です。おなかにメスを入れたり全身麻酔を施す必要もなく、順調に行けば数10分で終わるので、体への負担が最も少ない治療方法です。

ですから、早期がんなら、医師は内視鏡検査の段階から「内視鏡治療ができないか」と考えます。患者さんにも、「胃がんで内視鏡治療ができそうだといわれたら、すぐ選択してください」と、強くお勧めしたいところです。

ただ、早期がんであっても、すべての胃がんに内視鏡治療が行えるわけではありません。「粘膜の1枚目までにとどまった(粘膜に限局)、2センチ以下の分化型がんで、病巣内に潰瘍や潰瘍のあとがないこと」という条件があります。

事実、粘膜の2枚目(粘膜下層)までがんが及んでいる場合、2割程度に転移が見られます。早期がんは治る病気なのに、内視鏡にこだわってその2割に入り、再発したのでは意味がありません。それなら、はじめから開腹して胃の切除術を行ったほうがいいのです。

2センチとは「ひと掴み」で切除できる大きさを表します。失敗して病巣を破壊し、散ったがん細胞が胃壁に潜り込んでしまったのでは、これまた意味がないということです。

注意したい点はもうひとつ。内視鏡治療の結果、案外がんが深いことがわかり、もう1度手術のやり直しをすることもあるという点です。何だか損した気がするでしょうが、それでも内視鏡で取れる可能性が高い場合は、やはり内視鏡を選択するべきだと思います。

内視鏡治療はまだ新しく、病院や医師によって差があります。なかなかむずかしいとは思いますが、病院や医師の能力をできるだけ確認したほうがいいでしょう。扱った症例数が多いこと、内視鏡「診断」だけでなく内視鏡「治療」を手がけていることなどは、わずかですが参考になるのではないかと思います。

[胃がんの進行度(病期、ステージ)]

  NO

リンパ節転移がない

N1

胃に接したリンパ節に転移がある

N2

胃を養う血管に沿ったリンパ節に転移がある

N3

さらに遠くのリンパ節に転移がある

T1,M

胃の粘膜に限局している

1A期 1B期 2期 4期
T1,SM

胃の粘膜下層に達している

T2

胃の外側表面にがんが出ていない、主に胃の筋層まで

1B期 2期 3A期
T3

筋層を超えて胃の表面に出ている

2期 3A期 3B期
T4

胃の表面に出た上に、他の臓器にもがんが続いている

3A期 3B期 4期

肝、肺、腹膜など遠くに転移している

4期
日本胃癌学会編『胃がん治療ガイドラインの解説』より


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