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副作用の軽減効果を認める臨床試験結果も

相互作用を見極めるためサプリメントは1種類を慎重に

監修●伊藤壽記 大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座特任教授/千里金蘭大学看護学部教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年4月
更新:2016年6月

  

正確な情報を得て「安全にサプリメントを活用していただきたい」と話す伊藤壽記さん

統合医療の中でも、がん患者に一番多く用いられているのが、健康食品・サプリメントだという。抗がん薬と同じように体内で代謝されるため、がん治療中のサプリメントの併用には注意点も多い中、期待できる効果が臨床試験によって明らかになっているものもある。最新の知見を専門家に聞いた。

サプリメントの前に ライフスタイルの改善を

がんの治療を受けている患者の中には、サプリメントを利用したいと考える人が少なくない。大阪大学医学部附属病院の補完医療外来では、そうした人たちに対してサプリメントを含めた補完医療全体に関する相談に乗っている。

同学大学院教授の伊藤壽記さんは、サプリメントを使いたいというがんの患者には、まずライフスタイルの改善に取り組むよう勧めている。

「がんの多くは、生活習慣に根差して発症しています。最近はメタボリックシンドローム体型の患者さんが多いのですが、これは内臓脂肪型肥満ががんに関係があるからです。内臓脂肪からは、がんの増殖にかかわる因子が放出されていて、これががん細胞を増殖させます。また、免疫も関係しています。たとえ体内でがん細胞が発生しても、免疫がしっかりしていれば、それを小さな段階で摘み取ってくれるのです。そこで、がんを治療中の人にも、治療を終えて再発を予防したいという人にも、まずはライフスタイルの改善に取り組むべきと話しています」

具体的には、食事に気をつけ、運動を行うことだ。腸は体の中で、最大の免疫系であり、腸内環境を整えることは重要である。食事は、栄養のバランスを考えた内容にし、腸内細菌の状態を整えるため、乳酸菌や食物繊維(乳酸菌のエサ)を摂るとよい。

運動は、毎日1万歩のウォーキングと、1週間に2~3回の汗をかく(有酸素)運動をすることが推奨されている。

「運動には再発を抑制するというエビデンス(科学的根拠)があります。がんの予防というと、食事のことがよく話題になりますが、運動には食事以上の効果があるようです」

まず選択するのは 免疫を高めるサプリメント

サプリメントを利用するときには、どのような作用があるのかを調べる必要がある。そういった情報に接するとき、注意しておきたいことがあるという。

「重要なのは、がんの患者さんが使ってどのような結果が出たのか、ということです。試験管内(in vitro)の実験や動物実験で得られた効果が、がんの患者さんに使った場合でも、同じように得られると考えてはいけません。人工的にがんを移植したネズミには有効でも、生活習慣の積み重ねで発生したヒトのがんに効果がないことはいくらでもあります」

大阪大学の統合医療学(旧生体機能補完医学)寄附講座では、がん患者を対象にしていくつかのサプリメントの臨床試験を行っている。その中から、有効だと考えられる2つのサプリメントを紹介しよう。

■AHCC

図1 化学療法前後での好中球数の変化

(T.Ito et al:Nut Can DOI: 10.1080/01635581.2014.884232, 1-6,2014.)

キノコの菌糸体を培養して得られる菌糸体抽出物である。主成分であるアシル化α-1,4グルカンが、免疫機能を調整すると考えられている。このAHCCを、抗がん薬治療を受けている人に投与することで、抗がん薬の副作用を軽減できるのではないかと研究が行われてきた。

白血球が減少するなどの血液毒性に対しては、AHCCを投与することで、副作用が軽減するというデータが出ている。図1は、化学療法前後でAHCC投与群のほうが非投与群よりのも好中球が減少しにくかったことを示す。さらに免疫低下による疲労に対して、それを軽減する働きがあるかどうかが調べられた。

その指標として使われたのが、唾液の中に出てくるヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)だった。東京慈恵会医科大学大学院教授の近藤一博さん(ウイルス学)との共同研究である。このウイルスは乳幼児がかかる突発性発疹の原因ウイルスで、すべての人が感染している。症状が治まった後もウイルスが完全に消えることはなく、体内に冬眠状態で残っている。そして、何らかのストレスが加わって免疫機能が低下したときに、唾液中に出てくることがわかっている。

強い疲労感を訴える慢性疲労症候群の人の唾液中にも見られるし、抗がん薬治療を受けている人の唾液にも出ている。疲労感を客観的に評価するのは難しいが、唾液中のHHV-6のDNA量は、その人の体が疲労しているかどうかの指標となるのである。

抗がん薬治療を受けているがん患者を対象に、AHCCの投与によって、唾液中のHHV-6量がどう変化するかを調べたところ、有意に減少することが確かめられた。AHCCにより免疫の働きが高められ、疲労が軽減したのだと考えられている。

現在は、乳がん術後補助化学療法の副作用軽減効果について、AHCC投与群とプラセボ(偽薬)投与群に割り付けた二重盲検ランダム化比較試験が、同一の化学療法を受けた患者を対象に進行中である。

■L-グルタミン

図2 口腔粘膜炎の最大グレード
(L-グルタミン群とプラセボ群の比較)

(T.Tsujimoto et al:Oncol Rep 33, p33-39,2015 DOI: 10.3892 / or.2014.3564)

アミノ酸の一種で、免疫を高める働きのあることが基礎的研究で明らかになっている。そこで、頭頸部がんで化学放射線療法を受けている患者を対象に、L-グルタミン投与群とプラセボ投与群に割り付けて比較試験が行われた。頭頸部がんで化学放射線療法を受けると、すべての患者に重篤な口内炎が起きてしまうが、それを軽減できるかどうかを調べる研究だった。

その結果、L-グルタミンを投与した患者のほうが、口内炎の重症度も、痛みの程度も軽減されることが明らかになった(図2)。

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