手術をせずに、術前化学放射線療法のみで治るケースも
肺がん手術の強力な武器「術前化学放射線療法」
術前化学放射線療法とは、手術前に化学療法と放射線治療を同時に行い、がんを小さくして手術を行うことを目的に考案された治療法です。しかし、肺がんの術前化学放射線療法で治療効果が高い場合には、手術は行わず、そのまま化学放射線療法のみで治療を継続するケースもあります。
単独治療より効果が高い術前化学放射線療法
より高い治療効果を期待して、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた治療法を化学放射線療法といいます。
一般に、それぞれの単独治療よりも、副作用はやや強くなりますが、治療の効果は高まると考えられています。
なかでも、手術前に行う術前化学放射線療法は手術の補助療法という位置づけです(図1)。
手術前に化学放射線療法を行う目的としては、化学放射線療法でがんをできるだけ小さくしてから手術を実施することで、治療後の転移や再発を予防することです。2つめは化学放射線療法でがんを減少させ、手術中のがん細胞の飛び散りを防ぐことです。3つめは、放射線治療を実施することにより手術中の出血が軽減するので安全に手術ができることです。
このような利点の結果、大きながんの塊を術前化学放射線療法で小さくし、きれいに取り除くことができれば、がんが治る確率は高まります。これが、術前化学放射線療法を行う上での基本となる考え方です。
北里大学医学部教授で放射線治療科科長の早川和重さんは、こう話します。
「術前化学放射線療法+手術という治療法は、体内からがんの塊を取り除くための強力な武器であると考えます」
手術できるかぎりぎりの人が対象
肺がんの術前化学放射線療法の適応となるのは、手術でがんを取り除くことができるかできないかのぎりぎりの人たちです。具体的には、非小細胞肺がんの2~3期で、リンパ節転移が少ない患者さんが対象となります。リンパ節に転移している場合でも、1カ所もしくは1つの領域にとどまっている場合、適応となるケースが多いです。
非小細胞肺がんのなかでも、とくに肺尖部胸壁浸潤がんは術前化学放射線療法の効果が高いといわれています(図2)。肺尖部胸壁浸潤がんは、肺の頂上(肺尖部)にできるがんで、胸壁に浸潤しやすいなどの特徴があります。肺尖部胸壁浸潤がんのような胸壁に浸潤しているタイプの肺がんは、昔から手術前に放射線治療を行うと成績が良いことが知られていました。これに化学療法を加えると、さらに治療効果が高まるということで、近年では術前化学放射線療法で治療を行う患者さんが増えているそうです。
術前化学放射線療法の適応となる患者数は、北里大学病院でも年間1~2人と、肺がんの全患者数と比較すると、その数は非常に少ないです。
北里大学病院では今年(2012年)、2人の患者さんに術前化学放射線療法を行い、その後、手術を実施しました。2人とも胸壁浸潤型の肺がんで、リンパ節が少し腫れていて、リンパ節に転移していると診断されました。しかし、術前化学放射線療法+手術治療を受けて術後の経過は良好とのことです(画像3、4)。
「当院は今年、2人の患者さんに術前化学放射線療法+手術を行いましたが、肺がんの術前化学放射線療法は、術前補助療法から手術までを計画的に実施することを目的とはしていません。まず術前化学放射線療法を行い、治療効果と患者さんの状態を見て、手術をするかしないかを検討するという流れで進めることが多いです。というのも、肺がんの術前化学放射線療法で治療効果が高い場合には、手術を行わずに、そのまま化学放射線療法で治療を継続したほうがよいケースもあるからです」(早川さん)
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