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オンコタイプDX検査の有用性と課題

術後の治療選択の指標 不要な抗がん薬治療の回避も

監修●林 直輝 聖路加国際病院乳腺外科副医長
取材・文●柄川昭彦
(2014年10月)

「抗がん薬治療の回避により得られる経済的効果はかなり大きくなる」と語る林 直輝さん

手術後に抗がん薬治療を行うかどうか、従来は臨床所見を参考に決定していたが、がん細胞の遺伝子を調べる「オンコタイプDX」検査を受けると、抗がん薬治療を回避できる人がかなりいることがわかってきた。検査の費用は高額だが、抗がん薬治療が避けられた場合には、医療経済的にもメリットは大きい。将来の保険適用が期待されている。

がん細胞の21種類の遺伝子を調べて予後を予測

オンコタイプDXと呼ばれる検査がある。乳がんの手術で切除した組織を用い、がん細胞の遺伝子を調べる検査である。欧米では多くの国で普及し始めているが、日本では保険適用となっていないこともあって、まだあまり普及していない。ただ、受ける患者さんは着実に増え続けているという。

どのような検査なのか、オンコタイプDX検査の実情に詳しい聖路加国際病院乳腺外科副医長の林直輝さんに解説してもらった。

「手術後の予後を予測するための遺伝子検査で、がん細胞にある21種類の遺伝子の発現状況について調べます(図1)。検査の対象となるのは、ステージⅠ~Ⅱのホルモン受容体陽性(ER+)で、転移陰性の乳がんです。閉経後の女性はリンパ節転移が1~3個の場合も対象になります。手術後の再発を予防するために、ホルモン療法だけ行う場合もありますが、予後が悪いと考えられる場合、または生物学的にホルモン薬だけでは効果が不十分と考えられる場合には、ホルモン療法と抗がん薬治療を併用します。このような場合、オンコタイプDX検査を受ければ、検査結果に基づいて治療方針を決定することができます」

図1 オンコタイプDXで用いられる21種類の遺伝子

Palk et al. N Engl J Med. 2004;351: 2817-2826

従来は、ホルモン受容体、HER2、病理検査による核グレード(いわゆるがんの顔つき)、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無などの臨床所見を判断材料として、総合的に術後の治療方針を決定していた。

ところが、このような治療方針の決定方法はあまり信頼できないことが明らかになっているのである。

「臨床所見で治療方針を決定する場合に比べ、オンコタイプDXを利用した場合のほうが、より正確に予後のリスクを判定することができます。それに関してはすでに多くの研究で証明されており、ASCO(米国臨床腫瘍学会)やESMO(欧州臨床腫瘍学会)のガイドラインなど世界的に有力なガイドラインでは、オンコタイプDX検査を用いて、術後の治療方針の決定に役立てることを推奨しています」

すでに世界の流れはそうなっているのである。

結果はスコアによって 低・中・高リスクに分類

オンコタイプDXでは、21種類の遺伝子の発現状況を調べ、10年以内に再発する確率を予想する。そして、その結果は0~100までの再発スコアという形で示される。

再発スコアが18未満の場合が低リスク群、31以上の場合が高リスク群、その間が中間リスク群と分類される(図2)。

図2 再発スコアに基づくリスク分類

Palk et al. N Engl J Med. 2004;351: 2817-2826

この検査の有効性は大規模な臨床試験のデータを元に検証されており、リスク分類の結果も、実際の再発率に対応することが明らかになっている。

「術後治療をホルモン療法単独にした場合と、抗がん薬治療を併用した場合で、無再発生存率がどう変化するかが、それぞれのリスク群で調べられています。

それによると、高リスク群の場合は、抗がん薬治療を加えることで、ホルモン療法単独の場合より、無再発生存率が低くなることが明らかになっています。それに比べ、低リスク群と中間リスク群では、抗がん薬治療を加えても、無再発生存率にはほとんど差がありませんでした。つまり、抗がん薬治療を行うことによる上乗せ効果が、期待できないということです」

オンコタイプDX検査で低リスクという結果が出ても、それはホルモン療法だけで再発を0%にできるということではない。ただ、抗がん薬治療を加えても治療成績が変わらないというデータがあれば、患者さんは躊躇することなく、抗がん薬治療を行わないという選択をすることができる。これもオンコタイプDXのメリットの1つである。