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心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!

監修●吉村通央 京都大学大学院医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学講師
取材・文●柄川昭彦
(2023年2月)

「患者さんの体表面に斑点パターンを投影し、それをスキャンすることで体の位置合わせを行うSGRTはリアルタイムスキャンが可能なので、ズレを確認しながら治療を行えるのが優れた点です」と語る吉村通央さん

日本では、放射線治療を受ける人の約2割を、乳がんの患者さんが占めています。その放射線治療ですが、新技術の登場によって日進月歩の進化をとげています。乳がんの患者さんが受ける放射線治療も、従来の方法とはずいぶん変わってきました。

そこで、乳がん周術期の放射線治療で使われ始めている最新技術について、京都大学大学院医学研究科講師の吉村通央さんに解説してもらいました。

IMRTとVMATで病巣部に放射線を集中させる

放射線治療では新しい技術が開発されることで、従来の方法に比べ、病巣部に放射線を集中させることが可能になっています。それによって、高い治療効果が得られるようになってきました。さらに、周囲の正常組織に照射される線量が抑えられることで、副作用が軽減されています。こうした高精度放射線治療には、IMRT(強度変調放射線治療)やVMAT(強度変調回転放射線治療)といった方法があります。

これらの技術が登場する以前から、3D-CRT(3次元原体照射)と呼ばれる治療法がありました。いくつかの方向から照射することで、病巣部に放射線を集中させる治療法です。とくにマルチリーフコリメータの登場により、病巣の形に合わせた照射口を作れるようになったことで、かなり正確な形で照射できるようになりました。マルチリーフコリメータは、何枚もの金属の板がスライドすることで、病巣の形に合わせた窓を作ることができます(図1)。

「3D-CRTでも、腫瘍の形に合わせた照射口から放射線を照射できましたが、あくまで均一な線量のビームでした。ビームの線量分布を細やかに調節することはできなかったのです。そこを改善し、不均一な線量のビームを照射できるようにしたのがIMRTです(図2)。不均一な線量のビームを多方向から照射し、それを重ね合わせることで、線量を高めたい部分は高め、正常臓器のある部分では線量を下げる、ということが可能になりました」(吉村さん)

放射線を照射している間にマルチリーフコリメータが動き、窓の形を変えることで、不均一な線量のビームを照射することが可能になっています。窓の開いている時間が長い部分では線量が高くなり、開いている時間が短い部分は線量が低くなるのです。

「IMRTでは、治療器が患者さんの周囲を動き、5~9方向から照射します。それによって放射線を腫瘍に集中させるのです。IMRTをさらにもう一歩進化させた治療法がVMATです。治療器が患者さんの周囲を回転して行きながら、放射線を照射するのですが、その間、マルチリーフコリメータは複雑に動き続け、最適な線量分布を実現してくれます」(吉村さん)

IMRTもVMATも、コンピュータによってマルチリーフコリメータの動きが計算され、標的に適切な線量の放射線が照射されるようになっています。そのため、このような高精度放射線治療は、放射線治療医だけでは行えず、「医学物理士」と呼ばれる専門職の存在が必要になります。

「VMATは回転しながら放射線を照射し続けることで、IMRTより自由度が高まって、さらに良好な線量分布を実現できるようになりました。腫瘍に照射される放射線の線量をより高くし、正常臓器への照射はより避けられるようになったのです。VMATのもう1つのメリットは、治療時間が短いことです。IMRTのように1回ずつ止まって照射するのではなく、回転しながら照射していくため、短時間で終わるのです。IMRTは照射に5~15分かかりますが、VMATだとわずか数分。治療中、患者さんはじっとしている必要があるので、時間が短縮されたことで、治療に伴う患者さんの負担は軽減されたと言えるでしょう」(吉村さん)

所属リンパ節領域への照射で

乳がんの治療で、IMRTやVMATといった高精度放射線治療が行われるのは、主に所属リンパ節領域への照射が必要な場合です。再発リスクの高い症例では、所属リンパ節領域にも照射する必要があるため、複雑な照射野となり、そのような場合に使われることが多いのです。乳房温存手術後の全乳房照射のように、乳房にだけ照射する場合には、3D-CRTが行われることが多く、IMRTやVMATは普通使われません。

「乳がんの治療でリンパ節領域への照射といえば、鎖骨の上のリンパ節領域と胸壁/乳房が対象となります。この2つの領域に3D-CRTを行う場合、同じ角度では照射できないので、2つの部分に分けて照射することになります。そうすると、 『つなぎ目に線量の足りない部分ができてしまう』ということが起きていました。ところが、IMRTやVMATでは、首のつけ根から胸壁までいっぺんに照射できるので、つなぎ目の線量低下が起きないのです」(吉村さん)

また、3D-CRTでリンパ節領域に照射した場合には、ターゲットの形状より広い範囲に照射されてしまい、肺や心臓に放射線が当たるのを避けることができません。ところが、IMRTやVMATのような高精度放射線治療なら、ターゲットの形状に合わせた照射が可能で、肺や心臓への高線量領域を大幅に低減することが可能です(図3)。

もう1つ、IMRTやVMATには、線量分布の均一性という特徴もあります。

「3D-CRTですとビームの線量を細かく調整できないため、どうしても照射野内に線量の高い部分と低い部分のムラができてしまいます。それに比べ、IMRTやVMATでは照射野の線量分布を均一にすることができるため、温存乳房の整容性が良好であったという報告もあります」(吉村さん)

IMRTやVMATは優れた治療法ですが、どこの病院でも受けられるわけではありません。放射線治療医や医学物理士が不足していることに加え、治療機器や計算ソフトが高額であることも影響し、行っている医療機関が限られるのです。現在の段階では、大学病院、地域の基幹病院、がんセンターなど、ハイボリュームセンターと呼ばれる病院を中心に治療が行われています。