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インプラント乳房再建の保険適用から1年 根治性と整容性(美容性)の両立が課題

監修●土井卓子 湘南記念病院かまくら乳がんセンター長
取材・文●町口 充
(2014年10月)

「形成外科医と十分なコミュニケーションを取ることが大切」と
語る土井卓子さん

お腹や背中など自家組織を移植する乳房再建のみに認められていた保険適用が、シリコンなどのインプラント(人工物)にも認められるようになって1年が経過した。保険適用が追い風となって乳房全摘+再建手術を希望する人が増えていて、患者さんの喜びは大きいが、同時に根治性と整容性(美容性)のどちらを優先させるかなどの課題も浮かび上がっている。

今年1月から件数が急増の理由

乳がんで全摘手術を受けて失った乳房を取り戻すのが乳房再建。体の一部を移植する自家組織による再建と、インプラントによる再建の2つの方法があり、インプラントでの再建では、事前にティッシュエキスパンダーと呼ばれる皮膚拡張器(シリコン製の風船のようなもの)を挿入して、皮膚と筋肉を十分に膨らませたあと、柔らかいシリコンのインプラントに入れ替える。

このうち、自家組織による再建と、インプラントでの再建のエキスパンダー挿入までは保険が認められていたが、最終的なシリコンの差し替えは保険が効かず、高額になるため再建を諦める人が多かった。

図1 アナトミカル型(しずく型)エキスパンダー(左)と
シリコンインプラント(右)

ようやく昨年(2013年)7月、米国アラガン社のラウンド型(丸型)インプラントが保険適用になり、さらに今年1月には、小ぶりな日本人の乳房に合っているといわれる同社の最新タイプのアナトミカル型(しずく型)も保険適用となって、「再建を希望する患者さんが一挙に増えました」と語るのは湘南記念病院かまくら乳がんセンター(神奈川県鎌倉市)の土井卓子センター長(乳腺外科医)。

2011年8月から今年7月までの3年間でみると、同センターでの再建手術は62例。内訳は、2013年6月までの約2年間が22例だったのに対して、13年7月以降の1年間だけで40例に達し、急激な伸びを示している。とくに、今年1月にアナトミカル型のインプラントが保険適用になってからの伸びは著しいという(図1)。

「再建には2つのケースがあり、1つは、全摘手術後に再建したかったけれども、自費で手術するのは100万円ぐらいかかるので諦めていたところ、保険適用になったのを機に再建に踏み切ったというケース。もう1つは、乳房温存手術にするか、全摘+再建手術にするか迷っていた人が、今回保険適用されたアナトミカル型ならきれいな乳房が作れるというので、無理して温存にするよりは全摘+再建を選んだというケース。ラウンド型が保険適用されるようになってからもそこそこ増えてきましたが、再建を希望する人が一挙に増えたのはアナトミカル型が認められてからです」

ラウンド型はお椀のような形をしていて、お椀型の乳房には自然に見えるのに対し、垂れた乳房にはアナトミカル型のほうが自然に見えるため、日本人女性の胸に合っていることが人気となって、同センターでも今年1月以降の乳房再建はすべてアナトミカル型だという。

根治を取るか美しさを取るか?

問題は、再建手術をすれば誰もがきれいで美しい乳房を手に入れられるかどうかだ。

というのも、乳がんの治療では何より根治性、つまり治ることが目標となるが、かつての全摘手術では、根治性の追究のため、局所再発率を下げようと大きく広く切除するのが普通だった。疑わしいものはすべて切除するという考えのもと、大・小の胸筋やリンパ節も含めて乳腺を取り囲む組織をすべて除去するハルステッド手術というのが行われていたが、これでは再建は困難であり、今はあまり行われていない。

最近行われるようになっている全摘手術は、胸筋は残してそれ以外の乳腺を含む乳房を切除する乳房全摘術(胸筋温存乳房全摘術)、皮膚や乳輪、乳頭を残して乳腺だけを全摘する皮下乳腺全摘術などで、いずれも再建が可能だが、とくに向いているのが皮下乳腺全摘術。これはいわばメロンの中身だけを取り出して皮だけ残すみたいなもので、後で再建しやすい。

こうした手術が主流になってきた背景には、大きく切っても小さく切っても生命予後は変わらないことが、大規模な臨床試験の結果わかってきたことがあるだろう。

しかし、小さく切るのも限度があり、整容性、つまり再建した乳房の見た目の美しさ求めるあまり、手術で小さく切った結果、がんの取り残しがあっては元も子もない。

土井さんは次のように語る。「再建がしやすいように皮膚を厚く残すと再建したときはきれいになりますが、例えば皮下組織と乳腺をつないでいるクーパー靱帯まで皮膚側に残したりすると、がんが残る確率が高くなってしまいます。逆に、取り残しがないようにと皮膚を薄く剥いても、剥き方が悪いとせっかく再建しても皮膚が破れたりすることがあります。再建すればだれでもきれいにできるかというと、必ずしもそうではないのが問題です」