1次、2次治療ともに免疫チェックポイント阻害薬が登場 進行・再発子宮頸がんの最新薬物療法
子宮頸がんの薬物療法が進歩しています。臨床試験では全生存期間の延長を示した免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダが、2022年に1次治療で使用できるようになりました。さらに、2023年になると、2次治療で同じく免疫チェックポイント阻害薬のリブタヨが使用できるようになりました。従来の単剤化学療法に比べ、全生存期間を延長する効果が認められています。進行・再発子宮頸がんの最新薬物療法について、静岡県立静岡がんセンター婦人科部長、平嶋泰之さんに解説してもらいました。
キイトルーダの登場で生存期間はどれくらい延びたのですか?
子宮頸がんの再発が見つかった場合、あるいは発見された時点で進行がんであることがわかった場合、基本的には薬物療法が行われることになります。その際の標準治療は、この10年ほどで次々と新しくなってきました。静岡県立静岡がんセンター婦人科部長の平嶋泰之さんにどのような薬剤が使われてきたのかを、まず解説してもらいました。
「2014年までは、シスプラチン+パクリタキセルといった抗がん薬の併用療法が、初回治療の標準治療とされていました。また、推奨レベルが少し下がるのですが、カルボプラチン+パクリタキセルの併用療法も、標準治療とされていました。シスプラチンとカルボプラチンは、どちらもプラチナ(白金)製剤です。シスプラチンは腎臓へのダメージが大きい薬剤なので、腎機能に問題がある患者さんなどには、カルボプラチンが使われます」
2014年になると、この2剤併用療法に、分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)を加えたほうが治療成績が向上することがわかりました。
「2014年からは、シスプラチン(あるいはカルボプラチン)+パクリタキセル±アバスチンという併用療法が、1次治療の標準治療となっています。日本ではこれが2022年まで続きました」
2022年になると、新たな薬剤が加えられることになりました。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)です。つまり、シスプラチン(あるいはカルボプラチン)+パクリタキセル±アバスチンに、キイトルーダを加えた併用療法が、進行・再発子宮頸がんに対する1次治療の標準治療となったのです。
「現在では、キイトルーダを加えたこの併用療法が、最も効果が高いと考えられています。この併用療法の有効性と安全性を証明したのが、KEYNOTE-826試験。2021年に論文にまとめられていますが、非常に注目を集めた臨床試験結果でした」(図1)
KEYNOTE-826試験は、進行・再発子宮頸がんの患者さんを対象とし、シスプラチン(or カルボプラチン)+パクリタキセル±アバスチン+キイトルーダを併用する「キイトルーダ群」と、キイトルーダの代わりにプラセボを加えた「プラセボ群」に割り付けて行われた第Ⅲ相ランダム化比較試験です。
結果は、プラセボ群の全生存期間の中央値が16.8カ月だったのに対し、キイトルーダ群では26.4カ月でした。それまでの標準治療にキイトルーダを加えることで、全生存期間が10カ月間延長し、2年を超えることになったのです。
「日本では2022年からキイトルーダが使われるようになったのですが、それによって子宮頸がんの薬物療法は大きく進歩したと言えるでしょう。静岡がんセンターでも使い始めていますが、まだ1年余りですから、生存期間が延びたという実感は残念ながらまだありません。それを感じるのは、たぶんこれからだと思います。ただ、実際に治療に使ってみて、奏効率が高いという印象はあります」
進行・再発子宮頸がんの1次治療は、免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダが加わることで、新しい段階に入りました。
進行・再発子宮頸がん1次治療終了後の再発に対する治療は?
1次治療で行われるシスプラチン(or カルボプラチン)+パクリタキセルの治療は、6サイクルで終了します。キイトルーダ登場以前なら、アバスチンを加えていない人はそこで薬物療法はいったん終了していました。
2022年以降、キイトルーダを併用した人は、シスプラチン(or カルボプラチン)+パクリタキセル終了後も、キイトルーダは継続します。
1次治療でがんを押さえ込むことができたとしても、多くの場合、押さえ込まれていたがんが再び増殖し始め、再発が起こります。このときどのような治療が行われるかは、再発が起こるまでの期間が考慮されます。
日本からの報告では、1次治療が終了してから再発までの期間が7カ月以上経っているか、7カ月未満かでプラチナ併用療法をもう一度行ったときの効果が異なると報告されています。
「再発まで7カ月以上経っている場合には、1次治療がある程度効果があったと考えられるので、2次治療としてもう一度プラチナ併用療法を行うことも選択肢にあがります。『再発までが7カ月以上なら、プラチナ併用療法をもう一度行うと、全生存期間は20カ月程度ですが、7カ月未満の場合は全生存期間は10カ月程度になる』という後ろ向き研究のデータがあるからです」
一方、再発までの期間が7カ月未満だった場合には、1次治療があまり効いていなかったと判断されます。
これまで2次治療の標準治療とされていたのは、単剤化学療法でした。抗がん薬を1種類だけで使用する治療法です。日本では、進行・再発子宮頸がんに単剤で使用できる薬は、イリノテカンとパクリタキセルでした。
2次治療に新登場の薬リブタヨとは?
2次治療になると、使用できる薬が少なかったのですが、2023年に新しい薬剤が2次治療で使用できるようになりました。免疫チェックポイント阻害薬のリブタヨ(一般名セミプリマブ)です。キイトルーダと同様の抗PD-1抗体で、免疫細胞表面のPD-1に結合することで、免疫細胞ががん細胞に対して免疫力を発揮できるようにする働きがあります。
リブタヨの有効性と安全性を証明した臨床試験は、EMPOWER Cervical-1試験です。国際的な第3相ランダム化比較試験で、日本も参加して行われました。対象となったのは進行または再発の子宮頸がんで、すでにプラチナ製剤を含む1次治療を終え、2次治療を始める段階にある患者さんです(図2)。
試験では、リブタヨを単剤で投与する「リブタヨ群」と、抗がん薬を単剤で投与する「化学療法群」での比較が行われました。化学療法群で投与された抗がん薬は、イリノテカン、トポテカン、ペメトレキセド、ビノレルビン、ゲムシタビンで、治験に参加した医師が選択した薬剤が投与されました。
「日本で2次治療に使える抗がん薬はイリノテカンとトポテカンですが、この臨床試験は国際共同試験なので、日本では承認されていない抗がん薬も使われています。2次治療の単剤化学療法で何が一番有効なのかを証明した試験がないので、こうした対照群となっているわけです」
EMPOWER Cervical-1試験の結果、全生存期間中央値は、「化学療法群」が8.5カ月だったのに対し、「リブタヨ群」は12.0カ月に延長していました。2次治療でありながら、全生存期間中央値が1年に達していたのです。また、ハザード比は0.69で、死亡リスクを31%低減することが明らかになりました。
「これまで2次治療には単剤化学療法しかなかったことを考えると、リブタヨの登場は大きな一歩と言えるかもしれません。しかし、2次治療でリブタヨが活躍できるのは、わずかな期間に限られるかもしれません」