手術する場合には腹腔鏡手術、手術のリスクの高い人や高齢者にはラジオ波焼灼治療がメインに
選択肢が増えてきた腎がんの低侵襲療法はこうやって選ぶ
京都府立医科大学大学院
医学研究科泌尿器外科学准教授の
河内明宏さん
これまでは、腎がんにかかると手術によって腎臓を全摘出するのが標準治療となっていた。
だが、できるだけ腎臓の機能を残す治療法が主流になりつつあることを受けて、初期の腎がんに対しては体に負担の少ない低侵襲療法が注目され、さまざまな低侵襲療法が積極的に試みられるようになっている。
これまでは全摘出が一般的だった
腎がんの治療法としては従来、外科療法が主流となってきた。
手術以外の腎がんの治療として、がんを兵糧攻めにして退治するために腎臓に行く動脈を詰める「動脈塞栓術」や、インターフェロン、インターロイキン2などを用いる「免疫療法」などが行われることもあった。しかし、これらの治療法の腎がん原発巣に対する有効率が高くないため、実際には、ほとんどの腎がんの治療では外科療法が選択されている。
「がんの病期にかかわらず、摘出できる場合は腎臓の全摘出手術を行います。副腎も含めてその周辺の筋膜ごと腎臓を摘出する方法が一般的です」
こう説明するのは、京都府立医科大学大学院医学研究科泌尿器外科学准教授の河内明宏さんだ。
どんな腎がんであっても全摘出していた理由について、河内さんは次のように述べる。
「腎臓は左右に2つあるので、1つを摘出しても人工透析が必要となるような腎不全に陥ることはまずなかったし、腎臓のみを摘出する手術に合併症はあまりなかったからです。また、腎臓は非常に血流が豊富で、部分切除をすると大量の出血が起こる可能性があるなど、手術が難しい臓器ということで、安全を考えて全摘出が行われてきました」
予後は開腹手術と変わらない
腎がんを全摘出する場合、これまでは一般に開腹手術によって行われてきた。しかし、開腹手術では体に大きな創を作ることになるため、患者は重い負担を強いられる。術後に痛みや炎症を伴うことが多く、合併症や後遺症が起こることもある。
そこで、近年着目されるようになったのが、手術や検査に伴う体の負担を抑えた「低侵襲療法」だ。手術創が小さくてすむ内視鏡手術はその代表格といえるだろう。
これまでの研究によれば、腎がんの場合、内視鏡手術と開腹手術では予後に(*)差はなく、内視鏡手術のほうが開腹手術よりも出血量や痛みが少なく、回復も早いという結果が出ている。現在、腎がんを全摘出するための低侵襲療法としては、内視鏡手術である「腹腔鏡下根治的腎摘除術」が幅広く行われるようになってきた。
診断技術の発達などによって、最近では、がんがそれほど進行していない段階で、小さな腎がんが発見される機会が増えている。河内さんによれば、それに伴って、腎臓の全摘出でなく、部分切除を行うケースが多くなっているという。
「これまでは小さな腎がんでも全摘出が基本だったわけですが、最近の論文で、腎臓を完全に除去してしまった場合と残した場合では“健康に長生きできるかどうか”、言い換えるなら、生命の維持に関するQOL(生活の質)や生存期間自体に差があり、腎臓を残すほうが良いことがわかったのです。そこで、できるだけ腎臓を温存する手術を行うようになりました」
*予後=今後の症状の医学的な見通し
標準治療となりうる腹腔鏡手術
腎がんの腎温存療法でも、低侵襲療法が行われるようになってきている。これは、全摘出と同じように、低侵襲療法と開腹手術では予後に差がないことがわかってきたからだ。腎温存療法の主な低侵襲療法について、河内さんは次のように解説する。
「低侵襲療法には、大きく分けると腹腔鏡下腎部分切除術と経皮的局所療法があります。経皮的局所療法にはラジオ波焼灼治療(RFA)、凍結療法などがあります」
腹腔鏡下手術は、これまでは腹部を切って腎臓を摘出していたものを、5~10ミリ程度の小さな穴を数カ所開け、そこから内視鏡を挿入して摘出する手術。最近では腹腔鏡下手術を選択する医療機関が増えている。
「腹腔鏡下手術は、腹部を大きく切らないため、患者さんへの負担が小さいうえに傷も目立たちません。ただし、内視鏡による腎部分切除は技術的に難しいことから、術者、あるいは手術チームは経験を積むことが必要です」
実際、腎部分切除術においては出血を少なくするために腎動脈を一時的に遮断する。その後、腫瘍を切除し、尿漏れや出血がないように切断端を縫合した後、遮断を解除する。この遮断時間に制限があり、30分以内が理想的で、長くても1時間以内とされている。
「この手術では体内で縫合するという難しい操作が必要なうえに、時間制限もあり、泌尿器科の腹腔鏡手術では最も難しい手術です」
京都府立医大では症例も100例を超え、技術的にも安定してきており、ほとんどの症例で遮断時間が25分前後になっているという。また、再発や転移した症例も認められていない。
「今後、4センチ以下の腎がんの標準治療法の1つとなる手術法であると思います」
腹腔鏡下手術 (122例) | 開腹手術 (70例) | p値 | |
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手術時間(分) | 207 | 230 | 0.05 |
出血量(ml) | 193 | 462 | 0.001 |
術後食事開始日 | 2.0 | 2.7 | 0.04 |
術後歩行開始日 | 2.0 | 3.6 | 0.03 |
鎮痛剤使用量(mg) | 17.7 | 35.1 | 0.01 |
合併症発生率(%) | 6 | 8 |