進行・再発食道がんに対する化学治療の最新知見 免疫チェックポイント阻害薬登場により前途が拓けてきた食道がんの化学療法
進行・再発食道がんに対する化学治療において、大きなトピックがある。2019年1月、解析終了した「ATTRACTION-3」という臨床試験の成績結果、免疫チェックポイント阻害薬の*オプジーボ(一般名ニボルマブ)が、2次治療において、従来のタキサン系の抗がん薬に対し有意に全生存期間(OS)を延長したことから、5月に承認申請が行われた。「ATTRACTION-3」試験と、今後の食道がんの化学療法の展望について、国立がん研究センター中央病院消化管内科医長の加藤健さんに伺った。
食道がんにやっと新しい治療薬が
全身に進行・再発した食道がんは、局所療法である手術や放射線療法よりも、治療の主体は全身療法である化学療法が選択される。現在、化学療法における1次治療の標準治療は、*5-FU(一般名フルオロウラシル)と*シスプラチン(商品名ランダ/ブリプラチンなど)の2剤併用だ。
がんが縮小する奏効割合は30%前後、生存期間中央値は6.6カ月〜9.5カ月というデータにより標準治療として認められている。
この2剤による1次治療の効果がない、あるいは一旦効果があっても、効果がなくなった場合には、2次治療として、*タキソテール(一般名ドセタキセル)、*タキソール(同パクリタキセル)というタキサン系の薬のどちらかを投与する。そして、これらの薬では、約3割でがんの縮小が見られ、半年ほど延命できるというのが現状だ。
そんな中、近年大きな話題となっている免疫チェックポイント阻害薬の、抗PD-1抗体であるオプジーボが、食道がんの領域においても、治療導入の期待が高まっている。
オプジーボは2018年、この薬剤開発のもとになる研究に従事した本庶佑・京都大学特別教授のノーベル医学・生理学賞受賞で、一般にも広く知られるようになった。今やがん種を超えてその有効性が広がっており、実臨床においては、メラノーマ(悪性黒色腫)を皮切りに、現在までに7疾患(メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫)で保険承認され、食道がんも現在承認申請中だ。いよいよ保険承認の可能性が見えてきた(図1)。
第3相試験の結果、オプジーボが承認申請に
「承認申請された理由は、2019年に解析が終了した『ATTRACTION-3』第3相試験の結果が、オプジーボの有効性を有意に証明できたためです。この試験は日本、韓国、台湾というアジアの国々を中心に欧米の国々も参加して行われました。
日本からは40施設が参加していて、全体の7〜8割を占めています。アジア人では95%を占める扁平上皮がんという組織型である進行・再発食道がんの患者さんを対象にした試験です」(図2)
そう説明するのは、国立がん研究センター中央病院消化管内科医長の加藤健さんだ。
「初回治療の5-FUとシスプラチンの2剤による治療が不応となった400例を登録して、2次治療として従来使われてきたタキサン系の投与群とオプジーボ投与群に割り付けて比較した結果、オプジーボ投与群が有意に全生存期間を延ばしました。
その結果を踏まえて、5月に承認申請に至ったわけです。現在、この試験の結果については、改めて細かく解析して、9月に行われる欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、具体的な結果について報告する予定です」
加藤さんは日本食道学会の『食道癌診療ガイドライン』のガイドライン検討委員会の委員であり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の食道がんグループの主任研究員の1人だ。
「ATTRACTION-3」の結果を踏まえ、2020年には保険承認されることが期待されている。そうすれば近い将来、2次治療はオプジーボを選択するということがガイドラインにも明記されることになる。患者にとって大きな福音となるだろう。
「2次治療でオプジーボが使えるようになると、もし奏効しなかった場合でも、さらに3次治療でタキサン系の薬剤を使えるということになります。そうするとさらに生命予後を延ばしていくことができるでしょう。今後は、おそらくその他の薬剤との併用療法もできるようになっていくでしょうから、治療の組み合わせがどんどん増えて、さらに全体の生存期間を延ばすことが期待できます」
一方、従来、1次治療として行ってきた5-FUとシスプラチン2剤併用の治療についても、現在、オプジーボを併用して投与する群と従来通りの2剤併用のみの群、そしてオプジーボに*ヤーボイ(一般名イピリムマブ:抗CTLA-4抗体)というもう1剤、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた群での比較試験が進行中であり、2019年中に登録が終了する予定だという。この試験の結果どうなるかについても大いに期待したいところだ。
「食道がんは、なかなか新しい薬が生まれてこない領域でしたが、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、一気に大きく進歩していくことができると考えています」