肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 6

子どもが産めなくなり離婚に。慰謝料の中に治療費を組み込めるか

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
(2010年1月)

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


卵巣がんが見つかり、夫と離婚することに。理由は夫が親から、子どもの産めない女と結婚していてもしょうがないと言われたようです。金額は決まっていませんが、慰謝料をもらうことでは合意済です。専業主婦だったため治療費用が不安。慰謝料の中に、当面の治療費を組み込むことは可能でしょうか。

(30代、女性)

もし離婚裁判に持ち込むなら、完全勝訴

あなたのご質問を読んで、上杉景勝の妻「お菊の方」を思い出しました。昨年、NHKが放映した大河ドラマ「天地人」で、つい先日、子のできないお菊の方が夫・景勝に側室を置いてくださいと懇願しながら、自らは労咳(結核)で死んでゆく、というシーンを観ました。

当時、女性はもっぱら子どもを産む役目(そういえばどこやらに女性は子どもを産む機械だと発言して大顰蹙を買った大臣がいましたっけ)でした。

たくさんの子どもを産んで家名を絶やさぬようにする、というのが、戦国時代・江戸時代の武家のしきたりであり、最大の生き残り術であり、それ故、正室に子が無ければ側室を置くのは当たり前。とはいえ、これは今から約450年も前の話です。

ただ明治になっても、家制度が残っておりましたので「お家大事」「家名大事」「お世継大事」という価値観が庶民のなかにもあったことは確かです。

でも、今は21世紀。家制度が無くなってすでに60余年。家族の価値観は、「家」から「人」へと移行し、子どもを産む、産まないは女性自身の自己決定権として確立されました。それなのに……何ですか、「子無きは去れ」ですって? 時代錯誤もはなはだしい!!

おそらく、あなたのお姑さんは戦国時代のお生まれなんでしょうね。そのお姑さんの意見に従って、唯々諾々とあなたに離婚を迫るお連れあいも救い難い「マザコン野郎」ですね。もしも離婚裁判に持ち込むなら、そんな理由で離婚が認められる訳はありませんから、完全にあなたが勝訴します。

ただ、あなた自身、すでに離婚を決心しておられるご様子、それはおそらく、その不甲斐ないマザコン野郎とその背後にいる戦国幽霊にあなたのほうが愛想を尽かしたからでしょう。あなたご自身の長い人生を考えた場合、多分それは賢明な選択であろうと思います。

だったら、ここはどうぞ慰謝料も治療費も存分に請求してください。そもそも理不尽な要求を呑んであげるのですから、相場はありません。治療に要する期間の生活費、入院、通院諸雑費もどうぞ請求してください。

この質問を読んで、いまどき、そんな理不尽な! と私は腹が立ったのですが、でも最近同じような話を時々聞きます。

私自身が担当したケースでも若夫婦の家族から孫を無理やり取り上げて、返さない老夫婦がいました。このケースでは家庭裁判所に「子の監護者指定」の申立をし、裁判所の審判で子どもを返してもらいました。うがった見方をすれば、少子高齢社会のひずみの一面ではないか、という気がします。高齢者が自分の生きが いを孫に求める、孫にしか生きがいを求められない一種の老害ではないか、という気がしてきたのです。

だとすれば、こんなことがたびたび起きることのないよう、別途老人の生き甲斐対策を講じなければなりませんね。