黒田尚子のがん節約術
がん患者も、要件を満たせば公的な障害年金を受け取ることができます
がん患者やそのご家族にとって、がんとお金に関する不安や問題を少しでも解消し、治療に専念できる手助けになればと考えています。
黒田尚子(くろだ なおこ)
1992年大学卒業後、大手シンクタンク勤務中にFPの資格を取得。1998年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。
Q:がん患者でも障害年金は受け取れますか?
1年前に下咽頭がんと診断され、喉頭も一緒に全摘出、声を出すことはできなくなったものの、発声をしやすくする手術を行い、なんとか職場にも復帰しました。治療中は、会社を休まなければならず、その間は傷病手当金などを利用していますが、このまま今の職場で働き続けるのは難しいと考えています。そんなとき、がん患者でも障害年金を受け取れると聞いたのですが、本当でしょうか?
(50代 男性)
A:要件を満たせば受け取ることができます。
声が出せず、自分の意思をなかなか伝えられなくなるなんて。そのつらさやストレスはきっと想像以上でしょう。
さて公的な障害年金は、病気やけがで生活や仕事に障害が生じた場合、本人や家族の生活を保障するために支給されるもの。一時金ではなく年金ですので、受給できれば強い味方となります。
障害年金の受給要件は①初診日(その傷病で初めて医師の診察を受けた日)に国民年金・厚生年金の被保険者である②障害認定日(初診日から起算して1年6カ月経過した日か、それまでに治った日のいずれか早い日)に一定の障害等級(1級~3級)を満たしている③保険料納付要件を満たしている、この3つです。
このうちやはり問題となるのは、②の障害の状態が該当するかでしょう。
がんによって障害年金が受け取れる基準は「国民年金・厚生年金保険障害年金基準」に定められています。
そして咽頭がんや舌がんなど言語機能の障害や、そしゃく・嚥下機能の障害については、別途規定があり、「喉頭全摘出手術」は、次のとおりになっています。
ア:手術を施した結果、言語機能を喪失したものについては、2級と認定する。
イ:障害の程度を認定する時期は、喉頭全摘出手術を施した日とする。
つまり、喉頭全摘出して声が出せなくなると、原則として障害年金2級に該当します。
さらに喉頭全摘出手術を受けた日が、初診日から1年6カ月前にあるときは、その日が障害認定日となるため、請求するのに、わざわざ1年6カ月を待つ必要はありません。
障害年金は、加入先によって障害基礎年金(国民年金)と障害厚生年金(厚生年金)、障害共済年金(共済年金)があり、会社員であるご相談者が障害等級2級に該当すれば、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が受給できます。
障害基礎年金の金額は一律で、1級約98.3万円、2級約78.6万円。障害厚生年金は、給与額によって異なり、最低でも保障額として58・9万円が支給されます(平成24年度価格、3級の場合)。
いずれにせよ、ご相談者のように、一定の条件に該当する場合は障害年金の受給が認定される可能性は高いのですが、一見、日常や仕事になんの支障もないように見えるがん患者は、認定されにくいのが現状といえます。