同じ悩みを持つ仲間や医療者がサポート
リンパ浮腫について知ろう、語ろう、「リンパカフェ」
乳がんや婦人科がん治療の後遺症の1つであるリンパ浮腫。残念ながら完治は難しいが、日常生活での注意やケアの仕方次第で良好な状態を保つことができる。がん研有明病院(東京都・江東区)では、リンパ浮腫に悩む患者が集まり、サバイバーや医療者も交えて意見交換を行う「リンパカフェ」が定期的に開催されている。どのように患者をサポートしているのだろうか。
婦人科がん、乳がんのリンパ節郭清のあとに発症が多い
リンパ浮腫とは手術でリンパ節を郭清したり、放射線照射でリンパ液の流れが閉塞したりすることによって、リンパ液が滞るために発症するむくみ(浮腫)のこと。乳がんでは腕に起こることが多く、婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)や男性の前立腺がんでは脚に起こることが多い。リンパ節郭清を受けたすべての人に起こるわけではないが、一度発症すると完治は難しい。
がん研有明病院の看護師、田端聡さんは同院のリンパケアルームに勤務し、リンパ浮腫患者の治療に日々携わっている。田端さんは言う。
「当院では、術後3カ月くらいまでは一時的な浮腫(むくみ)と考えますが、2~3割の患者さんに慢性的な浮腫が起こります。発症の時期は人によって異なり、婦人科がんでは治療後1年以内が多く、乳がんでは治療後2~3年以内が多いと言われています。前立腺がんでは発症が1割と少ない上、ズボンを着用しているため医療者が発見しにくく、男性は女性に比べると浮腫に馴染みがないこともあるからか、早期に受診される方と、重症化してから受診される方に二極化している印象を受けます」
国際リンパ学会の定めるリンパ浮腫の進行度は(表1)のようになっている。今年(2016年)の4月からリンパ浮腫の複合的治療(リンパドレナージ[リンパマッサージ]、圧迫療法、運動療法、スキンケア、日常生活指導などを組み合わせた治療法)に保険が適用されるようになった。これまでは自由診療だったため、進行度は1つの目安に過ぎなかったが、今後は事情が変わりそうだと田端さんは指摘する。
「Ⅰ(I)期以降の軽症群とⅡ(II)期晩期以降の重症群とでは、治療の内容や回数が違ってくるため、今後は医師によるきちんとした診断が必要になると思います。また、重症群では年20回程度、1回40分程度の指導やケアを受けられますが、軽症群では6カ月に1回で、1回20分程度です。しかし、軽症群の中にも腕や脚の太さに左右差があり、毎月受診されている患者さんもいます。当院ではリンパ浮腫の重症群は全体の5%で、軽症群が95%を占めています。大多数を占める軽症群の患者さんたちをどうカバーするか、治療の現場ではしばらく混乱するのではないかと思います」
症状を見極めながら 生活の質を保つことが大切
これまでリンパ浮腫の保険適用は、乳がんや婦人科がんの手術前後の指導と、症状の改善に必要な弾性着衣(ストッキングなど)の療養費のみだった。ケアに対して保険が適用されたことは大きな一歩といえる。ただし、田端さんは次のように述べる。
「リンパ浮腫で理解しておきたいのは、完治が難しいということです。ですから、むくみを何cm減らすことだけを目標にするのではなく、生活に支障がないようにする工夫やケアが重要です。
例えば、リンパ浮腫になると荷物を持たない方がいますが、それでは生活していく上で困るし、かえって筋力が落ちる原因にもなりかねません。荷物を2つに分けて、軽いほうを浮腫のある腕で持つとか、レジ袋を腕にひっかけたりしないことなど、腕に負担をかけないコツはいろいろあります。自分の腕と相談しながら、できることを見極めていくことが大切なのです」
リンパ浮腫が起こらないかと過剰に心配する患者や、誤った情報をつかんでいる患者も少なくない。
「『リュックサックを背負ってもいいですか?』と患者さんに聞かれたとき、『基本的にしてはいけないことは何もありません。しかし腕のリンパ浮腫の場合、引っ越しや大掃除、介護などのときは気をつけたほうがいいです。もし、むくんでしまったら、受診のタイミングと考えましょう』と話しました。また、脚のリンパ浮腫では、正座や草むしりに注意が必要です。それを伝えたら、『ガーデニング用にいすを用意した』という患者さんがいました。正しい情報をもとに、患者さん自身が考えたり、行動することがきるようになれば、リンパ浮腫への不安も解消できると思います」
医療者と患者の垣根をなくすために
多くの患者さんにリンパ浮腫と上手に付き合ってもらうため、がん研有明病院のリンパケアルームで月に一度開催しているのがリンパカフェだ。
がん研有明病院はもともとリンパ浮腫対策に力を入れている医療施設の1つで、リンパ浮腫専門の治療室がある。この治療室には、リンパケアルームとリンパ浮腫外来があり、リンパケアルームは複合的治療やセルフケアの指導などを行う。
リンパ浮腫外来は、当院婦人科副部長でリンパ浮腫治療室長でもある医師の宇津木久仁子さんが、リンパ浮腫の診断や、リンパ浮腫に対する手術療法(リンパ管静脈吻合術)の適応についての診断や相談などを行っている。
リンパケアルームでリンパカフェが開催されるようになったのは、2014年3月。その経緯を田端さんは語る。
「リンパケアルームでは2012年から3回、リンパケア懇親会を開催しました。毎回50~60名の患者さんに集まっていただき、勉強会と体操の指導などを行いましたが、医療者側からのアプローチに偏りがちなのが課題になっていました。
そのころ、乳がんのサバイバーであり、一般社団法人キャンサーフィットネス代表の広瀬真奈美さんが、『医療者とサバイバーが垣根を壊し、共に取り組んでいけることがあるはず』と、サバイバーシップに関する活動をされていました。そこで当院でも広瀬さんと一緒に、リンパ浮腫のサポートグループである、リンパカフェを立ち上げたのです」
リンパカフェは一言でいうと、「リンパ浮腫の様々な悩みについておしゃべりをする会」。現在のところ、リンパケアルームに通院した経験のある患者のみを対象としているが、およそ20名の定員はいつも満員という盛況ぶり。いずれは、がん研有明病院の患者全体に対象を広げる予定だ。カフェでは、リンパケアルームの医療スタッフも参加し、協力する。さらに、サバイバーからなるボランティアの運営委員が、広瀬さんも含めて5名いる。