リンパ浮腫に悩む人の心と体の講習会
患者さんの側に立ったトータルケアに取り組む

取材・文:編集部
(2006年5月)

専門のリンパ療法士を招いてのリンパ浮腫マッサージ講習会

講習会風景

乳がん手術によるリンパ節郭清や放射線治療を行うと、ときにその部分のリンパ液が滞るようになり、体液のバランスをコントロールするリンパ管がダメージを受けやすい。その結果、体液がうまく循環されなくなって、腕・下肢などにリンパ浮腫を発症することがある。

これは手術を受けた人の30パーセントから40パーセントぐらいの割合で起こるという。

こうしたリンパ浮腫を水際で予防する、あるいは発症した後のケアを目的として、『リンパマッサージ講習会』を開催するのが、東京・南青山にサロンを構えるKEA工房である。

リンパドレナージ・セラピスト(リンパ専門療法士)を招いて定期的に開催するこの講習会は、一般の方向けと医療従事者向けに分け、いずれも大きな成果を挙げている。一般の方向けでは、リンパ浮腫の初歩的な説明から成り立ち、治療法、日常生活の注意点、弾性スリーブやストッキングの着け方、リンパマッサージの実践まで、2時間をかけて行う。

治療の現場を担う医療従事者向けには、専門の医師を講師に招いて高度な知識と実践を講義する。これにはがん専門病院の看護師さんも自らの意思で駆けつけ、治療の現場に役立てているという。

患者さんの社会復帰を願い、地道な活動が形になる

リンパ浮腫の厄介なところは、一度治っても体力が落ちたり発熱を起こしたりすることで、より一層リンパ浮腫が強くなり、何度も繰り返すことだ。

KEA工房代表取締役の澤井照子さんが言う。

「術後10年が経過して、体調が術前に近くなっても、たとえば布団干しなどで腕に思わぬ力が加わる、あるいは親の介護で全身に力が入ったことが原因で、ある日突然、腫れがひどくなるケースもあると聞きます。これらは女性として、あるいは家庭の主婦として避けられない最低限の労働でしょう。しかし、こうしたリンパ浮腫に悩まされ、社会復帰への道が閉ざされるのはとても残念なことです。

私どもは、もともとはブライダルドレス用のインナー(下着)専門メーカーです。15年ほど前から欧米のブライダルインナーを輸入し、併せて日本人の体型を研究し、日本人のドレス姿を最も輝かせるインナーの開発に携わって、独自のオリジナル商品を発表してきました。

その研究開発の過程で、乳がんを手術された方の術後の対応グッズが極めて少ないことを知り、ブレストフォーム(人工乳房)を使って手術前と同じ下着を身につけ、お洒落をしていただこうとの思いでスタートしたのがボディケア部門なのです」

2004年12月。乳がん術後のケア専門サロンを開設

乳がんの手術では女性の乳房を全部または一部を切除される。それによって受ける精神的なダメージは想像以上に大きいものがある。実生活の面でも様々な不都合が生じてくる。

そうした患者さんたちの悩みに正面から取り組み、2004年12月に日本で初めての術後ケア・インナー専門サロン(通称ピンクリボンフロア)を開設した。

「ピンクリボンフロアは、女性特有のがんを経験されたお客様専用のフロアです。完全予約制で、1人ひとりに合うインナーをご提供しています。そして、お帰りには装いも気分も新たに、青山の街を歩いていただく。それが私たちスタッフ全員の願いです」(澤井さん)

装いも気分も新たに歩いてもらう――オシャレの街・南青山の一角にサロンを構えたのも、代表の澤井さんほか、スタッフの願いが込められているのだ。

ピンクリボンフロア

プライバシーの保たれたフィッティングルーム(左)と講習会の会場となるピンクリボンフロア(右)

入院中、退院後の下着補正、正しい着け方を説明する講習会

下腹部圧迫用ガードル

ソフトフィットロング=下腹部圧迫用ガードル。弾性ストッキングとの併用も可能

下腹部圧迫用ガードル

ブラジャー+温存用シリコン入りパット=乳房温存手術で乳房を切除された人のためのブラジャー補正パット。1人ひとりに合わせた大きさ、重さに仕上げる。手持ちのブラジャーにも取り付け加工が可能

10数年以上前から、スタッフは全国のクリニックや病院へ訪問活動をしてきた。そして医療従事者のアドバイスを仰ぎ、乳がんの患者さんにも要望を聞き、「ニーズに合ったインナーを」を合言葉に試作を重ねてきた。そうした中から意匠登録、実用新案登録商品が出現した。

これらの活動の一環で『乳がん術後の下着フィッティング無料講習会・相談会』が誕生した。内容は下着・補正の仕方、大切さだ。正しい方法をとれば、左右の胸の重みのバランスがとれ、背骨の湾曲や肩こり・腰痛を防いでくれる。また、製品の説明・選び方や入院中・退院直後の下着の選び方、ブレストフォーム(人工乳房)や温存用パットの解説のほか、手持ちのブラジャー・パット等を持参すれば手直しなどもしてもらえるという。

「私たちは、これからもずっと患者さんの側に立ち、微力といえどもそれぞれの持ち場のスタッフが誇りを持って、商品はもとより精神的な支えにもなれるよう努力していきたいと考えています」(澤井さん)

病院では成し得ない、心のこもったトータルケアと、患者さんの側に立った商品提供を展開するKEA工房の今後に、さらに期待したい。


●株式会社KEA工房
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