どの時点で抗がん薬を変更すべきか迷っています

回答者●久保田 馨
日本医科大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野教授
(2020年5月)

私の妻のことでご相談です。2012年、肺腺がんステージⅡaと診断され、左下肺葉摘出。

2013年脳に転移し、ガンマナイフで治療。2014年肝転移でラジオ波焼灼(しょうしゃく)術(RFA)を受ける。2014年再度、脳転移しガンマナイフで治療。

2015年多発肺転移、卵巣嚢腫(のうしゅ)、腹膜播種(ふくまくはしゅ)で、8月からジオトリフ(一般名アファチニブ)服用。10月腫瘍縮小、11月より20㎎へ減量。2017年左卵巣摘出。

2019年よりCT画像やPETでは異常は認められていませんが、CEA腫瘍マーカーが50(ng/ml)まで上がってきました。現在、ジオトリフの耐性が出来てきたのでは、と様子を見ているところです。

2020年2月に国立がん研究センター東病院でセカンドオピニオンを受けたのですが、CEA腫瘍マーカーは確かに高いけれど、どの時点で判断するかは難しい。

免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合は、テセントリク(一般名アテゾリズマブ)、アバスチン(同ベバシズマブ)、パラプラチン(同カルボプラチン)、アリムタ(同ペメトレキセド)の併用を提案されました。PD-L1は陰性です。

CTやPETでの変化が見られない状態で、抗がん薬の変更で迷っています。来月のCEA腫瘍マーカーが上るようなら、免疫チェックポイント阻害薬の併用を考えていますが、どんなものでしょうか。副作用についても心配しています。

(70歳 男性 山梨県)

しばらくはジオトリフを継続したらいいでしょう

日本医科大学大学院医学研究科
呼吸器内科学分野教授の久保田さん

CEA腫瘍マーカーが50まで上昇しているのは、身体のどこかに腫瘍がある状態だと思います。腫瘍がかなり小さいためCTやPETで異常がみられないのでしょう。

今後の治療を考える場合、治療目標をどのように設定するかが重要です。がんの症状がなく、元気に暮らせる期間を長くすること、すなわち症状緩和と延命を目標とする場合は、現在のジオトリフ(一般名アファチニブ)を継続するのがいいでしょう。

化学療法は、これまで延命が目的と考えられてきました。免疫チェックポイント阻害薬は単独でも15%程度の長期生存の割合があります。

化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用に関しては、まだ長期生存の結果が出ていないので、Ⅳ期肺がんに根治(こんち)の可能性があるのか、あるとすればどの程度の割合なのかに関する確たるデータはありません。現時点では、根治も期待されるといった程度と思います。

化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は、体力が低下した場合にはその効果が期待できません。この治療を受ける場合の時期については、そのような注意が必要です。

腫瘍マーカーはあくまで参考データですので、定期的に画像検査を受け、自覚症状が出た場合は早急にその部位の検査を受け、腫瘍の有無を評価して腫瘍がみられた場合は生検を行って、T790Mという遺伝子変異を評価します。陽性の場合はタグリッソ(一般名オシメルチニブ)の治療が勧められます。

また、免疫チェックポイント阻害薬の後にタグリッソを使うと、肺の障害が増加する可能性があります。体力を維持、増強するような生活を行いつつ、定期的に検査を受け、しばらくはジオトリフを継続しては如何でしょうか。