硝子体播種を伴う網膜芽細胞腫。眼を残す治療法とは?

回答者・金子明博
横浜市立大学附属病院眼科非常勤講師/上福岡駅前アイクリニック院長
(2015年1月)

5歳の子どもが、硝子体播種を伴う網膜芽細胞腫で放射線治療を行いましたが、最近になって再発し、再び硝子体播種を引き起こしていることが分かりました。主治医からは、再度放射線治療することは難しく、眼球を摘出するしかないと言われています。ただ、どうしても眼を残してあげたいと思い、色々調べてみると、眼に直接薬を注入して、眼を温存する治療法があると知りました。これは具体的にはどういった治療法なのでしょうか。

(33歳 女性 宮崎県)

硝子体に抗がん薬を直接注入する治療法

上福岡駅前アイクリニック院長の金子明博さん

硝子体は血管の無い透明で、粘性の高い液体なので、眼動脈から抗がん薬を注入して投与しても、硝子体播種(浮遊している腫瘍細胞)に十分な濃度の抗がん薬が届きません。そこで、直接眼球に細い針を刺して硝子体に抗がん薬を注入するのが、ご相談者のお聞きになられている治療法になります。この場合、使用する薬剤はアルケランになります。

この方法は私が国立がんセンター中央病院眼腫瘍科に在職中に開発した方法で、現在では世界中で広く使用されています。またこの治療法自体、がん以外の様々な網膜病変に使用されていますので、とくに難しい手技などは必要ありません。しかし、網膜芽細胞腫を取り扱う施設は限られていますし、アルケランの硝子体注入は、適応外使用になるので、施設の倫理委員会の承認が必要になります。従って、国立がん研究センター中央病院の眼腫瘍科など限られた施設でしか行われていないかと思います。

治療は入院して全身麻酔で行われ、入院期間は3日ほどです。ただし、硝子体への抗がん薬注入そのものに要する時間は、消毒時間を入れても15分ほどで終わります。なお、この硝子体注入療法は、浮遊している腫瘍細胞にだけ有効なので、硝子体播種の生みの親である再発した腫瘍を死滅させない限り、新しい硝子体播種ができてきます。従って再発した腫瘍を完全に不活化する必要があります。そのため、硝子体注入療法の他に、抗がん薬の眼動脈注入やレーザー照射、冷凍凝固、小線源療法等で治療する必要があります。

また、合併症の可能性としては、硝子体出血、白内障、網膜剥離、網脈絡膜萎縮などがあげられます。さらに、稀にですが硝子体注入療法は腫瘍細胞を眼球の外に漏出させる危険性がありますが、注意して行えば漏出はほとんど起こりません。

アルケラン=一般名メルファラン 網脈絡膜萎縮=網膜や脈絡膜が萎縮して、視力低下などを引き起こす疾患