鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談 銀座東京クリニック院長 福田一典 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實
西洋・東洋医学兼備の医師から抗がんサプリメントの正しい選び方を教わる
ふくだ かずのり
昭和28年福岡県生まれ。昭和53年熊本大学医学部卒業。昭和63年~平成3年米国 バーモント大学生化学教室に留学。がんの分子生物学的研究を行う。平成4年から株式会社ツムラ中央研究所部長。漢方薬理の研究。平成7年から 国立がん研究センター研究所がん予防研究部第1次予防研究室室長。漢方薬を用いたがん予防の研究。平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座助教授。東洋医学の臨床と研究。現在にいたる。著書に『癌予防のパラダイムシフト-現代西洋医学と東洋医学の接点-』(医薬ジャーナル社刊)『体にやさしい漢方がん治療』(主婦の友社刊)など
かまた みのる
東京医科歯科大学医学部卒業。
長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、管理者に。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(ともに集英社刊)がベストセラー。最近発売された『病院なんか嫌いだー良医にめぐりあうための10箇条』(集英社新書)『生き方のコツ 死に方の選択』(集英社文庫)『雪とパイナップル』(集英社)も話題に
患者の弱みにつけこんだビジネスは許されない
鎌田 抗がん効果をうたったサプリメントは必ずしも否定されるものではなく、上手に使えばがんの予防などにも有効だと思いますが、玉石混淆であるのも事実です。「末期がんが治った」などという架空の体験談をでっち上げた「アガリクス本」の事件のように、1歩間違うとだまされてしまったりする危うさもあるわけです。そこで、サプリメントを利用したいとき、どんな選び方をし、どんな使い方をしたらいいのか、読者に役立つお話を福田先生に聞きたいのですが……。
福田 私が最初にサプリメントに興味を持ったのは、国立がん研究センター研究所にいたころですが、食品成分の抗がんサプリメント化の研究は、以前から盛んに行われていました。しかし、実際には、人間での効果が証明されたものはまだほとんどない、というのが現実ですね。
それなのになぜ患者さんがサプリメントに走るかというと、現代医療には限界があって、すべてのがんを治すまでには至っていない。そこで、いわば藁にもすがる思いで、代替医療として使っているわけです。そういう患者さんの弱みにつけ込んで、がんの特効薬のように宣伝して、悪徳ビジネスというか、犯罪が行われるのは許されないことです。
もちろん、サプリメントに限らず健康食品の健康作用自体は認めていいと思います。医食同源という言葉もあるとおり、食生活が病気の予防や治療に果たす役割は大きく、ある種の食品成分ががんの発生や再発を予防するという根拠はたしかにあるのです。また、たとえば抗がん剤を投与するとき、体力をつけるためにサプリメントを使うとか、適切に使われるなら、有用性はあると思います。
再発を防ぐ第3次予防が大事
鎌田 福田先生は国立がん研究センター研究所がん予防研究部の第1次予防研究室長でいらっしゃった。がんの第1次予防、第2次予防、第3次予防といいますが、まずそのへんから説明していただけますか?
福田 まず、がんをなるべく早期に発見して、がんが小さい、転移しないうちに治療をするのが第2次予防です。ただ、いくら早期に見つけて治療しても、がん患者の数を減らすことにはつながらない。そこで、がんになるのを減らそうというのが第1次予防です。がんの原因として、「たばこ」が30パーセント、それと同じくらい重要なのが「食事」で、食生活と生活習慣を改善すれば、がんの3分の2は予防できます。実際、アメリカでは第1次予防の取り組みによってがんの発生自体を減らし、それによってがんによる死亡も少しずつ減っているとの報告もあります。
ただ、私がいちばん力を入れているのは第3次予防です。第3次予防とは再発予防のことです。たしかに第1次予防が最も重要ですが、いくら注意してもがんになる人はなる。体内で発生する活性酸素とか、紫外線とか、世の中には避けようとしても避けられない発がん因子があります。それで、がんになって、治療が終わって、もし体の中にがんが残っていた場合でも、たとえば食生活をよくして、野菜を多く摂るということだけでも再発率が半分になるとか、大豆を摂ることで再発が減るとか、そういう疫学的データもあります。つまり、再発というのは、食事管理によってもある程度予防することができるというわけです。
また、がんにかかった人は免疫力が低下しているなど、がんができやすい状態になっている可能性があり、第2、第3のがんができる心配もあります。そのような第2、第3のがんを防ぐことも第3次予防と言えるかもしれません。いずれにしろ、がんの治療が終わって、それっきり何もしないというのがいちばんよくない。できることはたくさんあり、気持ちの持ちようをはじめ、運動するとか、食事を改善するだけでもかなり違うということを知ってほしいですね。
キノコの抗腫瘍効果は証明されていない
鎌田 アメリカの「デザイナーフーズ・プログラム」というのがあります。これによると、がん予防効果の高い食品として、筆頭に上がっているのはニンニクやキャベツ、甘草、大豆、ショウガなどで、次のグループにお茶、ホウレン草、タマネギといったものが上げられていますね。
福田 デザイナーフーズというのは「がん予防のためにデザイン(設計)された食品」という意味です。アメリカ国立がん研究所を中心に、がんの予防に対して、食品がどのような機能を果たすかを科学的に解明することを目的に研究が進み、がん予防に有効とされる野菜、果物、香辛料などをピラミッド型に表したものがよく知られていますが、あれは欧米の食生活を基本にしており、日本人からすると、たとえばキノコや海草といったものがもっと上位にあってもいい、という意見もあります。
鎌田 キノコはがんにいいと考えてもよろしいんですか?
福田 キノコには、抗がん活性を持った多糖(抗腫瘍多糖)の代表であるβ-グルカンが豊富に含まれています。β-グルカンを主成分にした健康食品は抗がんサプリメントの代表になっています。ただし、β-グルカンがどれだけ免疫増強作用があり、抗腫瘍効果を持っているかというと、厳密にいえば人間ではまだ証明されていません。人間のようにいろんな食べ物を摂っている場合、少々摂取したぐらいではそれほどの効果はないんです。
したがって、キノコのβ-グルカンによる免疫増強効果、がん予防効果は、少し過大に評価されているといえます。ただ、食物繊維も豊富で、カロリーも少なくて、ビタミン・ミネラルが豊富という点で、健康作用は十分に期待できると思いますが。
そもそもキノコの抗腫瘍効果が最初に注目されたのは、キノコが栽培されている地域では、がん発生率が低いという疫学データでした。
しかし、その後の効果を証明する研究はなく、結局のところ宣伝に使われているのは、1960年代に国立がん研究センターが行ったデータだけです。しかもあのデータは、全て動物実験で、それも腹腔内への注射によるもので、経口投与による結果ではありません。メシマコブも90何パーセントの抗腫瘍効果(縮小)と謳ってますが、あれも注射による投与であって、口から摂取した場合の効果を保証するものではありません。
鎌田 なるほど。ということは、本当のエビデンス(根拠)ではないけれども、きっといいだろう、としかいえないわけですね。
福田 たしかに日本では、カワラタケからつくられた抗がん剤のクレスチンのようなものがあり、経口で投与したら免疫増強作用があったとか、胃がんの再発が抑えられたなどの報告があることはあります。
ピラミッドの上位にあるものほど、がん予防効果が高いと考えられている
(米国の「デザイナーフーズ・プログラム」より)