赤星たみこの「がんの授業」

【第十四時限目】がんの進行度 正面からがんと向き合うために、まずはがんの進行度を理解しよう

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
(2004年12月)

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

今回はがんの進行度について学んでみたいと思います。

自分のがんがどれくらい進行しているかを知るのは正直怖いものです。96年にがんの告知を受けた私も、初期のがんならいいけど、転移があったり、末期だったりしたらどうしよう……と、胃が痛い思いをしました。

しかし、がんと闘うには、まず自分のがんがどのくらい進行しているかを知らないと話になりません。がんは異常なまでの増殖能力によって、全身に広がる性質があり、病状が進行すればするほど、命に関わるケースが増えてくるのも事実だからです。がんの種類、進行度、その他いろいろな状況をよく把握したうえで、「あせらず、あわてず、あきらめず」の気持ちで対処していきましょう。

この言葉は、アテネオリンピックの水泳で金メダルを取った柴田亜衣さんが、コーチから言われた言葉だそうです。いい言葉ですよね。がんと闘って金メダルを獲得するには、あせらず、あわてず、あきらめず、ですよ!

がんは臓器によってステージの決め方が違う

さて、がんの進行度を表す言葉として「早期がん」「進行がん」「末期がん」という言葉をよく耳にします。

「早期がん」というのは、がんが発生してからあまり時間が経っていないがん、あるいは性質がよくいまだに進行がんに至っていないことです。この場合、がん細胞はまだ局所にとどまっているので、手術や放射線治療などの局所治療によって取り除ける可能性が高いのですね。その意味では、「早期がん=治りやすいがん」ということができます。

ところが、がんの病状が進むと、がん細胞が周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移したりします。このように、原発巣から出て体内に広がり始めたがんのことを、「進行がん」と呼びます。さらに、転移が進んで全身にがんが広がると、治療の手立てがなくなり、余命も限られます。とくに終末期を「末期がん」と呼びます。もっとも、「早期がん」「進行がん」「末期がん」という言葉はすべてのがんの種類で、しかも標準的に認められたものではありません。

現在、がんの進行度はUICC(国際対がん連合)の「TNM分類法」が国際的な基準となっています。これは、Tumor(腫瘍)、Node(節)、Metastases(転移)という言葉の頭文字をとったもので、がんの大きさや深さ、周囲のリンパ節への転移状況、他の臓器への遠隔転移状況を表す言葉です。

そして、この3つの要素を総合的に判断したものが、いわゆるがんの「ステージ」で、一般的には予後を反映します。

がんのステージは普通、1期から4期まで分かれていますが、なかには子宮がんや乳がんのように0期があったり、1期a、1期bとステージが細かく分かれているものもあります。

がんは臓器によってさまざまな性質があるので、今は28の臓器ごとにステージの決め方がそれぞれ違うのです。

たとえば、乳がんのステージを決める場合は、単純に大きさだけで1期、2期と決めるのではなく、がんの大きさとリンパ節の転移の有無が重視されます。これは乳がんの場合、リンパ節転移があると、遠隔転移の可能性も高くなるためです。

一方、胃がんや大腸がんなどでは、胃壁や腸壁への浸潤の深さが重視されます。それは、こうしたがんの場合、原発巣の周辺への浸潤が深ければ深いほど、他の臓器への転移率も高くなるためだそうです。

ステージの決め方一つとっても、臓器によって違いがあります。そして、症状も転移の仕方も臓器によって違ってくるし、人によってもまた違いが出てくると言われています。

がんという病気は、百人百様です。がんほどバラエティに富んだ病気もないかもしれません。だからこそ、「自分のがん」の種類やステージを理解しないことには、話が始まらないのです。

ここで、ぜひ注意していただきたいことがあります。それは、がんの「ステージ」と「クラス」の違いです。「クラス」とは細胞診の結果を表す目安で、検体として採取した細胞の異常の程度を表す数値のことです。クラスは1~5に分けられ、クラス1はまったくの正常ですが、クラス3以上ではより精密な検査が必要になります。

さて、ここからが肝心。仮にクラス5と判定されたとしても、あせってはいけません。あくまで「細胞に異常があった」というだけで、別に「がん」と決まったわけではないのです。がんの1期どころか、0期にすらなっていない状態だと思ってください。

ところが、この「クラス」と、がんの進行度を表す「ステージ」を混同して悩む人がとても多いのです。

よけいな取り越し苦労をしないためにも、クラスとステージの違いをぜひ正しく理解して広めていただきたいと思います。