甲状腺がん
読みやすい大阪府立成人病センター、充実している癌研病院

文:諏訪邦夫(帝京大学幡ヶ谷キャンパス)
(2009年12月)

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

今回は甲状腺がんを調べました。比較的発生頻度の高い病気ですが、何故今まで扱わなかったのでしょうか。自分の思考過程への記憶もなく、記述も残っていないので、理由はわかりません。この病気は、がんとしては性質がよいので、後回しにしたのかもしれません。

大阪府立成人病センターの解説は読みやすい

グーグルで、検索トップにあがったのは大阪府立成人病センターの解説で、文量は原稿用紙8枚程度(6KB)です。要領がよくて読みやすい、と感じます。

最初に簡単に甲状腺の場所と作用について解説して、すぐがんの話に入り、それから次のように進みます。

甲状腺がんの特徴:女性が男性の5倍と圧倒的に多い点、若年者から高齢者まで広い年齢層に分布し、20歳代以下でも珍しくない点、一般に進行が遅く、治りやすい点、若年者には後に述べる乳頭がんタイプが多く、とくにタチがよいこと、甲状腺がんのうち1パーセント程度は「髄様がん」という種類で遺伝性の場合があり、副腎や副甲状腺の病気を伴うのも特徴です。

甲状腺がんの種類:下の4種類に分けます。

1)乳頭がん:全甲状腺がんの約80パーセントと多く、タチはよい。

2)濾胞がん:乳頭がんの次に多い。以上2つを「分化がん」と総称し、いずれも予後は良好です。

3)髄様がん:リンパ節転移を起こしやすい、約1/4~半数が遺伝性。分化がんより悪性だが、最後の未分化がんと比較すればまだ悪性度は低い。手術の対象にもなる。

4)未分化がん:悪性度最悪。手術不能。

甲状腺がんの症状:通常前頸部にしこりを触れるだけですが、長年放置して大きなしこりに成長して、目でみてわかるサイズになり、さらに周囲臓器(気管・食道・頸腕部神経)への圧迫症状がでることがあります。ただし、前頸部のしこりで甲状腺の腫瘍と判明しても良性が5倍多いのが幸いです。

まれに声が嗄れたり、頸部のリンパ節転移を契機に甲状腺がんが発見されることがあり、さらに別の目的で撮ったX線写真に、偶然甲状腺がんがみつかることもあります。

甲状腺がんの診断:触診・超音波検査(エコー検査)・CT検査などで疑い、針で刺して組織細胞を吸引して分析して、確定診断がつきます。この方法は、組織型を決める点でも有力です。他に、甲状腺シンチグラフィやMRI検査も有用です。

髄様がんでは、血中のカルシトニンやCEAといった検査値が高くなり、診断は比較的容易です。さらに髄様がんは遺伝性のことがあり、遺伝子診断も可能になっています。

乳頭・濾胞・髄様がんは手術が可能

甲状腺がんの治療:甲状腺がんのうち、乳頭がん・濾胞がん・髄様がんの3種はすべて手術可能です。病変の広がりにより甲状腺を全部とる(甲状腺全摘術)、大部分とる(甲状腺亜全摘術)、左右いずれか半分をとる(片葉切除術)など切除範囲が変わります。頸部のリンパ節は原則として切除(郭清)しますが、その範囲はがんの進み具合で判断し、微小な分化がんではリンパ節郭清を省略します。

遠隔臓器に転移がある分化がん(ことに濾胞がん)では、甲状腺全摘後に放射線同位元素を使います。甲状腺はヨードを特異的に集める性質があるので、放射性ヨードを使用して身体の他の部位を痛めずに転移甲状腺がんをやっつけることができます。分化がんに対しては、他に有効な化学療法(抗がん剤治療)はありません。

逆に、甲状腺未分化がんは手術よりも放射線療法と化学療法が中心です。

甲状腺がんの手術は、他ではみられない合併症の可能性があります。特徴的なのは反回神経麻痺(声が嗄れる、水分を飲むとむせる、など)、副甲状腺機能低下(血液のカルシウムが低下してテタニー()を生じる)などです。反回神経は声帯を支配する神経でできるだけ温存をはかりますが、がんと神経の位置関係で必ずしも温存できません。副甲状腺は通常4個あり、そのうち3個以上摘出すると機能低下を招きます。

甲状腺がん術後の合併症として、甲状腺ホルモン低下の可能性があります。甲状腺を全部摘出したり、大部分を切除した場合、残った甲状腺ではホルモンの産生が不十分になります。その場合は、甲状腺ホルモン剤を服用する必要がありますが、他のホルモン治療と比べて本来身体に不足している分を補うだけですから、副作用の心配は不要です。

甲状腺全摘術などで副甲状腺が機能低下になって、血清カルシウム値が低下した場合は、カルシウム製剤・活性化ビタミンD3服用などが有用です。

甲状腺がんの治療成績:未分化がんを除き、甲状腺がんの予後は良好で、乳頭がんでは術後10年生存率が90パーセントを超えて、がんのうちで最も治りやすいグループに属し、濾胞がんもこれに準ずる高い治療成績です。

髄様がんは分化がんに比べるとやや不良ですが、それでも一般のがんより予後は良好です。未分化がんの成績はきわめて悪く、これだけは今後の研究課題です。

テタニー=主に上肢前腕・指、下肢屈曲筋などに起こる特有な痙攣(けいれん)発作

情報量が多いのは癌研有明病院

愛知県がんセンターも、文量はやや少ないものの、読みやすい内容です。

逆に文量が多くて充実しているのが癌研有明病院で、上に述べた大阪府立成人病センターの解説に似ていますが、量的にはたっぷりです。強いて難を言えば、図がまったくないのが不満でしょうか。ともあれ、他のホームページ(HP)には書いていない記述があります。

甲状腺機能低下と機能亢進の症状を詳しく記述し、ヨード摂取と甲状腺の病気の関係を述べて、「一般にはヨード摂取はよいことだが、摂取が多すぎると甲状腺機能を抑えて悪化要因として働くことがある」と説明しています。他のがんと比較して、喫煙は甲状腺がんと無関係らしいというのも面白い記述です。

やや専門的な内容ですが、サイログロブリン・CEA・カルシトニンなどが、甲状腺がんの腫瘍マーカーとして有用なことがあることも述べています。

第5章の「甲状腺乳頭がんの診断と治療」の記述だけで、大阪府立成人病センターや愛知県がんセンターの2~3倍になります。関係者には有用でしょう。

通常は有用な記事を提供している財団法人国際医学情報センターの記事は、今回もそれなりによく書かれていましたが、癌研やその他のHP記事が優秀なのでそれと比較すると魅力が乏しい印象を受けます。

ブログや闘病日記にも、目立つものがみつかりませんでした。

甲状腺がんに関連する広告は少なく、「甲状腺がんはタチのよい病気」の故かもしれません。

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