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食道がんの薬物療法が大きく動いた! 『食道癌診療ガイドライン2022』の注目ポイント

監修●加藤 健 国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科長
取材・文●菊池亜希子
(2023年1月)

「食道がんの薬物療法は、今後も免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を中心に開発が進むと思います」と話す加藤健さん

2002年に初めて『食道癌治療ガイドライン』が刊行されて20年。2017年の第4版から「食道癌診療ガイドライン」と名を改め、昨年(2022年)9月、5年ぶりに2022年版が刊行されました。今回の注目点は薬物療法。長年変化のなかった薬物療法にようやく新薬が登場し、初めて治療アルゴリズムが作成されました。

今回のガイドライン作成に携わった国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科長の加藤健さんに、改訂の注目点、薬物療法の最新情報、さらに今後の展望について話を聞きました。

注目すべきは薬物療法

『食道癌診療ガイドライン2022年版』金原出版

「今回の食道がんにおけるガイドライン改訂は、これまでにない大きなものとなりました。手術、内視鏡治療、放射線療法を含めて大きな改訂がありますが、最も注目すべきは薬物療法です。食道がんにもようやく免疫チェックポイント阻害薬が登場し、治療選択肢がグッと広がりました」

国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科長の加藤健さんは、今回のガイドライン改訂の注目ポイントについてそう語ります。

2020年、食道がんに初めて、抗PD-1抗体のオプジーボ(一般名ニボルマブ)とキイトルーダ(同ペムブロリズマブ)が承認され、話題となりました。ただ、当時は5-FU(一般名フルオロウラシル)+シスプラチン(CF療法)の1次治療を経て増悪した場合の2次治療での承認でした。現在はオプジーボ、キイトルーダともに1次治療へ適応拡大されています。ここ数年の薬物療法の急速な進化を受けて、今回のガイドライン改訂で初めて、食道がん薬物療法のアルゴリズムが明確に示されました。

「これまでは、アルゴリズムを作るほどの選択肢がなかったのです」と加藤さん。では、新しくなった食道がんの薬物療法を見ていきましょう。

1次治療がガラリと変わった!

切除不能の進行再発食道がんは、長年、抗がん薬の選択肢が非常に少なく、実質、1次治療は5-FU+シスプラチン(CF療法)、2次治療はタキサン系薬剤のタキソール(一般名パクリタキセル)かタキソテール(一般名ドセタキセル)という状況が長年続いていました。そんな状況に風穴を開けたのが免疫チェックポイント阻害薬です。

(ガイドライン推奨文)
「切除不能進行・再発食道癌に対して一次療法として、ペムブロリズマブ+シスプラチン+5-FU療法を行うことを強く推奨する」(エビデンスの強さA)

キイトルーダ+CF療法が、CF療法単独と比較してOS(全生存期間)を有意に延長した「KEYNOTE-590試験」の結果を受けて、食道がん薬物療法において、初のエビデンスレベルAを獲得しました。「前4版までは長年、CF療法が標準治療でしたが、実は第Ⅲ相試験結果を伴っていなかったので、エビデンスレベルはCだったのです」と加藤さんは指摘します。

(ガイドライン推奨文)
「切除不能進行・再発食道癌に対する一次療法として、ニボルマブ+シスプラチン+5-FU療法もしくは、ニボルマブ+イピリムマブ療法を行うことを強く推奨するが、患者の全身状態および、PD-L1発現状況(TPS)、忍容性等を考慮する」(エビデンスの強さA)

当時の標準治療だったCF療法と「オプジーボ+CF療法」、さらにCF療法と「オプジーボ+ヤーボイ(一般名イピリムマブ)」を比較する「CheckMate-648試験」で、オプジーボ+CF療法、オプジーボ+ヤーボイが、どちらも、それぞれCF療法単独に対して有意にOSを延長する結果となりました。

「KEYNOTE-590」と「CheckMate-648」の結果を受けて、食道がん薬物療法の1次治療として、「キイトルーダ+CF療法」、「オプジーボ+CF療法」、「オプジーボ+ヤーボイ」という3つの併用療法が、エビレンスレベルAとして、いっきに出揃うことになったのです。

では、新たに登場した3つの1次治療のどれを選択するかは、何を基準に決めるのでしょうか。

「キイトルーダとオプジーボは共に抗PD-1抗体なので、作用機序も有効性もほぼ同じです。2次治療での承認と違って、1次治療ではキイトルーダもCPS10以上というPD-L1発現の制限もありませんから、どちらを選んでも差はほとんどありません。しいて言うなら、投与スケジュールの違いです。キイトルーダは3週間ごと、オプジーボは4週間ごとの投与になります」

効果はほぼ同じなので、加藤さんは4週に一度のオプジーボ併用を選択することが多いそうです。ただし、3週ごとのキイトルーダ併用のほうが化学療法(CF療法)も3週ごとなので、効果を急ぐ場合はキイトルーダ併用を選ぶケースもあるといいます。切除不能な症例でも、腫瘍を早めに小さくしたり転移が消えたりすることで、何とか手術に持ち込みたい場合などがそれに当たります。

タキソテールについて:CF療法に不能となった進行再発食道がんにおいて、タキソールとタキソテールを比較する第Ⅱ相試験「OGSG1201」の結果が2021年に報告され、タキソールの有効性と安全性がタキソテールを上回った。これにより、現在はタキソールが選択される。

オプジーボ+ヤーボイ併用を選択するとき

「3つの中で、オプジーボ(抗PD-1抗体)+ヤーボイ(抗CTLA-4抗体)だけは機序の違う免疫チェックポイント阻害薬同士の併用で、化学療法が入りません。一言で言うと、効く人には非常に効き、効いた人は効果が長く続きます。比較的、がんの進行が穏やかで、症状もそれほど出ていないケースでの選択が良いように感じています。半面、勢いのあるがんには効きづらい。症状が強い場合や、気管の周辺にリンパ節転移があったりする症例では、まず化学療法か放射線治療で緊急的に効果を得るほうが良いと思います」

注目すべきは、化学療法(CF療法)が入らない免疫チェックポイント阻害薬同士の「オプジーボ+ヤーボイ」が、全生存(OS)率でCF療法に勝ったという事実です。

「そうですね。『CheckMate-648』で、オプジーボ+ヤーボイと CF療法を比較した生存曲線を見ると、オプジーボ+ヤーボイは開始直後はガッと下がって、CF療法のほうが上にいくけれど、途中でオプジーボ+ヤーボイが逆転します。つまり、効く人には非常に効く半面、CF療法を行ったほうが良かった人も何%かはいるという結論です」

いずれにせよ、今後の食道がん薬物療法には、1次治療から免疫チェックポイント阻害薬を使うと考えてよいのでしょうか?

「新しい3つの1次治療は、それぞれが昔のチャンピオンのCF療法に勝って、新たに標準治療になりました。これによって、CF療法単独は推奨レベルが一段下がりました。今後は、免疫チェックポイント阻害薬を使えない状況のときだけ、1次治療でCF療法を選択することになります」

今後の2次治療、3次治療は?

1次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使うとなると、2次、3次治療が気になるところです。

「2次治療だったオプジーボやキイトルーダが1次治療に上がってきたわけですから、ライン的には1つ減ることになります。2次治療はタキサン系薬剤のタキソール、そして3次治療はなくなります」

ちなみに、1次治療で免疫チェックポイント阻害薬併用でなく、CF療法を選択した場合は、2次治療でオプジーボが推奨されます。2次でのキイトルーダにはCPS10以上という制限があり、その結果も、あらかじめ決められたエンドポイントによるものではなかったため、推奨度が少し下がります(エビデンスレベルB)。よって、この場合はオプジーボが選択されることになります。

とはいえ、今後は、まず1次治療で免疫チェックポイント阻害薬併用療法、2次治療はタキサン系薬剤のタキソールが推奨されます。そう考えると、1次治療は充実したけれど、2次治療以降が心もとない気がするのですが?

「たしかに2次治療以降の選択肢は狭まります。ただ、『KEYNOTE-590』『CheckMate-648』の試験結果から、後方ラインで免疫チェックポイント阻害薬を使うより、前方ラインから使うほうがトータルで見た生存期間が延長されることが明確に示されたので、やはり1次治療から入れたほうがよいということになります」