肝がん CT&肝血管造影検査
腫瘍内部の色調が濃淡入り混じっているのが、がんの目安
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
54歳の男性Aさん。人間ドックの血液検査で、C型肝炎ウイルスに現在も持続感染しているキャリアであると判明。専門病院での受診を勧められる。専門病院の腹部超音波検査で、肝臓にがんと思われる腫瘍があることがわかり、国立がん研究センター(現国立がん研究センター)を紹介される。CT、および肝血管造影検査にて肝がんが確認された
慢性ウイルス性肝炎が肝がんの主原因
肝(細胞)がんは、主原因がわかっている数少ないがんの1つで、わが国の場合、原因の80パーセントはC型慢性肝炎、15パーセントはB型慢性肝炎というデータがあります。わが国では毎年3万数千人から肝がんが発見されます。
C型肝炎ウイルスは、血液を介して感染が起こるのですが、3割の人が自然に治癒する一方で、7割の人ではウイルスが肝臓に住み着いてしまう持続感染が起こります。
「C型肝炎ウイルスに感染すると急性肝炎になり、全身倦怠感や食欲不振、黄疸などの症状が出ることもありますが、A型やB型の肝炎に比べて自覚症状が軽いため、感染に気づかない場合が多いのです。そのまま持続感染が起こると、一部は慢性肝炎になって、長い年月を経て肝硬変、そして肝がんへと進む場合があります。そこで、持続感染がわかったら、詳しい血液検査をして慢性肝炎や肝硬変になっていないか、あるいは肝臓の画像検査をして肝がんになっていないかを検査するのです」(森山さん)
ちなみに、肝炎ウイルスの感染を示す抗体が血液中に含まれているかどうかを調べる検査項目は、人間ドックの血液検査では多くが入っているようですが、住民健診の場合は入っているとは限らないそうです。
CTで肝がんと判別できた
肝臓に腫瘍があるかどうかを調べる際、よく行われるのが画像検査である超音波検査。外来でも行うことができます。簡便で、端子を腹部に当てるだけで、ただちに肝臓の様子を映しだすことができます。
画像検査と併せて、肝腫瘍マーカー検査が行われることがあります。この検査は、がんができると血液中に放出される物質の値を調べるもの。Aさんは値が上昇しており、肝がんの疑いが強まったのです。
肝がんかどうかの確認を、国立がん研究センターではCTで行いました。CTの検査画像をご覧ください。
「肝臓は右葉と左葉に分けることができますが、それぞれに2.8センチと6センチの腫瘍がありました。腫瘍が良性でなく、がんであることを、この画像で最もよく表しているのが色調で、腫瘍内部では白黒の濃淡が複雑に入り混じっています。いくつかのゴツゴツとした固まりが寄せ集まったようにも見えます。一方、周囲の正常な組織では色調のトーンが均一で、比較するとよくわかります」(森山さん)
がんにつながる血管をつきとめる
CT以外のいくつかの検査を組み合わせ、Aさんの肝がんは肝臓以外には転移が認められず、手術で取りきれると判断されました。
手術を前提にして、よく行われるのが肝血管造影検査。主として肝動脈から造影剤を入れて、エックス線撮影をします。この場合は肝動脈に狙いを絞ったエックス線検査といえます。
「肝血管造影検査は、肝臓内の動脈の走行具合をエックス線によって写す検査です。がんに栄養を届けている動脈はどれなのか、隣接する横隔膜や腸からがんに血管が伸びてきていないかどうかを調べることができます。切除の範囲や、どこから切除をするかなど、手術の方針を決めるときの地図になるもので、とても参考になる検査です」(森山さん)
画像は、もちろんこの1枚ではなく複数枚あって、執刀医はそれらを組み合わせて、頭の中でイメージをつくり、手術に臨みます。
Aさんの2つの腫瘍は、両方とも手術によって取りきることができました。手術から3年が経ちますが、Aさんは元気に暮らしているそうです。
肝血管造影検査で写し出された2つの肝がん