『胆道癌診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂 胆道がんの最新標準治療

監修●宮崎 勝 千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授
取材・文●黒木 要
発行:2013年10月
更新:2019年9月

施設間で手術数や成績に差

現在、胆道がんにおいて根治(治癒)が見込める治療法は、がんを取り除くことを目的とした手術だ。手術ができるかどうかは、治療方針決定の大きな岐路となる。ところが手術の適否の診断が簡単ではない。

第1版では手術ができない胆道がんとして「肝、肺、腹膜転移、遠隔リンパ節転移」のある症例が挙げられていた。第2版では、手術ができない胆道がんの定義として、遠隔転移の部分の記述がより具体的になり、「明らかな傍大動脈周囲リンパ節、腹腔外リンパ節などの転移を伴う胆道がん」が新たに追加された。

では転移がなければ手術が可能かというとそうではない。

「ガイドラインにおいての手術不能の定義は、あくまで転移という因子からみたもので、局所でがんがどの程度進行しているか、つまりがんの大きさや深さ、血管への浸潤などを考慮した手術の適否については『明らかなコンセンサス(同意)はない』とされています。第2版の改訂作業においても、新たな知見、エビデンスは打ち出されておらず、局所進行がんに対する手術についての記述は追加されていません。しかし、門脈や肝動脈に胆管がんが浸潤しているために、血管とともに切除する手術が一部の施設で行われており、良い成績も出てきています。胆道がんを多く手掛ける施設とそうでない施設間で、手術の実施数や成績に差があるのも事実です」

つまり手術ができるかできないかという判断は、医療施設および医師に委ねられているということになる。

この点に関して、宮崎さんは次のようにアドバイスをする。

「手術を望まれる患者さんは、別の専門医にセカンドオピニオンを求めて意見を聞くことを考慮してもよいでしょう。日本肝胆膵外科学会が認定した修練施設は、症例数や実績別で学会ホームページに掲載されています。そういった認定施設は、都道府県に必ず1施設はありますので、参考にしてみてください」

手術不能例に併用化学療法が追加

■図4A ジェムザールとシスプラチン併用療法の効果(欧米)(N Engl J Med 2010;362:1273-81)

そして今回の改訂で最も大きな変更点が、手術できない患者さんに対する併用化学療法の追加だ。

第1版では「ジェムザールまたはTS-1の有用性が期待できる」(推奨度C1)とされていたが、そのジェムザール単剤とジェムザールとシスプラチンの併用療法の無作為化比較試験が欧米で行われ、ジェムザール単剤群の生存率が8.7カ月に対し、ジェムザールとシスプラチン併用群では11.7カ月と、生存期間の延長が報告された(図4A)。

日本でも同様の試験が行われ、ほぼ同等の結果が得られた(図4B)。

■図4B ジェムザールとシスプラチン併用療法の効果(日本)(Br J Cancer 2010 ;103:469-474)
2010年、ジェムザール単剤とジェムザールとシスプラチン併用療法を比較した無作為化比較試験が行われ、ジェムザールとシスプラチン併用群で有意な全生存期間の延長が報告された。日本でも同様の試験が行われ、ほぼ同等の結果が得られたため、第2版ではジェムザールとシスプラチン併用療法が推奨度Aとなった

「この結果を受け、第2版ではジェムザールとシスプラチン併用療法が推奨度Aとして、手術不能例の第1選択となります」

ジェムザール=一般名ゲムシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

臨床試験が進む 術前・術後補助化学療法

今回の改訂には掲載されないが、術前・術後補助化学療法についての臨床試験が進められている。

「術前化学療法(ネオアジュバント療法)では、転移はないが局所進行がんで手術ができないような場合、ジェムザールによる術前化学療法を1カ月~半年間行い、ダウンステージによって手術を可能にすることを目的に行っています。実際に手術に持ち込める例も少しずつ出てきていますが、比較試験ではないので症例数も少なく、残念ながら今回の改訂には掲載されません。しかし、術前化学療法によって手術に持ち込めた場合は、初めから手術可能である場合と生存率に変わりなかったことから、今後の結果に期待がかかります」

再発予防としての術後補助療法(アジュバント療法)に関しては、ジェムザール単剤群、TS-1単剤群、ジェムザールとTS-1の併用群に分かれて現在も臨床試験が進められており、今回の改訂版には「臨床試験として行われることが望まれる」(推奨度C1)という記載にとどまった。試験の結果が出てくるのは2~3年後とされる。

胆道がん治療では現場の専門医でも判断が難しい局面が至るところにある。

「現状では治療法は限られてはいるものの、少しずつではありますが研究は着実に進められています。治療に迷うことがあったら、なるべく多くの患者さんを診ている医師に相談し、諦めずに治療に臨んでください」と宮崎さんは話している。

「胆道癌診療ガイドライン」第2版は、年内の発行予定である。

日本肝胆膵外科学会
http://www.jshbps.jp/home.html
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