本邦初「肝内胆管癌診療ガイドライン2021」誕生! 肝内胆管がんの薬物療法はこれまでにないスピードで進化中

監修●久保正二 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学病院教授/大阪市立大学医学部附属病院肝胆膵外科部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年4月
更新:2021年5月


薬物療法の急速な進化

現在、手術不能の場合、もしくは術後再発した場合の薬物療法は、ゲムシタビン(商品名ジェムザール/ゲムシタビンなど)、シスプラチン(商品名ブリプラチン/ランダなど)、S-1(商品名TS-1など)の抗がん薬3剤を組み合わせた化学療法である。単剤では効果が薄いので、GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)、GS療法(ゲムシタビン+S-1)、GCS療法(ゲムシタビン+シスプラチン+S-1)が標準治療になっているわけだが、これまではこれら3剤を投与して効果がなくなったら次の手段はなかった。ところが近年、その状況が大きく進展してきたというのだ。

「まず、免疫チェックポイント阻害薬が出てきました。ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が、がん種を問わずMSI陽性の固形がんに承認されましたから、MSI陽性であれば肝内胆管がんにも使えるようになりました。また、胆道がんに対してニボルマブ(商品名オプジーボ)が先駆け審査指定制度の対象に指定され、現在、臨床試験が行われている最中。デュルバルマブ(商品名イミフィンジ)も進行胆道がんの1次治療を対象に第Ⅲ相試験が進行しています。さらに、免疫チェックポイント阻害薬とTGF-β阻害剤を組み合わせたビントラフスアルファの第Ⅱ/Ⅲ相試験も行われています」

加えて特記すべきは、個々の遺伝子変異に基づいた分子標的薬の開発が急速に進展してきたことだと久保さんは指摘する。

「ここ数年、胆道がんが発生する過程で関与している遺伝子変異(ドライバー遺伝子)が解明されてきました。FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)、IDH、BRAF、HER2などがそれにあたりますが、現時点で最も研究が進んでいるのがFGFR2融合遺伝子です。しかも、このFGFR2融合遺伝子は肝内胆管がんの発生に大きく関わっていることがわかってきたのです」

固形がんのいくつかでFGFR2融合遺伝子は見られるが、中でも肝内胆管がんでの頻度が高く、約10%に確認されるという。注目すべきは、このFGFR2融合遺伝子が認められた胆管がんに対して、ペニガチニブ(商品名ペマジール)という分子標的薬(FGFR2阻害薬)が登場したことだ。

現在、承認を終えて薬価収載を待っている最中なので、正確に言うと「もうすぐ登場する」と表現すべきだろう。「順調にいけば、近いうちに日本でも使えるようになるでしょう」と久保さんも期待を寄せる。

肝内胆管がんも個別化治療の時代へ

ちなみにこのペニガチニブ、米国では肝内胆管がんに対して承認されたが、日本では肝外胆管がん、胆のうがんも含めた「胆道がん」(FGFR2融合遺伝子陽性��切除不能な胆道がん)として承認申請を行っている。少数とはいえ、肝外胆管がんや胆のうがんにもFGFR2融合遺伝子陽性が認められるケースがあるからだが、実質的には、ほとんど肝内胆管がんに見られる変異である。

「実は、この考え方は胆道がんに関しては望ましいのです。先述のように、肝内胆管がんは、肝臓内のどの位置に発生しているかによって、肝がんや胆道がんの性質を持つ場合があります。さらに肝門部付近で見つかった腫瘍に至っては、そもそも肝門部胆管がんなのか、肝内胆管がんが肝門部に浸潤したのか、見分けがつかないケースも出てきます。そのとき、もし肝内胆管がんにしかその薬剤が使えないとなると、非常に困ったことになるわけです」

そのようなことも含み置いた上で、肝外胆管がんなども含めた「胆道がん」全体での申請に踏み切ったことに意義があると久保さんは考えている。

また、FGFR融合遺伝子以外にも、IDH、BRAF、HER2など肝内胆管がんに見られる他の遺伝子変異を狙った薬剤も多数、現在、臨床試験の真っただ中だそうだ。

「これから1~2年ほどの間に、肝内胆管がんに対する薬物療法が急速に進化すると思います。患者さん個々の遺伝子変異を突き止め、それに合った薬剤を使えるようになっていくでしょう。従来の化学療法(ゲムシタビン、シスプラチン、S-1)が効かなくなった時点でお手上げだったこれまでとは全く違う次元に入っていくと思います」

さらに特記すべきは、つい先日(2021年2月)、個々の遺伝子変異を突き止めるがん遺伝子パネル検査「FoundationOne CDx:ファウンデーション1」が、胆道がんのFGFR融合遺伝子の判定にも承認されたことだ。今後は、自身の遺伝子変異がどこにあるかを確定させる検査を保険診療で受け、確定した変異をターゲットとする薬剤を使用する方向へと、薬物療法が大きく舵を切るだろう。

あとは、現在進行しているいくつもの臨床試験が順調に進んで結果を出し、それぞれの変異に対する薬剤が一刻も早く承認される日を待つのみだ。最後に、久保さんはこう締めくくった。

「今、化学療法をがんばっておられる皆さん、決してあきらめず、どうか希望を持って現在の治療を続けてください。数カ月で次の治療法が出てきます。肝内胆管がんの薬物療法はこれまでにないスピードで進化しています。分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬と、種類も多岐に渡ります。きっとご自身に合う薬に巡り合える日が来るでしょう」

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