胆道がんの縮小手術はどこまで進んでいるか 不治の病から治せるがんへ。手術できる施設を絞りこむセンター化の動きが

監修:島津元秀 東京医科大学八王子医療センター消化器外科教授
取材・文:町口充
発行:2008年5月
更新:2019年7月

胆のうがんで縮小手術の試

写真:八王子医療センターで手術中の島津さん
八王子医療センターで手術中の島津さん

ところで、最近のがん手術の流れとして、より患者さんの負担が少なくてすむ縮小手術が積極的に行われるようになっているが、胆道がんではどうだろうか。これについて島津さんは次のように語る。

「胃がんとか大腸がんなどで縮小手術といわれているのは、不必要に拡大手術をしなくてもいいのではないか、ということ。リンパ節に転移がないとはっきりわかればリンパ節を郭清する必要はないわけですが、そのためには正確な診断が必要です。胃がんとか乳がんでは、センチネルリンパ節(見張り番リンパ節)に転移がなければ、他のリンパ節に転移がないと判断されますが、その判断ができるまでにはたくさんの証拠集めが行われ、検証が積み重ねられてきました。その結果、リンパ節転移の範囲がはっきり把握できるようになって、転移している部分だけをとったり、転移がないとわかれば郭清をしないですむ縮小手術が可能になりました。ただ、胆道がんではまだそこまでいっていません」

現在は、胆のうがんに対して、センチネルリンパ節を色素法で見つける試みが行われているという。胆のうに色素を注入し、染まったリンパ節をとってきて顕微鏡で調べ、そこにがんがなければほかにもないだろうという考え方が成り立つかどうか、検証している最中だ。

実際にセンチネルリンパ節生検ができて縮小手術ができるようになるまでには、あと5年ぐらいはかかる、と島津さん。

今のところはまだ研究の段階だが、胆のうがんの患者に対して、色素法でセンチネルリンパ節生検を行い、陰性だったためリンパ節の拡大郭清をやめ、標準郭清にとどめたところ、生存期間には影響なく合併症の減少や在院日数の短縮を認めた。また、胆のう動脈色素注入法といって、胆のう動脈に色素を注入し、色素で染まる範囲に微小肝転移が起こって��るだろうとの予測のもとに、染色範囲のみを切除し、肝切除範囲を小さくする方法はすでに行われている。

手術が有効な患者さんを絞り込むことが大切

肝門部胆管がんの胆道造影写真
肝門部胆管がんの胆道造影写真
(真ん中の造影剤が抜けて白くなっている部分ががん)

胆のうは肝臓と接しているため、胆のうがんの手術では肝切除も同時に行われるのが普通。ただし、どこまで切除するかの決まりはない。そこで島津さんらは、胆のう動脈色素注入法で肝切除範囲を決めるようにした結果、以前より小さい範囲での切除にとどまるケースが増えたという。

ただし、胆管がんでは、色素法を用いたセンチネルリンパ節生検や肝切除範囲の決定は今のところ難しいようだ。

「胆管がんは元々の成績が悪い。拡大手術をしたとしても予後がよくないのに、縮小手術をやれというのは、もう手術をやめろというのと同じです。しかし、胆管がんは非常にたちの悪いがんであり、手術だけでは治らないことが多いのもたしか。手術が有効な患者さんを絞り込むことも大事であり、そのような患者さんに対して、どれぐらい小さな手術ができるかの検討は必要でしょう」

胆管がんでも、肝切除の範囲を小さくする手術は試みられている。たとえば、肝門部胆管がんの場合、肝葉切除といって、肝臓を半分とる手術が標準手術だが、この手術に耐えられない患者さんが少なくない。肝臓の機能が悪い、高齢である、心臓や肺機能が悪い、という人たちだ。このような患者の場合、肝切除の範囲を可能な限り小さくする「肝実質温存手術法」という縮小手術が開発されている。

また、やむなく広い範囲の肝切除を行う場合は、切除する範囲の肝臓の血管(門脈)を遮断して、残す予定の肝臓の体積増加を図る「門脈塞栓術」という方法もある。

いずれにしろ、現段階の縮小手術はどんな患者さんにもというわけではなくて、標準手術ができない患者さんに対して行っているのが現状だ。

一方で東京医科大学八王子医療センターでは、胆管がんについて術後早期からの補助化学療法を積極的に行っている。その結果、5年生存率60パーセント以上という成績を上げているという。

合併症や後遺症はここに注意

胆道がんの手術は高難度だけに手術の合併症や後遺症も気になるが……。

「手術で1番多い合併症は胆汁漏で、20パーセントぐらいの割合でありますが、致命的にはなりません。ほかに多いのは手術のあとから出る後出血。肝臓をとったことによる肝不全の確率は平均すると3~5パーセントあり、これは決して少ない数字ではありません。また、膵頭十二指腸切除で1番やっかいなのは膵液漏。膵液は血管を溶かすので、出血を引き起こします」

ただし、肝切除の後遺症はあまりないという。それは肝臓は再生するためだ。

また、後遺症としては胆管がんの手術のあとの胆管炎に注意が必要です。本来、腸と胆管の間には弁があり、腸液が胆管に流れ込まないようになっているのですが、腸と胆管を直接吻合すると腸液の逆流が起き、細菌の感染による胆管炎につながってしまう。

膵頭十二指腸切除の後遺症としては、体重減少、低栄養、糖尿病などがあげられる。食べ物の消化に大きな役割を果たす膵臓を半分失ってしまうのが原因だ。

最後に患者さんへのアドバイス。

「消化器の手術はどれでもいえることですが、とくに肝切除と胆道再建した患者さんは、胆管炎を誘発するようなことは避けたほうがいい。たとえば、便秘とか暴飲暴食です。また、膵頭十二指腸切除をすると消化機能が悪くなるので、ある程度消化剤を飲まないといけなくなるし、昔と違って胃を残すので、胃潰瘍にも注意する必要があります。しかし、日常生活は普通にしてていい。あれを食べるな、これを食べるなという制限はあまりしないで、むしろ毎日の食事を楽しむようにしてほしいと思います」


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