筋層浸潤膀胱がんに4者併用膀胱温存療法を施行 ~生命予後や合併症抑止に大きく貢献~

監修●田中 一 東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学講師
取材・文●伊波達也
発行:2020年6月
更新:2020年6月


新たな治療成績でも評価に十分値する結果に

これらの結果は、2016年までの症例による報告だが、その後も追跡・解析は続いている。

2018年までのエントリーで手術症例は173例に増え、導入化学放射線療法の完全奏効率(CR)は84%、観察期間(中央値)62カ月で、5年MIBC非再発生存率は93%、がん特異生存率は92%ということだ。

TeMT完遂は125人になり、そのうち15人(12%)に膀胱部分切除の検体でがんの残存が見られた。内訳は、上皮内がんが3例、pT1が2例、pT2以上が10例だという。リンパ節転移は2例から4例に増えて転移率は3%となった。

「症例数の関係で、数字が変動していますが、成績としては十分評価に値すると思います」

高齢者でも良好な結果を得る

また、田中さんたちは、腫瘍学的と機能学的な結果において、75歳以上と75歳未満の患者さんの比較検討も行い、その結果を「International Journal of Urology」に発表した。

「その結果は、有意差はなく、同様に良好な結果が得られていました」

75歳以上と75歳未満の比較では、5年MIBC非再発生存率で、96%vs.98%。TeMT完遂例の5年がん特異生存率で、92%vs.94%。導入化学放射線療法を完全奏効例のがん特異5年生存率で、92%vs.94%と有意差は認められなかった。

膀胱部分切除の周術期合併症発生率も31%vs.27%と有意差を認めなかった。また、機能学的にも、最大尿流率が75歳以上で低値であったほかは、先述の排尿蓄尿機能において有意差を認めなかったという。

高齢者に多く発症する膀胱がんであるだけに、根治(こんち)性と安全性を担保し、合併症を軽減できれば、間違いなく患者の福音となるだろう。

膀胱温存療法の普及に貢献したい

田中さんに今後の展望を聞いた。

「5年生存率まで見ることができましたので、オンコロジカル(腫瘍学的)な成績という点では、十分なところに入ってきていると言っても良いと思います。ただし、5年をまだ中期成績としてとらえれば、今後は、さらに長期成績を観察していくことが必要だと考えます」

さらに、化学放射線療法の効果と予後は大きく関わるため、今後は、化学放射線療法の感受性の予測が重要になる、と田中さんは話す。田中さんらも実際にそのような研究に着手している。

また、昨今大きな関心を集めている免疫チェックポイント阻害薬の効果についての検証も、「膀胱がんにおいて重要にな��」と田中さんは論文にも記している。

そして、田中さんはこのように強調した。

「さらに症例を蓄積していき、良好な成績を確かなものとし、膀胱を残せる治療をより多くの患者さんに提供していきたいです。一方、ある一定の患者さんは、やはり膀胱全摘除になってしまうことは確かです。

誰だって膀胱は残したいという気持ちであることは、もちろん痛感しています。しかし、そこは正確な診断に基づき冷静に判断して、がんを根治(こんち)させることを最優先に治療を選択することを心がけていきたいと考えています」

今後は、日本において膀胱温存療法が普及していくために、チーム一丸となって、牽引的な役割を果たしていきたいとも田中さんは話す。

「わが国では、膀胱温存療法については、まだ、限られた施設でしか実施されていないのが実情です。4者併用膀胱温存療法については、私たちとその関連施設以外ではほとんど行われていません。今後は、適切な適応選択のもと、より多くの施設で膀胱温存療法が可能となることが、患者さんにとっての願いだと思います。ぜひ、その普及にも貢献できればと思っています」

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