筋層に浸潤していない膀胱がん患者さんにとって、くり返す再発を抑制して生活の質を高めるために BCG注入の新しい「維持療法」で筋層非浸潤性膀胱がんの再発を防ぐ
BCG膀胱内注入療法は海外でも推奨される治療

大園 内視鏡手術などで腫瘍を切除した後、どういう患者さんに抗がん剤やBCGの注入が行われるのでしょう。その判断基準について教えてください。
樋之津 がんが再発しやすいかどうか、あるいは進展しやすいかどうかを判断します。これをリスク分類といい、分類するための因子がいくつかあります。がんが初発か再発か。腫瘍の数が1個か、それ以上か。最も大きな腫瘍が3センチメートル以下か、それを超えているか。顕微鏡で見る病理検査で、がん細胞の悪性度が低いか高いか。さらに、上皮内がんを伴うかどうか。これらの因子の組み合わせによって、それほど再発や進展をしないと思われる低リスク群、高い確率で再発や進展が起こると思われる高リスク群、その中間の中リスク群の3つに分類します。
大園 低リスクの場合、どんな治療が行われますか。
樋之津 内視鏡手術の後、だいたい24時間以内に1回だけ抗がん剤の膀胱内注入を行います。これが一般的な追加治療です。
大園 中リスクでは?
樋之津 アメリカでは中リスクでもBCG注入が推奨されています。日本やヨーロッパでは、抗がん剤注入を手術後24時間以内に1回注入し、その後約1週間ほどで、病理検査の結果が出てリスク分類が確定した段階で治療内容を決めます。
中リスクの場合には、抗がん剤を複数回注入する方法と、BCG注入を6��8回行う方法があります。
高リスクの場合は、BCG注入を標準治療と考えます。これは日本もアメリカもヨーロッパも同じです。ヨーロッパのガイドラインには、最初の6~8週の導入療法だけでなく、最低でも1年間は間隔をあけながら行う維持療法を追加することを推奨しています。
大園 高リスクの場合、膀胱を摘出したほうがいいと考えられる場合もありますね。
樋之津 できるだけ膀胱を温存することは大切ですが、膀胱を残したために命を落としてはいけませんからね。他の臓器に転移する可能性が高いと考えられる場合には、膀胱全摘という手術を選択する必要があります。
BCG膀胱内注入療法の副作用
大園 BCG注入療法はどんなスケジュールで進められますか。
樋之津 手術から2週間後を目安に、目で見て尿に血が混じっていない状態になっていること、つまり膀胱壁が修復されたことを確認してから実施します。週1回の注入を6~8回行います。この導入療法に加え、導入療法を初めて開始したときから3カ月後、6カ月後というように、間隔をあけながら続けていくのが維持療法です。維持療法では、週1回の注入を3回セットで行います。
大園 効果を高めるために、またBCGを膀胱内に注入後は2時間ほど排尿を我慢し、膀胱内にためておいたほうがいいのですね。

樋之津 それが理想です。BCGを膀胱内に注入後、最初の排尿は消毒する必要があります。
自宅で排尿する場合には、トイレの中に希釈していない漂白剤を尿と同量入れることで消毒できます。
大園 BCGの膀胱内注入療法の副作用はどのようなものでしょう? 結核菌を入れるので、心配される患者さんも多いと思いますが。
樋之津 弱毒化しているとはいえ、結核菌を膀胱内に入れるので、強制的に膀胱炎を起こさせているような状態です。そのため、膀胱炎の典型的な症状である、頻尿、排尿時の痛み、血尿がよく現れます。その他、発熱、残尿感、下腹部痛が起こることがありますし、まれにインフルエンザ様症状などが現れることもあります。
抗がん剤注入より効果は高いのですが、副作用も高い確率で現れるのがBCG膀胱内注入療法の特徴です。詳しい情報はBCG膀胱内注入療法を受ける患者さん向けのパンフレット(右)も参照されると良いでしょう。
BCG膀胱内注入療法の継続で再発する人が減った
大園 先生が実施された臨床試験に話を進めましょう。この試験では筋層非浸潤性膀胱がんの患者さんを、抗がん剤注入療法のグループ、BCG注入の導入療法のみのグループ、BCGの導入療法に加えて維持療法も行ったグループに分けて、その後の再発を調べているのですね。
導入療法は週1回注入を6回続けます。維持療法は導入療法後に週1回注入を3回セットを3カ月後、6カ月後、12カ月後、18カ月後に追加してBCGを膀胱内に注入しています。それでは、この試験の結果をお話しください。
樋之津 まず、BCG注入療法が抗がん剤注入療法より再発を抑えることを確認したうえで、BCG注入を追加する維持療法が必要かどうかを比較しました。
その結果、導入療法だけではその後の再発がある程度起こりますが、導入療法後に追加する維持療法を行うことで、再発をかなり減らせることが明らかになりました。
大園 この臨床試験結果によって、健康保険の適応拡大が行われ、再発予防の目的でBCG維持療法を行えるようになったわけですね。治療の対象となるのは、リスク分類で高リスクの患者さんということになりますか。
樋之津 そうですね。再発までの間隔が比較的短いと予想される人、再発した腫瘍の数が多い人、組織の悪性度が高い人。こういった人がBCG維持療法の対象になると思います。
大園 維持療法としてBCG注入を加えることで、副作用はどうなりますか?
樋之津 導入療法だけの場合に比べ、副作用が出現する割合が高くなっています。また、強い副作用の現れる割合も高くなっていました。ただ、重篤な副作用は起きていません。

患者さんの体調に合わせた柔軟な治療を
大園 副作用に対してどのような対策がありますか。
樋之津 まず、それぞれの症状に対する対症療法ですね。痛みには内服の消炎鎮痛薬。頻尿には膀胱の容量を増やす働きのある抗コリン薬。また、軽い安定剤を使うことで、いろいろな症状が緩和されることがよくあります。維持療法では、副作用の症状によっては、1週休んで注入をスキップするという対策もあります。そのあたりは患者さんの状態に合わせて柔軟に考えてBCG注入を継続すればいいと思います。
大園 免疫療法としての効果を考えると、抗がん剤治療ほど、スケジュールにこだわらなくてもいいといえそうですね。
樋之津 仕事を持ちながら治療を続けている患者さんもいます。発熱などがあれば安静が必要ですが、それ以外なら、仕事をしながらでもこの治療はできます。
大園 BCG維持療法の今後の展望について教えてください。
樋之津 まず、BCGの投与方法を工夫していく必要があります。維持療法をいつまで続けるか、用量を減らすことで、効果を保ちながら副作用を減らせないか、といった研究が現在行われているところです。
その一方、BCGに代わる膀胱内に注入する薬剤の開発、あるいは膀胱内注入以外の方法で効果のある新しい薬剤の開発も行われていくと思います。
大園 今日は貴重なお話をありがとうございました。
(構成/柄川昭彦)
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