渡辺亨チームが医療サポートする:膀胱がん編

取材・文:林義人
発行:2006年3月
更新:2013年6月

痛みのない、ピンク色の尿は、膀胱がんの前兆だった

赤倉功一郎さんのお話

*1 血尿

尿の中に血液(赤血球)が混じることを血尿といいます。尿は腎臓でつくられ、尿管を通り膀胱に1度貯められたあと尿道から排泄されます。正常の人では尿中に赤血球は混入することはありませんが、この経路のどこかで出血していると血尿が出ることになるのです。また、男性の場合は生殖器(前立腺、精巣)と泌尿器がつながっているため、前立腺からの出血でも血尿を生ずることがあります。ただし、女性の場合は腟からの出血が尿に混じっても、血尿とは呼びません。

血尿の原因として最も注意しなければいけない病気はがんです。腎臓がん・腎盂がん・尿管がん・膀胱がん・前立腺がんなどのがんは血尿に結びつく可能性があります。また、大腸がん・子宮がんなど、尿路系臓器の周囲の臓器のがんが浸潤し血尿を生ずることもあります。

そのほかに血尿をもたらす病気の1つが結石です。腎臓でできた結石が尿管の細い部分に詰まり痛みと血尿を生じます。また、膀胱炎・前立腺炎・腎盂腎炎・尿道炎など、尿路系の臓器に細菌がついて起こる炎症でもしばしば血尿の原因となります。

血尿は吐血と同様に非常に重要な体のシグナルです。血尿に気づいたら、ただちに泌尿器科などの専門医を受診してください。

[血尿の原因とその頻度]

肉眼的血尿 頻度(%) 顕微鏡的血尿 頻度(%)
尿路感染症 33.0 原因不明 43.0
膀胱がん 15.0 前立腺肥大症 13.0
前立腺肥大症 13.0 尿路結石症 5.0
尿路結石 11.0 尿路感染症 4.3
原因不明 8.4 膀胱がん 4.0
腎がん 3.6 腎疾患 2.2
前立腺がん 2.4 腎がん 0.5
尿管がん 0.8 前立腺がん 0.5
その他のがん 0.6 尿管がん 0.2
    その他のがん 0.2

*2 膀胱がん

膀胱がんは人口10万人あたり毎年17人発生しており、それほど多いがんではありませんが、年々少しずつ増える傾向にあります。膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓でつくられた尿が腎盂、尿管を経由して運ばれた後に、一時的に貯める袋の役割を持っています。膀胱は中に尿が溜まって伸びると尿意が感じ取られ、筋肉が収縮することによって尿を出すという働きがあります。

膀胱の内側の表面は移行上皮という名前の上皮でおおわれ、よく伸び縮みします。膀胱がんの多くは、この移行上皮ががん化して引き起こされるもので、膀胱内に多発性に発生しやすい特徴があります���

膀胱がんはとくに男性に多く、男女の割合は約3対1です。60~70歳代にもっとも多く見られますが、まれに若い人がかかることもあります。また、治療後再発しやすいことでも知られるがんです。膀胱がんはどのくらいまで深く進行しているかで分類され、約80パーセントが上皮の表面側にとどまる表在性がん、残りの約20パーセントがそれより深く食い込む浸潤性がんになります。

*3 膀胱がんの症状

膀胱がんの初発症状は血尿です。結石や炎症が原因の血尿はだいたい痛みを伴いますが、膀胱がんの場合はほとんど痛みを覚えることがありません。これを無症候性血尿といいます。

膀胱がんの大部分は、膀胱壁の粘膜から発生します。膀胱は尿を一時貯める役割をしているので、がんの表面から出血すると、尿と混じり血尿となるのです。とくに見た目に尿に血が混じっている「肉眼的血尿」は、膀胱がんの疑いが強いと考えられます。

また、顕微鏡で調べて初めて血尿がわかる顕微鏡的血尿でも膀胱がんの可能性があり専門医による検査が必要です。

膀胱がんがあると、がんの表面には細菌がつきやすく膀胱炎が起こりやすくなり、このための出血が重なることがあり、このときは痛みを伴います。そのため、膀胱がんの症状としてほかに、膀胱炎のような症状や排尿時痛、頻尿や残尿感などが続く場合もあります。

[膀胱がんの症状]

初期 血尿(痛みもなにもないのに尿に血が混じる)
頻尿(排尿の間隔が短い、1回の排尿量が少ない)
夜間頻尿 就寝後に何度もトイレに行きたくなる、時には1時間ごとに行く
中期 上記の症状が頻繁になる
赤い尿が出た場合は、必ず泌尿器科の専門医の診察を受けること

*4 直腸診

直腸への触診による検査です。医師が手袋をした手指を肛門から直腸に挿入して前立腺や膀胱などのがんが触れるかどうか調べます。

*5 尿検査

目で見て血尿がわかる場合を肉眼的血尿といいますが、血尿があっても細い血管からの出血だと微量なので目で見てもわかりません。しかし、尿を採取して顕微鏡で見る健康診断の尿検査でも血尿が見つかることがあります。尿を遠心分離器にかけて沈殿して底にたまる尿中に含まれる固形物を顕微鏡で調べて1視野に4個以上の赤血球を認めた場合を顕微鏡的血尿とよんでいます。がんによる血尿も、顕微鏡的血尿で発見されることがあります。

*6 膀胱鏡

細い内視鏡を、直接膀胱や尿道の内部に入れて観察する検査で、血尿、尿路感染症、尿失禁、排尿障害、頻尿などの原因を詳しく調べるために行います。検査を受ける人が両足を開いた姿勢になって、尿道の出口から内視鏡を入れます。

かつては曲げ伸ばしできない硬性鏡というタイプの内視鏡しかありませんでしたが、最近は軟性鏡といって、ちょうど胃カメラのような曲げ伸ばしが自由にできるファイバースコープにより観察がより簡単にできるようになりました。軟性鏡を使っても、尿道は前立腺部から尿道振り子部にかけてほぼ直角に曲がった部分があるので、ここを通過するときは少し苦痛を伴います。

膀胱鏡検査の麻酔は、局所麻酔薬を尿道の出口から注入して、尿道を表面麻酔する方法を用いるか、肛門の少し上の仙骨に注射針で麻酔薬を注入する仙骨硬膜外麻酔のいずれかを行います。ただし、女性の場合は麻酔をしないのが一般的です。

[膀胱鏡を用いた検査]

写真:オリンパス製の膀胱鏡の先端部

患者の苦痛軽減を目指して開発されたオリンパス製の膀胱鏡の先端部

写真:軟性鏡

胃カメラのように自由に曲げ伸ばしできる軟性鏡
図:尿道の構造

尿道は、尿道振り子部から前立腺部にかけてほぼ直角に曲がっているので、軟性鏡でもここを通過するときは痛みを感じる


*7 膀胱がんの危険因子

膀胱がんは喫煙者の発生率が高く、喫煙する人では喫煙しない人と比較して膀胱がんの危険率が数倍高くなります。タバコの発がん物質が肺で血液に吸収されて体を巡り、最終的に尿として排泄されるとき、膀胱上皮を刺激し続けるためと考えられます。男性のほうが女性より発生率が高いのは、喫煙率が高いことも1つの要因です。

[喫煙のがんに対する危険性]
図:喫煙のがんに対する危険性

『予防がん学、その新しい展開』
(平山雄著、メディサイエンス社発行)より


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