渡辺亨チームが医療サポートする:膀胱がん編
T1N0M0の早期がんを内視鏡で治療。でも、再発が心配
赤倉功一郎さんのお話
*1 膀胱がんの画像検査
ひとたび膀胱がんがあることがわかったら、ほかのがんと同じようにX線CTやMRIなどを用いて、その広がりと転移の有無を調べる必要があります。膀胱がんの画像検査では、MRIはとくに膀胱の周囲におけるがん病巣の広がりを観察する上で有効です。とくにがんが粘膜内にとどまっているか、筋層へ達しているかを詳細にとらえることができます。また、CTは、がんが肝臓や腎臓、肺、骨などに転移していないかどうかを診断するのに役立ちます。さらに、膀胱にがんが見つかった場合、同じ移行上皮でおおわれている腎盂・尿管にも同様のがんが見つかる場合がありますので、腎盂・尿管の病変の有無を排泄性腎盂造影検査でチェックする必要があります。がんの確定的な診断には、腰椎麻酔をした上で膀胱鏡で粘膜を採取して生検することが必要です。
*2 排泄性腎盂造影
腎盂、尿管および膀胱のX線像を連続的に撮影して、これらの臓器にがんが存在するかどうかを調べます。造影剤を静脈に注入し、これによって腎盂、尿管、膀胱を描出して何らかの影(陰影欠損)や閉塞があるかどうかをX線像で確認します。
*3 表在性がん
膀胱がんは、3層構造をした膀胱内側の移行上皮と呼ばれる粘膜ががん化して引き起こされるものです。膀胱の内面に、茎が乳頭状に突出していますが、根元が粘膜の下の筋層に達していないタイプのがんを表在性がんといいます。内視鏡を使って切除できるので、膀胱を温存できるがんです。一方、がんが筋層に達しているものを浸潤性がんといい、こちらは基本的には膀胱摘除が必要となります。
*4 内視鏡生検

内視鏡で見た膀胱がん
膀胱がんの中でも悪性の場合には、深く根をはるように進行するものもあります。そこで乳頭状のがん組織を切除した場合も、その周囲の組織を取り出して、病理医が顕微鏡でがんの顔つきからどの程度がんが悪性かを調べます。グレード1、2、3で示され、グレード3が一番悪性度が高く、早期に浸潤や転移がしやすいとされています。
*5 内視鏡的腫瘍切除(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
主に表在性膀胱がんに対する治療法です。開腹手術をしなくても尿道から内視鏡(膀胱鏡)を入れて膀胱内の腫瘍を観察しながら電気メスで切除します。内視鏡手術はおおむね手術の次の日には食事、歩行、身の回りのことができ、2~3日で退院することも可能です。しかし、内視鏡的治療を受けたあとに半数以上の患者さんに腫瘍が膀胱内に再発するという問題点があります。また少数の患者さんで、悪性度の���いがんに移行する場合もあります。
手術前 | ●手術1~3日前に入院する。手術前日21時まで通常の飲食ができる |
---|---|
手術日 | ●手術当日のみ8時頃から20時頃まで点滴 ●手術時間はおよそ30分~1時間程度(手術室にいる時間は+1時間程度) ●麻酔は全身麻酔か腰椎麻酔 ●術後、尿道カテーテルが3日間程度留置 ●帰室4時間後より飲水と座位はできるが、食事・歩行はできない |
手術後 | ●手術翌朝より食事・歩行ができる ●手術翌日より尿道カテーテルが留置されたままだが、シャワーも可能 ●尿道カテーテル抜去後、数日の間に血尿の増悪がなければ退院できる |
退院後 | ●退院後、1週間は激しい運動、多量の飲酒は控える。入浴の制限はない ●ひどい血尿が出るときは連絡を |
*6 腰椎麻酔
主に下肢、下腹部の手術に用いる麻酔法です。脊髄は柔らかく衝撃に弱いので、豆腐のように防水性の硬い膜(硬膜)の袋の中に水(髄液)を入れこの中に浮かべられています。さらにこの硬膜の袋は、背骨の後ろで、骨で囲まれた管(脊柱管)の中で守られています。腰から長い針を刺して硬膜袋の中に麻酔薬を注入し腰から下の知覚神経と運動神経を麻痺させる麻酔法です。
*7 膀胱がんの病期分類
膀胱がんの病期は、一般にはTNM分類という方法で決めています。それは(1)局所でどれくらい進展しているか(T分類)、(2)リンパ節に転移がないか、あるとすればどの程度か(N分類)、(3)他の臓器に転移がないか(M分類)の3つの要素の組み合わせによるものです。佐々木さんのようにT1N0M0というふうに示し、これらの数字が高いほどがんは進行していることになります。
Tis | がんが上皮内に限局している |
---|---|
Ta | がんが粘膜内に限局している |
T1 | がんが粘膜下まで浸潤しているが、膀胱筋層にはおよんでいない |
T2 | がんが筋層まで浸潤している |
T3 | がんが筋層を越えて浸潤している |
T4 | がんが前立腺、子宮、腟、骨盤壁、腹壁、直腸など近接の臓器にまで浸潤している |
N0 | リンパ節に転移はない |
---|---|
N1 | 骨盤内に2cm以下のリンパ節転移が1個ある |
N2 | 骨盤内に2cm以上5cm以下のリンパ節転移が1個あるか、 5cm以下のリンパ節が複数個ある |
N3 | 骨盤内に5cmを超えるリンパ節転移がある |
M0 | 他臓器に転移がない |
---|---|
M1 | 他臓器に転移がある |
[病期(ステージ)分類]
0期 | TaN0M0 TisN0M0 |
---|---|
1期 | T1N0M0 |
2期 | T2aN0M0 T2bN0M0 |
3期 | T3aN0M0 T3bN0M0 T4aN0M0 |
4期 | T4bN0M0 すべてのTN1or2or3M0 すべてのTすべてNM1 |
同じカテゴリーの最新記事
- キイトルーダ登場前の時代との比較データから確認 進行性尿路上皮がんの予後が大幅に延長!
- 免疫チェックポイント阻害薬や抗体薬物複合体の登場で急激に変わった進行膀胱がん(尿路上皮がん)の薬物治療
- 尿路上皮がん(膀胱・腎盂・尿管)に新薬の期待 進行した尿路上皮がん治療に選択肢が増える
- 筋層浸潤膀胱がんに4者併用膀胱温存療法を施行 ~生命予後や合併症抑止に大きく貢献~
- 筋層浸潤性膀胱がんの最新情報 きちんと理解して、治療選択を!
- 膀胱を残す治療という選択肢を より多くの人が選べるよう実績を積んでいます
- 自分に合った尿路ストーマ装具で日々の暮らしをより豊かに
- 膀胱がんの基礎・最新治療 高齢化に伴い罹患率が上昇 5年生存率は病期別に10~90%
- 低侵襲、しかしがんの芽はしっかり摘む! 膀胱をとらずに治す「大阪医大式膀胱温存療法」とは