渡辺亨チームが医療サポートする:膀胱がん編
再発予防のBCG膀胱内注入療法で、自信を得て社会復帰
赤倉功一郎さんのお話
*1 表在性膀胱がんの手術後の経過観察

一般的には表在性膀胱がんの手術後は、それほど生命に関わることはありません。ただし、7割以上は再発し、再発を繰り返すうちに浸潤性膀胱がんとなったり、転移を生じることがまれにあります。再発の早期発見のため、術後2年までは3カ月に1度、2年から5年までは6カ月に1度の膀胱鏡検査が必要です。
*2 CIS
Carcinoma in Situ。肉眼では腫瘍が確認できない上皮内がんのことです。
*3 BCG膀胱内注入療法

成分は生きたカルメット・ゲラン菌(BCG)
結核の予防ワクチンBCGと同じく、結核菌の毒性を弱めた製剤を膀胱内に注入して、がんの治療や再発予防をはかる治療です。
隆起した腫瘤を形成しない膀胱上皮内の治療と、表在性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除術後の再発予防としてこの治療を行うことがあります。完治の割合は、上皮内がんで約60パーセントです。それ以外のBCG注入療法に反応が悪い上皮内がんは浸潤がんに進行することがあり、その場合は膀胱全摘除術の適応となります。
また、表在性膀胱がんに対して経尿道的膀胱腫瘍切除術後、以前は50パーセント以上の人が2年以内に再発し、70パーセント以上が再発しますが、BCG膀胱内注入法が行われるようになり、再発は20パーセント前後まで激減しています。この治療法は2004年に保険適応になっています。
*4 がん免疫療法
体内に外から細菌やウイルスなどの病原体や花粉、毛、薬剤、化学物質などが侵入してくると、体に備わった免疫システムは、これらを「敵」と見なして排除しようと働きます。このように免疫システムから「敵」と見なされて、反応を引き起こすようなものを「抗原」といいます。がん細胞は、体外から侵入してきたものではありませんが、異常な細胞なので、体の中では「敵」と見なされ抗原になりうるものです。
そこで、がん細胞に「これは抗原だ」という目印を持たせたり、免疫システムを受け持つ免疫細胞の働きを活発にして、免疫システムにがん細胞を攻撃させようというのが免疫療法といわれるものです。が、がん細胞はもともと正常細胞から生まれたものなので、抗原と認識されにくい面もあり、これが免疫療法の壁となっています。がんの免疫療法は古くから期待され、様々な試みがなされてきましたが、まだ決定的な抗がん効果は示されていません。
*5 BCG注入療法のメカニズム
BCGが膀胱がんの予防に働くはっきりしたメカニズムはわかっていませんが、免疫療法の1つと考えられています。BCGはがん細胞の表面にあるフィブロネクチンというタンパク質に付着し、その細胞内部に取り込まれると、「ここにがんがある」と示されるようです。すると、免疫系細胞のマクロファージが活発に働き、腫瘍細胞を貪食・破壊して表面のがんのある粘膜を剥ぎとっていくという考え方も示されています。また膀胱局所でがんに対する免疫能を強くするという作用もあるようです。
*6 BCG膀胱内注入療法の副作用
BCGは抗がん剤の膀胱内注入より症状が重く、頻尿・排尿痛、血尿などの膀胱刺激症状、関節痛、腰痛、発熱、発疹などの症状がかなりの確率で起こります。ただ、これらの多くは1、2日で軽快します。しかし、まれに結核感染症、高度なアレルギー反応、萎縮膀胱(膀胱が炎症により小さくなり使い物にならなくなる)など強い症状を生じることがあり、死亡例も報告されています。
- 注入当日、37~38℃程度の熱が出る。通常は1~2日で自然に下がる。他に、筋肉痛、関節が痛い、体がだるい、頭痛、頭が重い、咳が出る、痰が出る、息苦しい、体重減少、食欲不振等
- 排尿時の痛み、尿の回数が多い、赤味がかった尿が出る、尿が濁る、尿が出にくい、尿を出すときに痛い、残尿感がある。程度が強い場合は、治療を中断し、痛み止めなどを使用
- 萎縮膀胱。膀胱が不可逆的に小さくなると、激しい頻尿と下腹痛。尿路変向術が必要になることも
- 数日~数週後、まれに間質性肺炎になる。38℃を超える発熱が2日以上続く、空咳(痰の出ない咳)、軽い動作や運動時の息切れ、息苦しい等
- 精巣上体炎という副作用。陰部がはれる、陰部が痛い、発熱等
- 発熱、倦怠感、敗血症、肝障害、アレルギー(ショック)など、まれに危険な症状も。体力が低下し、免疫状態の低い方、あるいは重度な結核感染の既往のある方にはBCGは禁忌。症状がひどい場合は、抗結核薬や副腎皮質ホルモンによる治療が必要
*7 BCG膀胱内注入療法の禁忌
BCG注入療法は、体の免疫力が弱っている人は使用できません。たとえば、エイズや白血病にかかっている人、あるいは抗がん薬や免疫抑制薬、大量のステロイド薬、抗菌薬を服用中の人などは免疫力が上がりにくく、全身性の結核に感染してしまうおそれがあります。これらのことがあったら、医師にきちんと伝えて相談してください。
*8 BCGの投与法

BCG膀胱内注入療法において、BCGをどのくらいの量投与するのがよいか、どのくらいの間隔で投与したらよいかなどについては、決まった見解はありません。多くは週に1回、この薬をカテーテルで膀胱内に注入して、2時間ほど保持し腫瘍細胞と十分接触させます。これを計8回、8週にわたり繰り返します。日本では、BCGの投与方法は1回量として「東京172株」あるいは「コンノート株」という品種80ミリグラムを40ミリリットルの生理食塩水に混濁したものを注入することが多いようです。しかし、最近ではこの半分の用量(1回40ミリグラム)でも、80ミリグラムと同等の再発予防効果が得られるという報告があります。
*9 BCG抵抗性の表在性膀胱がんの治療

ジェムザール
2005年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、BCG療法に抵抗性の表在性膀胱がん(Ta~T1ステージ)の症例に、ジェムザールが有効であったという報告がなされました。BCG療法と同じようにジェムザールを生理食塩水に溶解し、膀胱にカテーテルを使用して直接注入する療法を6サイクル行うものです。この報告では45名に行い、14カ月の段階で3名が6カ月以内に再発、2名が9カ月以内に再発、1名が12カ月以内に再発しました。再発率13・3パーセント、毒性は1名のみで局所的なものであり、BCG療法と副作用については大差ないと思われます。いずれ1回以上BCG療法を行って再発した表在膀胱がんには、ジェムザールの投与が選択されることになるかもしれません。
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