血液がんの基本を知ろう 治療成績は上がっている

監修●鈴木憲史 日本赤十字社医療センター副院長・血液内科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年5月
更新:2019年7月


Q5 検査はどのように行われますか?

図4 骨髄検査の針を刺す部位

血液がんの可能性があるときは、まず骨髄検査が行われます。腰などに針を刺し、骨髄の中の骨髄液を取り出します(図4)。これをもとにMIC検査といって、血液細胞の形態(M)、細胞表面抗原のタイプ(I)、遺伝子の変異状態(C)が調べられます。結果により、CTやMRIなどの画像診断が行われます。

悪性リンパ腫では、健康診断のX線検査で肺のリンパ節の腫れが見つかったり、血液検査のLDH(細胞酵素)が高まったりして発見されることがあります。

多発性骨髄腫は、自覚症状があっても、医院によっては早期診断ができないケースもあるため、早期発見のために自分から「多発性骨髄腫では」と医師に相談することも大切です。

Q6 どういう治療法がありますか?

治療法は、先に挙げた3大血液がんによって違います。化学療法と造血幹細胞移植が主体となります。詳しくは、これ以降の特集ページで説明されます。

共通して言えることは、近年は分子標的薬などが長足の進歩を遂げているため、以前のような「治らないがん」「生存率が低いがん」というイメージは変わってきています。

Q7 副作用はありますか?

化学療法が必要なため、どうしても副作用は起こります。急性白血病の場合は脱毛や倦怠感、免疫力の低下があります。そのため治療は無菌室で行われます。

慢性骨髄性白血病で主力となるグリベックは、吐き気、下痢、浮腫が起こり得ます。

悪性リンパ腫では、発熱、吐き気などが起こり、多発性骨髄腫では神経性の足のしびれが多く起こります。

しかし、現在では支持療法(サポーティブケア)という、これらの副作用をコントロールする治療法が併用されており、QOL(生活の質)をなるべく低下させない治療が行われています。

グリベック=一般名イマチニブ

Q8 移植はどのように行われますか?

図5 造血幹細胞移植の種類

造血幹細胞移植とは、血液細胞の基になる造血幹細胞を移植して、正常な血液を増やそうという治療法です。移植の方法は大きく4つあります。骨髄移植、臍(さい)帯血移植、末梢血幹細胞移植、自家造血幹細胞移植です。この中で、自家造血幹細胞移植は患者さん本人の造血幹細胞を使いますが、あとの3つはドナー(移植提供者)からの造血幹細胞を用います(図5)。

ドナーから移植を行うには、HLAという遺伝子の型が適合している必要があり、兄弟での適合率��3割ほどとされています。

ミニ移植という方法もあります。通常のフル移植では、事前にがん細胞を徹底的にやっつけた後に行われるため大量の抗がん薬の投与が必要です。しかし、この方法は患者さんにも負担が大きく、この過程で亡くなってしまう方もいます。高齢者にはとくに過酷な治療となります。そこで生まれたのが、ミニ移植です。

ミニ移植は、移植前の化学療法の量を減らして、薬の毒性を軽減し、GVL(移植片対腫瘍効果)を期待します。フル移植では、大量の抗がん薬投与により、肝臓、心臓、腎臓などが障害を受けることがありました。そのため適応される年齢は55歳ほどまでで、心臓や腎臓に障害を持つ患者さんは、移植を受けることはできませんでした。ミニ移植により、60歳以上の患者さんにも移植の道が開けています。

求められるオーダーメイド医療 日本赤十字社医療センター血液内科部長 鈴木憲史

3大血液がんを発症率でみると、白血病が10万に7~8人、悪性リンパ腫が10万人に10人、多発性骨髄腫は10万人に3人くらいの割合です。

私は35年ほど血液がんの治療現場にいます。多発性骨髄症を例にとっても、新薬など様々な進歩を経験してきました。若い患者さんには治癒を目指したいし、高齢者でもせめて平均余命の半分は生きていただきたい。

これまでは医師のさじ加減でやっていたところも大きいのですが、共通した治療をしようということで、高齢者のハンデとなることをスコアリングして、若い人のように治療する方を「go-go」、そうではない方は「slow-go」などと分類して治療しようという方向にあります。加えて、免疫療法も、抗体療法もこれから出てくるはずです。

治療では染色体の異常や患者の状態などを考え、何が一番いいのかということが考えられています。オーダーメイド治療といいます。米国では「risk adopted treatment」と言って、予後について、良い・悪いを分けて治療を行います。これに対し、欧州では「one fits all」といって、まずはみんな同じようにがっちり治療していくのがいいのではという考えが主流です。

血液がんの治療は、例えるなら〝アメリカンフットボール〟です。相手(がん)の出方が100通りあれば、それを理解して対応しなければならない。戦略の中心となるクオーターバックのような優秀な薬剤もたくさん出てきました。それをどう使って、寛解に持って行くかが医療者にとっての課題です。

1 2

同じカテゴリーの最新記事