血液がんの基礎、データでみる治療成績の変遷(年次推移)と最近の話題
慢性骨髄性白血病(CML)患者における生存率の変遷(1983-2008年)
慢性骨髄性白血病(CML)に対しては、20~30年前には化学療法(ヒドロキシウレア:1980年代)、インターフェロンα(IFN-αをベースとした治療:1985年導入)、造血幹細胞移植(SCT:1990年代以降)など限られた治療法しかありませんでした。しかし、2001年に分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)の*イマチニブの登場(米国食品医薬品局FDA承認)により、生存率は大幅に改善されるようになりました。図4は2008年にドイツの慢性骨髄性白血病研究グループが報告した治療薬別の生存率の比較です。

さらに、イマチニブを第1世代の分子標的薬とすると、阻害作用のより強い第2世代の分子標的薬として*ダサチニブ(2006年FDA承認)と*ニロチニブ(2007年同)が登場し、イマチニブ抵抗性/難治性及び不耐容例に対する2次治療として用いられるようになりました(現在は1次治療にも適応)。さらに2012年には第3世代の*ボスチニブがFDAで承認されています。
*イマチニブ=商品名グリベック *ダサチニブ=商品名スプリセル *ニロチニブ=商品名タシグナ *ボスチニブ=商品名ボシュリフ
多発性骨髄腫(MM)における治療選択肢の増加と生存期間の推移
多発性骨髄腫(MM)は治癒しないがんとして認識されていますが、治療法は最近10数年で目覚ましい進歩を遂げ、全生存期間(OS)も延びています(図5)。

治療は、化学療法と自家末梢血幹細胞移植(ASCT)を伴う大量化学療法が主体となります。化学療法の変遷を見てみると、今から50年ほど前に登場したのが*MP療法です。80年代になると*VAD療法が導入されました。さらに、90年代に入ると自家末梢血幹細胞移植が行われるようになるとともに、骨の痛みの軽減や骨折防止を目的にビスホスホネート系製剤が使用されるようになり、患者さんのQOL(生活の質)も向上していきました。
2000年代に入ると*ボルテゾミブ、*サリドマイド、*レナリドミドなど「新3薬」と呼ばれる治療薬が登場。以後、これらの薬剤が広く使用されるようになり、それぞれの位置づけ、使い方が医療者に理解されるようになってき���した。
これに伴い、かつては生存期間が3年だったものが、現在では平均7年、場合によっては10~15年も生存できるようになってきています。また現在開発中の新薬に対しても大きな期待が寄せられています。
*MP療法=メルファラン+プレドニゾロン *VAD療法=ビンクリスチン+ドキソルビン+デキサメタゾン *ROAD療法=ラニムスチン+ビンクリスチン+デキサメタゾン *ボルテゾミブ=商品名ベルケイド *サリドマイド=商品名サレドカプセル *レナリドミド=商品名レブラミド
最近の話題 2次性白血病発症機序の新しい知見
血液がん領域において、最近の話題となっているのが2次性白血病(治療を受けた後に発症した白血病)の発症機序についてです。

治療関連性の急性骨髄性白血病(t-AML)および骨髄異形成症候群(t-MDS)は細胞毒性をもつ化学療法や放射線療法の合併症として知られています。そしてt-AML/t-MDSにはTP53遺伝子の変異が関与しているとされてきました。
しかし最近の研究で、TP53遺伝子変異に化学療法は直接的にかかわっているのではなく、加齢が関与していることが明らかになってきました。これは加齢に関連したTP53遺伝子変異をもつ稀な造血幹細胞/前駆細胞(HSPCs)が化学療法に抵抗性となり、治療後も優先的に増殖している(加齢に伴う血液のクローン性増殖)ということです。
17,182人の末梢血細胞DNAの全エクソシームシーケンスデータ解析を行った別の研究では、体細胞突然変異(somatic mutations)は40歳以下では稀だったものの、加齢とともに頻度が高まり、60歳代で5.6%、70歳代で9.5%、80歳代で11.7%、90歳以上で18.4%に認められました。これらの体細胞突然変異は、血液がんのリスクや全死因死亡(allcause mortality)などの増加と関連していると言われています。