貴重な患者さんの声が明らかに!急性白血病治療後の患者QOL調査

監修●黒澤彩子 国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科
取材・文●池内加寿子
発行:2015年6月
更新:2015年8月


移植後の身体的QOLはGVHDの有無によって左右される

一方、自由記載欄では、移植群は身体面の訴えの記載が多く、化学療法群では精神面の訴えの記載が多い結果だった(図4)。

「今回の研究で明らかになった、移植後のQOLの低下要因は、GVHDがある、免疫抑制薬を服用している、職場復帰をしていないことなどでした」

GVHDとは、移植したドナーのリンパ球が患者さんの体に生着した後、患者さん自身の体を異物とみなして攻撃するために起こる合併症。生着から移植後2~3カ月に起こる急性GVHDは皮膚・肝臓・腸の障害が多く、重症化した場合には皮膚が火傷のようにただれたり、毎日2~3Lの下痢が続くなど、激烈な症状が起こることもある。退院してからも慢性のGVHDでは、目が乾く、口の中が荒れる、筋肉や関節が硬くなる、肺が悪くなるなどの症状が全身に起こり、数年にわたって症状が続くこともある。

GVHDの治療として免疫抑制剤の投与を移植日の前日から少なくとも半年から1年ほど続けるが、その影響で非常に感染症にかかりやすくなり、重症化しやすい。GVHDの治療として投与されるステロイドの影響で、骨が弱くなったり糖尿病になるなど晩期の合併症が起こることもあり、GVHDそのものの症状のほか、治療薬による合併症で、身体的なQOLが低下する。

「移植を受けた方のうちGVHDがある方からは、ドライアイや白内障、視力が落ちて運転免許が更新できない、正座ができなくて困る、肺機能の低下で動くと苦しいなど、身体面のコメントが多くみられました(図5)。GVHDの症状や治療薬の副作用が身体面だけではなく、精神面、社会面のQOLも低下させうることが伺える内容でした」

図4 自由記載欄コメント数における治療別に見た身体・精神面の訴えの割合
(化学療法 VS 移植後GVHDなし VS 移植後GVHDあり)

図5 患者さん(移植後GVHDあり)の身体面に関する自由記載コメント

患者さんからの要望が多かった長期フォローアップ

一方、化学療法群では、精神面に関する訴えの割合が高く、治療後のサポートが不足している、再発の不安、性の問題を相談する場がないといった記載が寄せられた(図6)。化学療法の患��さんが、再発の不安を含めて、こんなにも精神的な訴えを抱えているということは、医師たちも予想外だったという。ただし、「自由記載欄には〝何か訴えたいこと〟がある方が記載しているということにも留意が必要です」と黒澤さんは話している。

また、自由記載の中には医療現場への要望もあがっており、「相談窓口の設立」「不妊・卵子精子保存の説明、タイミングを改善して欲しい」「医師による説明の改善をして欲しい」といった意見が多くあがっていた(図7)。とくに「相談窓口の設立」に関しては要望も多かったが、現在、そのような場所はないのだろうか。

「2012年から、移植後の患者さんの生活をサポートする〝長期フォローアップ外来〟の設置を厚労省が推奨しています。当院では全国に先駆けて8年前に看護師による外来相談窓口として開設され、現在は医師、看護師、薬剤師、管理栄養士等の多職種がチームとなって合併症管理、生活指導を行い、また相談窓口となっています。各地の拠点病院でも開設が進んでいると思われます」

一方、化学療法を受けた患者さんは、医療者の予想以上に精神面での訴えが多かったが、化学療法後は治療を受けた病院の通常の外来通院が主で、移植後のような長期フォローアップ外来は特別に設けられていない。相談がある場合、治療を受けた病院の医師や看護師と連絡を取るとよいだろう。

「今回の調査は患者さんの声という意味ではとても貴重なものだと思います。治療に携わる医師には、今回の情報をぜひ知ってもらい、これから治療を受ける患者さんにうまく活用して頂ければと思っています」

図6 患者さん(化学療法後)の精神面に関する自由記載コメント
図7 医療現場への要望(自由記載欄より)

○印は、その中でも移植後長期フォローアップ外来で対応できると思われる項目
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