まずはフィラデルフィア染色体の有無を知り、有効な治療戦略を決めることが先決 化学療法が基本。急性リンパ性白血病の最新治療

監修:秋山秀樹 東京都保健医療公社荏原病院副院長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年4月
更新:2013年4月

抗がん剤の副作用で白血球が激減する

[寛解導入療法と地固め療法]
寛解導入療法と地固め療法
 
[感染症を発症しやすい時期]
感染症を発症しやすい時期

寛解導入療法も地固め療法も、数種類の抗がん剤を併用する治療なので、強い副作用が現れる。

「最も重要な副作用は、骨髄抑制です。白血球が減り、赤血球が減って貧血になり、血小板が減ります。白血球が減ると、感染症が起こりやすくなるため、感染防止に努める必要があります。血小板が下がると出血しやすくなるので、それに対する注意も必要です。貧血や出血を防ぐために輸血が必要になることもあります」

骨髄抑制は、抗がん剤の投与後数日して目立ち始め、白血球数は投与後10~14日ごろに最低になる。そして、投与後4週間ほどをかけて、回復してくるのである。

このような副作用以外に、それぞれの抗がん剤によるさまざまな副作用が現れる。口内炎、下痢、吐き気や嘔吐、脱毛などである。

副作用に対しては、それを予防したり軽減したりするために、支持療法が行われることがある。

移植を念頭において治療を進める

寛解導入療法、地固め療法、維持・強化療法と化学療法を繰り返して、病気を抑え込むことができても、しばらくすると再発してくることが多い。

「再発率は患者さんの年齢などによっても異なり、一概に何%とは言えませんが、少なからぬ人に再発の可能性があります。そこで、この病気の場合、造血幹細胞移植のことを念頭に置いて、治療を進めていくことが大切です。ドナーが適合する患者さんがいて、条件などが合えば移植するというのが原則です」

移植がうまくいけば、急性リンパ性白血病が完治する可能性が高まると考えられる。だが、危険を伴う治療であることも理解しておかなければならない。

「大まかな数字ですが、兄弟間の移植であっても、移植によって5���に1人が命を落とします。病気によってではなく、移植したことによって、命を落としてしまうのです。移植にはそういうリスクがあります」

[急性リンパ性白血病 造血幹細胞移植の適応ガイドライン]

病期 リスク 同種移植 自家移植
HLA適合同胞 非血縁
第1寛解期 標準
リスク
〈標準治療とは言えず、臨床試験
として実施すべき〉
〈標準治療とは
言えず、臨床
試験として実
施すべき〉
高リスク 〈積極的に治療を勧める〉/
〈移植を考慮するのが一般的〉
第2以降の寛解期   〈積極的に治療を勧める〉
早期発見   〈移植を考慮するのが一般的〉 〈一般には勧め
られない〉
再発進行期/
寛解導入不応
  〈移植を考慮するのが一般的〉/
〈標準治療とは言えず、臨床試験
として実施すべき〉
高リスク=予後不良染色体異常あり、30歳以上、寛解まで4~6週間以上、診断時白血球3万以上、などの因子を持つ

移植の安全性は、白血球の血液型ともいわれるHLA(ヒト白血球抗こうげ原ん)が合っているかどうかが重要である。HLAの適合するドナーが見つからず、完全に合っていないドナーからの危険性の高い移植も行われている。

「この病気は長期生存率が低いので、たとえ危険でも移植を受ける価値はある、と考えるのでしょう。しかし、それで命を落とす人がかなりおられるのも事実なのです」

移植を行うべきかどうかに関しては、日本造血細胞移植学会が、図に示したような『造血幹細胞移植の適応ガイドライン』を作っているので、参考にするとよいだろう。

フィラデルフィア染色体陽性ならグリベックが効果的

[フィラデルフィア染色体を持つ急性リンパ性白血病]
フィラデルフィア染色体を持つ急性リンパ性白血病

急性リンパ性白血病の治療は、分子標的薬のグリベック()が登場したことで、大きく変わってきた。グリベックは慢性骨髄性白血病の特効薬として知られているが、フィラデルフィア染色体(Ph)を持っている急性リンパ性白血病にも効果がある。

フィラデルフィア染色体とは、9番と22番の染色体の一部が切断され、それが相互に入れ替わる" 転座"と呼ばれる状態が起きたことでできる。通常より短くなった22番染色体が、フィラデルフィア染色体と呼ばれている。

グリベックが登場して以降、フィラデルフィア染色体陽性の患者さんを対象に、抗がん剤による治療と、抗がん剤にグリベックを併用する治療の比較試験が行われている。結果は、グリベックを加えたグループの生存率が格段によくなっていた。

「グリベックが効くことはわかりましたが、それで治ってしまう人がいるのかどうかは、長期的に見ていく必要があり、現在の段階ではまだわかっていません」

フィラデルフィア染色体陽性の患者さんにグリベックは効果的だ。その治療で完全寛解が続いている場合でも、移植を受けたほうがいいのだろうか。あるいは、受けないほうがいいのだろうか。もし薬で治ってしまうなら、移植を受けるメリットはなくなることになる。

「これは世界的な問題になっていますが、まだ答えは出ていません。ただ、現在の一般的な認識としては、比較的安全な移植ができるのであれば、受けたほうがいいだろうと考えられています」

現在はグリベック以外に、スプリセル()、タシグナ()といった分子標的薬も使用できるようになっている。薬による治療が進歩することで、今後、急性リンパ性白血病の治療が変わっていくことは十分にありそうである。

グリベック=一般名イマチニブ
スプリセル=一般名ダサチニブ
タシグナ=一般名ニロチニブ


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