新薬登場で骨髄移植が不要な患者が増加する可能性 急性骨髄性白血病(AML)に対する新しい分子標的薬が次々に登場予定

監修●矢野真吾 東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科教授/腫瘍センター長
取材・文●伊波達也
発行:2018年11月
更新:2019年9月


FLT3阻害薬の可能性

慢性骨髄性白血病は、以前は骨髄移植を避けられなかったが、グリベック(2001年)、スプリセル(2009年)いう分子標的薬の登場により、70~80%で骨髄移植を行わなくてもよくなった。5年生存率は約95%、70~80%の人が再発せずにいる。

急性リンパ性白血病でも、グリベックやスプリセルが使えるようになり予後はかなりよくなった。

急性骨髄性白血病においても、まさにそういう状況が期待できるようになりそうだ。

「急性骨髄性白血病に対するFLT3阻害薬の治療効果は期待できますし、完全寛解(CR)率も改善する可能性がありますが、今のところは、検証中という段階と言えます。これからの臨床上のデータを見ていかないと、どの程度治療成績の向上につながるかはっきりしたことは言えません。しかし、治療効果は実証されつつあり、単剤で抗白血病効果を認める薬剤は、初回治療から他の化学療法と併用することにより、治癒率を向上させる可能性はあると思います。

単剤でFLT3阻害薬ほど抗白血病効果を認めない別の薬剤でも、高齢者や全身状態が悪く治療ができない人、または通常の抗がん薬に抵抗性を示す若い患者さんに対して、白血病の状態を改善することに目的に使用することができます」

そして、FLT3阻害薬は、再発・難治性の患者に対して、安全性と有効性が認められれば、将来は初回治療から使えるようになるだろうと矢野さんは話す。

グリベック=一般名イマチニブ スプリセル=一般名ダサチニブ

標的分子の異なる分子標的薬も続々

FLT3阻害薬以外の薬も、現在4剤が治験中だ。

BCL2阻害薬であるベネトクラクス(一般名)は、高齢者や化学療法が適応できない患者向けだ。BCL2阻害薬はアポトーシス(プログラム化された細胞死)が起きるときに重要な役割をするBCL2タンパクを阻害する。

もともと骨髄異形成症候群(MDS)という疾患に対して、わが国で承認されていたビダーザなどのDNAメチル化阻害薬は、副作用の少ない薬と併用して、生存期間を延長させるため、比較的安全に治療���できる薬の選択肢が増えて、対象患者も増えると期待されている。現在、同種の薬であるグアテシタビン(一般名)が第Ⅲ相治験中だ。

また、SMO分子を標的とするグラスデギブ(一般名)という薬は、通常の化学療法の適応がない高齢者が対象で、初回治療の治療増強効果を狙うのが目的で第Ⅲ相治験中だ。

さらにNEDD8活性化酵素を標的とするペボネディスタット(一般名)という薬は、再発した高齢者の生存期間の延長を期待しての第Ⅲ相治験が行われている。

欧米では、IHD2阻害薬という白血病の別の経路を阻害するエナシデニブ(一般名)という薬も承認されている。対象となるのはIHD2という遺伝子に変異のある人で白血病患者の10%くらいが該当するという。

CPX351というシタラビンとダウノルビシンを5対1に混合させたリポゾーム化した製剤は、少ない投与量で済む。高齢者と2次性白血病の患者において通常の化学療法より良好な成績が出て、米国で承認された。これらはいずれも再発・難治性急性骨髄性白血病を対象とした薬だ。わが国でいつ頃承認されるかは、現時点ではわからないが、選択肢の増加に期待したい。

ビダーザ=一般名アザシチジン

高齢者へのプロトコルの確立が必要

冒頭で記したとおり、予後中間群の患者は、できれば移植を避けての完全寛解を目指したい。そうすればつらい治療と、3カ月の入院と仕事復帰までの半年という時間が不要になる。

「同種移植は治療関連死亡率が10~20%あるのは事実です。5人に1人は治療で命を落とすわけですから、白血病の予後中間群の患者さんに対して、新規薬剤を使用することにより、同種移植を回避できれば喜ばしいことだと思います」

再発した白血病については、分子標的薬療法によりもう一度寛解して移植へ向かうという使い方もできそうだという。

そして、急増する高齢者に対する治療対策も最重要課題だ。

「今、高齢者の化学療法の成績が非常に悪いのです。高齢者の白血病はシタラビンとアントラサイクリン系の薬の併用で寛解は望めますが、再発率が高いため、米国血液学会(ASH)の2014年度版educational bookでは寛解を得た75歳以下の元気な高齢者に対して同種移植を推奨しています。日本では移植推奨は一般的に65歳以下ですが、新しい薬によって移植なしで生存期間の延長を期待したいところです」

わが国の血液内科のほとんどの施設が参加している成人白血病グループでは、若年者に対する治療のプロトコルを定めているが、高齢者の治療についてはプロトコルがなく、施設ごとにバラバラなのだそうだ。高齢者向けのプロトコルが確立されることも待たれる。

「当院では、元気な高齢者に対しては、若い人より薬の投与量を減らし治癒を目指した治療をしています。寛解に入った場合には、その後も治療を継続します。全身状態が良好な患者さんには同種移植を勧めることにしています。再発をした高齢者の患者さんに対しては、薬剤を工夫して投与しながら生存期間を延ばし、家族と良い時間を過ごしてもらうような工夫を、個々の患者さんごとにオーダーメード治療として実施しています。新規薬剤が増えてくれば、既存の薬より治療効果が期待できるので、治療の選択肢は確実に増えるでしょう」

将来的には、今話題の免疫チェックポイント阻害薬療法やCAR-T療法等の免疫療法も、移植後、寛解の状態での再発予防に使うような使い方はあるかもしれないと矢野さんは話す。

いずれにせよ、今後、分子標的薬や免疫療法により、急性骨髄性白血病の治療は、必ず患者の福音となることは間違いなさそうだ。

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