新たな造血幹細胞移植法も出てきた! 化学療法と移植で根治を目指す急性骨髄性白血病の最新治療

監修:神田善伸 自治医科大学付属さいたま医療センター血液科教授
取材・文:町口充
発行:2012年4月
更新:2013年4月

HLAの一致が条件

[骨髄の断面]
骨髄の断面

濃い部分が血液細胞を造りだす造血組織

[造血幹細胞の分化の仕組み]
造血幹細胞の分化の仕組み


造血幹細胞は通常は骨髄にあります。一方、G-CSF()という白血球を増やす薬を注射すると末梢血(体のなかを流れている血液)の中にも増加することがわかってきました。また臍帯血(へその緒)にも豊富に含まれています。そこで造血幹細胞移植には、骨髄を採取して移植する骨髄移植と、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の3種類があります。

どんな移植を選択するかというとき、まず判断するのは誰からもらうか、ということ。自分以外の他人から造血幹細胞をもらう同種造血幹細胞移植と、自分の造血幹細胞をあらかじめ採取しておいて体に戻す自家造血幹細胞移植の2つの方法があり、どちらかを選択します。

自家移植は、自分の血液細胞を戻すので白血病細胞が紛れ込んでしまい、再発する可能性が高くなります。このため急性骨髄性白血病では同種移植が多く行われます。

同種移植は、骨髄にするか末梢血にするかで、治療成績にほとんど差はないといいます。

「臍帯血も有効ですが、赤ちゃんが生まれたときの胎盤から血液をとっているので、とれる造血幹細胞数に限界があり、移植するとき細胞数が少ないという難点があります。しかし、ドナーに全く負担がかからないという点は大きな魅力です」と神田さん。

ドナーを選ぶとき、1番大事なのはHLA型という白血球の型が一致しているかどうか。不一致だと移植片対宿主病(GVHD)という副作用があらわれ、ドナーの細胞が患者さんの細胞を攻撃してしまい、悪くすると命にかかわることもあります。

このため、移植はHLA型の完全一致が基本。HLA型の不一致が1個だけなら通常の免疫抑制剤を使っての移植も可能ですが、不一致が2個以上だと成績が大幅に下がるため、以前はほとんど実施されていませんでした。

[ドナーの選択順位]

1位 HLA型の適合する血縁者
2位 HLA型の適合する非血縁者
(骨髄バンクのドナー、DRB1の遺伝子型が1つだけちがうドナーを含む)
HLA型が1つだけちがう血縁者
3位 非血縁者の臍帯血
HLA型が2つか3つちがう血縁者
HLAのAあるいはBの遺伝子型が1つだけちがう非血縁者
HLA型がDRの血清型が1つだけちがう非血縁者
*同種移植のみに認められる相違点

G-CSF=顆粒球コロニー刺激因子製剤

ミスマッチ移植とミニ移植

ところが最近では、不一致が2個あるいは3個あっても移植することが可能になってきました。

移植片対宿主病はドナーの細胞が患者さんの細胞を攻撃するのですが、中でも問題なのはT細胞というリンパ球です。このT細胞を壊す抗体を移植のときに用いることによって、T細胞を抑え、移植片対宿主病を軽くします。

このような移植はHLAミスマッチ移植と呼ばれますが、この治療を行うには移植する側の慣れが必要なので、行える施設は限られています。

「臍帯血移植はHLAが1、2個ちがっていてもGVHDはほとんど問題になりませんので、HLAの一致したドナーが見つからない方には臍帯血移植も候補になります」

また、造血幹細胞移植の前に行う過酷な治療は、高齢者や体力の弱っている人には難しく、このような患者さんのために、移植前の抗がん剤と放射線を軽くしたミニ移植と呼ばれる方法も行われます。

「抗がん剤や放射線の量が減るため、移植しても白血病が再発してしまう危険が高くなる可能性はありますが、ドナーの免疫力(GVL効果)にも期待した治療法です」と神田さん。

移植の成績は、寛解期の患者さんの移植では10年生存率が60~70%というデータがあります。しかし、寛解に入らない状態で移植すると、移植を行っても再発してしまうことが多く、根治する可能性は低くなっています。

移植には注意も必要

[治療ごとの安全性と抗腫瘍効果]
治療ごとの安全性と抗腫瘍効果

化学療法のみは安全性は高いが腫瘍を叩く効果は低い。逆に移植を行えば治療の安全性は低くなり、腫瘍を叩く効果が高くなる。患者さんの病状に併せた治療法を選ぶ必要がある

 
[化学療法と造血幹細胞移植を行った際の生存曲線イメージ]
化学療法と造血幹細胞移植を行った際の生存曲線イメージ

短期的には移植合併症による死亡のため、生存率は下がってしまう可能性がある。しかし長期的には移植により再発率が低下すれば生存率は逆転することを期待している

このように急性骨髄性白血病はより強力な抗がん剤治療を行うためにさまざまな方法の移植法が開発されています。しかし、神田さんはそんな移植に対し注意点も指摘しています。

「確かに造血幹細胞移植は通常の治療で根治することが難しい人に対して、行う有効な治療法です。もう1つ大切なこととして、副作用がとても強い治療だということをしっかり把握してください。最悪の場合には治療の副作用で命を失う可能性もあります。そのようなマイナス面よりも、病気を根治する確率が高くなるというプラス面のほうが上回る患者さんに対してのみ行われる治療です」

判断の基準として、年齢や初発時の白血球数などを考慮すると同時に、白血病細胞の染色体検査での病気の進行予測も大切になりそうです。


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