リスクの大きな造血幹細胞移植をやるべきか、いつやるべきかを判断する 再発リスクを測り、それに応じた治療戦略を立てる ~急性骨髄性白血病の場合~
中間リスク・高リスクは1回目の寛解期に移植を
佐倉さんによると、これまでも再発のリスクを予測する手法は工夫されていたそうです。
ただし、「治療開始前のリスクで見ていた」といいます。
例えば、患者の年齢や全身状態、染色体異常のタイプ、白血球の数、1回の治療で寛解に入ったかどうかなどです。その合計点数で、予後良好、予後中間、予後不良という3つのグループに分けられます。

出典:臨血.1998:39:98-102
それぞれの無病生存率、つまり再発しないで生存している率をみると、そのとおり、予後良好群、予後中間群、予後不良群の順で無病生存率が高いことがわかります。つまり、予後良好群は再発率が低いのです。
そこで、何とか予後中間群や予後不良群の治療成績を高められないかと、調査が行われました。
この再発リスクが高い2群で血縁者にドナーが見つかった場合、最初に寛解に入った段階で同種造血幹細胞移植を行ったらどうか、という研究が行われたのです。

どの段階で、造血幹細胞移植を行うかは、大きな問題です。通常は、最初の寛解期にはリスクのある移植は行わないといいます。移植をすれば5人に1人の割合で、命にかかわる合併症を起こす危険があるのです。
また再発しても、化学療法で約半数の人は2度目の寛解に持ち込めます。2度目の寛解期に移植を行っても、移植の成功率は60~70パーセントで変わらないといいます。しかし裏を返せば、半数の人は2度目の寛解が得られず、条件の悪い状態で移植をすることになります。
この研究では、「統計的な有意差は出なかったの���すが、再発リスクの高い人に対して第1寛解期に移植をすると、無病生存率が上がる」という結果だったそうです。
統計的に意味があるほどの差ではなかったのですが、リスクが中間から高い人は、1回目の寛解期に移植をしたほうがいいという結果だったのです。

染色体と遺伝子異常でリスク判定
さらに、染色体と遺伝子の変異から再発のリスクを予測する方法ができました。
急性骨髄性白血病にも、いろいろなタイプがあるのですが、佐倉さんによると「染色体が欠けたり、転座したり、異常の種類によって治りやすさが違う」といいます。
たとえば、正常核型というのは、染色体が正常という意味ではなく、異常が見つからないという意味です。
実は、このタイプが1番多くて半分ぐらいを占めています。
「染色体異常だけでみると、正常核型の人のリスクは予後中間型。1回目の寛解期に命がけで移植を受ける必要があるのか、ということになるのです」と佐倉さん。
しかし、同じ正常核型でも、さらに細かく解析していくと遺伝子異常の有無がわかり、より細かくリスクを分けられる可能性が出てきています。たとえば、正常核型でもFLT-3という遺伝子の変異がなければ、予後は良好な可能性があるわけです。しかし、この変異があると予後不良になる可能性があります。
この場合は、1回目の寛解期に造血幹細胞移植を受けたほうが良いと、判断されるのです。
「FLT-3の遺伝子異常がなければ、移植をしても変化はないので、そのまま地固め療法を続ける、遺伝子異常があれば地固め療法を受けながら移植をする、という臨床試験が開始されています」と佐倉さんは語っています。

また、染色体でみた予後良好群の場合でも、KITという遺伝子変異がある人は、約2倍の再発率があると報告されています。我が国でも、臨床試験でKIT遺伝子の変異を調べ、変異の有無での生存率の検討が開始されています。その結果で、今後の寛解期での移植も検討される可能性が出てきます。

このように、染色体や遺伝子のレベルで、今はかなり細かく移植の必要性や時期がわかるようになってきました。これらの遺伝子変異と移植については「今、臨床試験が行われている最中で、結果が出るのは数年先」だそうです。
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