治療の主体は抗がん剤を用いた化学療法と造血幹細胞移植 新薬など進歩著しい急性骨髄性白血病の最新治療
再発した場合の治療法
再発が確認された場合は、再び完全寛解を目指し、化学療法を行う。再発の場合は、再発までの期間がどのくらいであったかが重要な予後因子となる。12カ月以上再発しなかった人は76.8パーセントが再び寛解に持ち込めるが、再発までの期間が12カ月未満の人は45.9パーセントと明らかな差があるのだ。
しかし再発・難治例にも、抗がん剤の使用量を増やす、前に使わなかった薬剤を使う、細胞周期を考慮する方法(休薬期間を設け、そのときに細胞周期に入ったがん細胞をいっきにたたく治療法)、キロサイド投与前にフルダラを入れることでより濃度を上げる薬剤相互作用を利用した方法などがあるが、治療成績は概ね50~70パーセント程度である。マイロターグといった分子標的薬などの新規薬剤を使うこともある。
また、はじめから寛解に至らないもの、つまり薬が効かない難治性のものは高用量のキロサイドやマイロターグなどを用いる。それで、寛解が得られなければ非寛解状態での移植を考慮する必要がある。
急性前骨髄球性白血病によく効く薬
急性骨髄性白血病の1つの病型である急性前骨髄球性白血病には、独自の治療方法がある。
ベサノイド(一般名トレチノイン)という分子標的治療薬が、非常によく効く。ベサノイドは、レチノイン酸というビタミンAの誘導体。この薬は、白血病細胞を成熟させ、正常な白血球と同様の経過で死滅させるものだ。
以前は播種性血管内凝固症候群による脳や肺、消化管からの出血が必発し、治療が難しかったこの病型も、ベサノイドが導入されるようになってからは高い確率で寛解に持ち込めるようになった。
「白血球数が多ければ寛解導入時にキロサイド、イダマイシンを併用します。JALSGのプロトコール(治療計画書)に基づいた治療成績では、ベサノイドを用いた寛解導入療法で94パーセントが血液学的完全寛解に達し、88パーセントが地固め療法を無事に終え、このうち98パーセントが分子生物学的完全寛解を達成するという非常に良好な成績をあげています」
ベサノイドを使用するときに気をつけなければならないのはレチノイン酸症候群という、発熱や呼吸困難で発症し、重篤な間質性肺炎を引き起こすこともある��作用だ。早期に発見し、対処する必要がある。
寛解後療法では、キロサイドに数種類のアンスラサイクリン系薬剤などを併用する。
「地固め療法後の維持・強化療法については、強力な化学療法は行わず、ベサノイド間欠的投与、または6-メルカプトプリン(一般名)というマイルドな抗がん剤かメソトレキセート(一般名メトトレキサート)あるいは両者の併用を間欠的に2年間行うのが標準的とされています。また、国内ではベサノイドと日本で開発された合成レチノイドの経口薬アムノレイク(一般名タミバロテン)の比較臨床試験も進められています」
急性前骨髄球性白血病では、寛解に入った症例のうち、2~3割程度で再発がある。
「初発時はベサノイドが非常によく効くのですが、再発するとベサノイドが効くのは3割程度となります。再発したらベサノイドより、トリセノックス(一般名三酸化ヒ素)などの亜ヒ酸を導入すると高い効果が得られます。マイロターグも、極めて有効です」
これからの課題と期待される治療法
今後は遺伝子異常を詳しく調べて各症例を層別化し、予後分類していくことが重要となる。
たとえば、現在、予後中間群はドナーがいれば移植が選択されるが、同じ中間群でも予後良好の遺伝子変異ならば移植をしてもしなくても差がないという。ならば、あえて厳しい移植をする必要はないということがわかるのだ。
また、RASという遺伝子の変異がある場合、キロサイドを低用量で使うと再発率が高く、高用量を使うと再発率が低くなる。そのため、RASの変異がある人は大量のキロサイドを使うべきだということがわかる。
このように同じ予後群に属する人たちでも、その人に適した治療法を選択していくことが可能になるわけだ。
新規薬剤には、クロファラビン、ラロムスチン、クロレタジンなどがある。欧米で再発・難治の小児急性リンパ性白血病治療に承認されているクロファラビンを、急性骨髄性白血病の高齢者に投与する臨床試験がアメリカで行われ、40パーセントが完全寛解を得たと発表されたことから、この使用が可能になると、高齢の患者さんにも希望が出てくる。
そのほか、脱メチル化剤といわれる薬の臨床試験が骨髄異形成症候群や一部の急性骨髄性白血病で進行中だ。
「脱メチル化剤は、がん抑制遺伝子の発現を回復させる薬です。白血病ではメチル化により、がん抑制遺伝子が寝た状態になっているため、過剰な増殖が起こっています。それを呼び起こすにはメチル化を解除すればよいという発想から開発された薬で、急性骨髄性白血病の治療薬として使われる可能性があります」
急性骨髄性白血病の治療は、研究や新薬の開発が次々と進んでおり、治療法は今後も進歩しつづけるだろう。
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