渡辺亨チームが医療サポートする:急性前骨髄球性白血病編
白血病の再発。同種骨髄移植で2度目の危機を脱出
楠本茂さんのお話
*1 再発のチェック
地固め療法が終了しても、白血球の再発が起こっていないかチェックするために、定期的な通院、採血検査が必要です。急性白血病の再発は、通常寛解後5年以内に起こり、5年以降の再発は少ないとされています。したがって、患者さんには、たとえ体調がよくても、最低5年間は外来通院を続けてもらうことになります。
*2 白血病の再発
治療によりいったん寛解に達した病気が再燃し、白血病細胞が増えてくる状態が再発です。寛解に達するということは、骨髄穿刺で取った骨髄を顕微鏡で調べて、白血病細胞がなくなるということです。ところが、微小残存病変という目にみえない白血病細胞の残党が潜んでいて、何かの機会に再び急に増え始めることがあるのです。
急性前骨髄球性白血病でATRAによる分化誘導療法などの治療を受けて完全寛解に達する割合は95パーセント、その後5年間再発せずに生存している割合は70パーセント近いことが報告されています。ほかの急性骨髄性白血病における完全寛解率は70~80パーセントで、その半分以上が再発することが報告されていて、急性前骨髄球性白血病の再発率は他の白血病に比べて低いことがわかります。
*3 急性前骨髄球性白血病の再発時の治療
ATRA療法で治療して再発した場合、もう1回ATRA療法で治療することがありますが、このときATRAだけで完全寛解に達する割合は20パーセント以下といわれます。ATRAによる1回目の完全寛解率は88パーセント。なぜ2回目は成績が悪いのかというと、白血病細胞がATRAに対して抵抗力を持つため、すなわち「薬剤耐性」です。薬剤耐性を持つようになった白血病に対しては、これまでアントラサイクリン系抗がん剤を併用した治療が主に行われてきましたが、ごく最近では亜ヒ酸(一般名アレスニック・トリオキサイド、商品名トリセノックス)や合成レチノイドであるAm80(一般名タミバロテン、商品名アムノレイク)が再発・難治性の症例を対象に臨床導入されました。研究開発中の抗がん剤の使用や造血幹細胞移植が検討されることもあります。
*4 造血幹細胞移植
白血病を根絶するために、最も強力で有効な地固め療法が造血幹細胞移植であり、通常の量の抗がん剤治療では治癒が難しいと判断される場合に選択されます。
造血幹細胞移植は、従来は「骨髄移植」と呼ばれてきました。正常な血液が造れなくなった骨髄を、健康な人から骨髄をもらって移植する「同種骨髄移植」が一般的だったからです。ところが最近は骨髄だけでなく、健康ドナーからとっておいた血液の種である造血幹細胞を移植する「末梢血幹細胞移植」や赤ちゃんのへその緒に含まれている造血幹細胞を移植する「臍帯血移植」という方法もさかんになってきました。また、自分自身の造血幹細胞をあらかじめ採取しておいて、移植する「自家造血幹細胞移植」も悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などを対象にさかんに行われています。そこで、これらをまとめて「造血幹細胞移植」と呼ぶようになったのです。
造血幹細胞移植のためには、まず超大量の抗がん剤の点滴や全身への放射線照射を行って、もともと自分が持っていた骨髄を死滅させて空っぽにします。こうして正常な造血幹細胞を、静脈から輸血のように体内に入れることによって、空っぽの骨髄と入れ換えて、正常な造血を回復させようとするのです。これらを移植前処置と呼びます。
同種造血幹細胞移植は白血球の型(HLA)が全部、またはほぼ一致した造血幹細胞提供者から正常な造血幹細胞を採取します。同種骨髄移植の場合、移植された骨髄が新しい宿主を攻撃するGVHDという反応が起こります。
また、これらの通常の移植療法は、大量の抗がん剤投与と全身放射線照射による移植前処置が必須でしたが、その強い副作用のために高齢者や臓器疾患などの患者に対しては適応になりませんでした。しかし、近年になって新しい薬剤の開発が進み、骨髄抑制の少ない移植前処置を用いる「ミニ移植」が広まりつつあります。
*5 GVL効果
白血球は、自分とは異質なものを敵と見なして排除する免疫の働きを持っています。そのため、造血幹細胞移植でドナーの造血幹細胞から作られた(分化した)白血球は、宿主の細胞を攻撃するGVHDが起こりますが、白血病細胞も敵と見なして長い期間これを抑える効果を示すのです。これをGVL効果と呼んでいます。同種造血幹細胞移植にはこのGVL効果があるために、自家移植に比べて、再発のリスクが低いことが示されています。

移植したドナーのTリンパ球が患者の体を異物と認識して攻撃するの
がGVHD。主に皮膚と肝臓と消化管が攻撃される。が同時に残存する
白血病細胞も攻撃するため、再発が減少する。これをGVL効果という
*6 白血球型(HLA)
他人の骨髄と入れかえる同種骨髄移植を行うためには、ドナーと白血球の型(HLA)が一致することが必要です。HLAが一致しないと、移植後にGVHDがひどくなり、移植した骨髄中に含まれるリンパ球が患者の皮膚・肝臓・腸等を攻撃し、重症になると死に至ることもあります。
HLAは赤血球の型であるA、B、O、AB型とは異なり、とくに移植に重要とされるA、B、DRの3種類(それぞれ2個の抗原を持っているので3×2=6種類)の抗原について照合する必要があります。この6種類にはそれぞれ細かいタイプがあるため、白血球型は日本人で2000万種類といわれます。同種骨髄移植を行うために白血球の型(HLA)が一致する確率は、同胞(兄弟・姉妹)間でも約25パーセントと低く、見つからない場合は、公的な骨髄バンクを利用することになります。
*7 GVHD
移植された骨髄が新しい宿主を攻撃する反応をGVHDといいます。移植後100日以内に発生するGVHDを「急性GVHD」といい、皮膚障害、下痢、肝障害が認められ命に関わる合併症を引き起こす可能性があるためとくに注意を必要とします。100日以降に現れるGVHDを「慢性GVHD」といいます。
*8 同種骨髄移植の流れ
患者さんが骨髄移植が必要な病状であると診断され、主治医の説明で患者さんと家族が移植に同意したら、まず健康な骨髄を提供してくれるドナーを探すことになります。普通ドナーはまず家族などにHLAの一致する人がいないかどうかを探し、血縁者にドナーが見つからなければ骨髄バンクに登録して非血縁者のドナーを探します。ドナーが見つかったら、次のような手順で骨髄移植が行われます。
(1)前処置 移植の前に抗がん剤と放射線照射で骨髄を全て破壊して空っぽにする。
(2)骨髄採取 ドナーから骨髄を採取。全身麻酔で主に腰骨を繰り返し穿刺し骨髄液を採取。
(3)移植 採取した骨髄液を患者に点滴投与。
(4)経過観察 移植後、拒絶反応やGVHD、その他の感染症が発生しないか経過を観察。
*9 ドナーの負担
骨髄提供のため、ドナーの負担は小さくありません。骨髄採取による貧血が予想されるために採取前3週間前、1週間前に自己血をあらかじめ採取しておきます。骨髄採取術前日に入院し、当日は全身麻酔をかけて、骨髄液を約800~1000cc(体重により異なる)採取され、その後自己血輸血をすることになります。順調にいけば、手術後2~3日で退院できます。また、移植前処置を始めてからの骨髄採取中止はできるだけ避けなければならず、ドナーの精神的負担もかなり大きなものです。
最近では末梢血幹細胞採取も広く行われていて、あらかじめ採取、凍結保存しておくことが可能で、ドナーのスケジュールに合わせて採取できます。自家、同胞および血縁者間の移植では保険適応になっていますが、まだ日本の骨髄バンクでは適応になっていません。
*10 生着
移植された骨髄が患者の骨髄として機能することを「生着」といい、14日から21日間ぐらいかかります。生着しない場合もあります。白血球、血小板、赤血球(ヘモグロビン)とも、正常範囲内まで上がってきたら「生着した」と判断されます。移植には大きな関門がいくつかありますが、移植前処置による臓器障害、生着までの感染症は移植関連合併症の中で大きなウエイトを占めます。生着後は急性GVHD、ステロイド使用による真菌感染、ウイルス感染の可能性が高くなり、100日を過ぎると慢性GVHDによる合併症に注意が必要となります。
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