急性骨髄性白血病(AML)の治療
急性骨髄性白血病(AML): 治療 Q&A
回答者:薄井紀子さん
東京慈恵会医科大学付属第3病院
腫瘍・血液内科診療部長
回答者:秋山秀樹さん
東京都立駒込病院内科医長
回答者:西村美樹さん
千葉大学付属病院血液内科科長
Q:急性骨髄性白血病が再発。同種移植とマイロターグどちらがよいか
58歳のときに急性骨髄性白血病を発症し、イダマイシン(一般名イダルビシン)とキロサイド(一般名シタラビン)の2剤併用療法を受け、完全寛解になりました。しかし、これから地固め療法を受けようとしていた矢先に再発してしまいました。
今後は、同種移植かマイロターグ(一般名ゲムツズマブオゾガマイシン)による治療があると、主治医から説明を受けました。年齢を考えると、移植が成功する可能性はあまり高くないと言われています。
一方のマイロターグは、抗がん剤治療にしては副作用が比較的穏やかだが、肝機能が悪いと使えないと聞きました。
幸い私は、肝機能には問題がなく、マイロターグは受けられそうですが、もし移植のほうが治る可能性が高いのなら、移植を受けたいとも思います。いずれの治療を選ぶべきか、アドバイスをお願いします。
(広島県:男性60歳)
A:それぞれに一長一短。合併症なども確認して主治医に相談を
マイロターグは、CD33というタンパク質を持っている急性骨髄性白血病の患者さんに効果のある分子標的薬です。マイロターグの治療の提案も受けているということは、このCD33が陽性なのでしょう。
一般的には、55歳以上の方の骨髄移植をはじめとした同種移植は治療成績が落ちます。そのため、同種移植を安全に行えるのは55歳以下と一応の区切りがつけられています。ただし60歳くらいでも、ミニ移植(後述)などを使って、同種移植を受ける方もいらっしゃいます。
同種移植では、移植を行う前に大量の抗がん剤による治療と放射線治療を行います。これを前処置といい、その際にはさまざまな毒性も発揮され、生命が危険な状況になることもあります。
これに対する対策として、近年、ミニ移植といわれる方法も行われるようになっています。このミニ移植では、抗がん剤の投与量が少ないため、通常の前処置よりは、身体への負担��小さくてすみます。
前処置がうまくいっても、その後、移植を受けると、GVHD(移植片対宿主病)という免疫病が起こることがあります。新しいリンパ球が異物と認識され、攻撃されてしまうことで起こる病気です。さらには、感染症にかかったり、慢性のGVHDになることもあったりするなど、同種移植はリスクの小さくない治療法です。ただし一方では、うまくいくと、白血病細胞をゼロにすることができ、新たに造血できるという大きな可能性のある治療法でもあります。
前記のように、同種移植には相応のリスクを伴いますが、体調がよく、糖尿病や心臓病、高血圧症などの合併症が何もないのであれば、検討してみてもよいと思います。ただし、移植の経験数の多い医療施設などで相談されたほうがよいでしょう。
一方のマイロターグは非常によい薬で、この薬の恩恵にあずかっている患者さんは大勢いらっしゃいます。とはいえ、マイロターグ単剤では効果が出にくいという問題もあり、ほかの抗がん剤、たとえばイダマイシンやキロサイドなどと併用すると、より大きな効果が期待できます。しかし、今はまだ、マイロターグとほかの抗がん剤との併用療法は保険診療では認められておらず、現在、臨床試験が行われているところです。
CD33の数量や合併症の有無なども再確認して、まず主治医に改めて相談してみてはいかがでしょうか。
(2009年09月号 がん相談/血液がん 回答者:薄井紀子さん 東京慈恵会医科大学付属第3病院腫瘍・血液内科診療部長)
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