大都市圏でも増加傾向のATL 有望な治療法の臨床試験が次々と

監修●塚崎邦弘 国立がん研究センター東病院血液腫瘍科科長
取材・文●町口 充
発行:2013年12月
更新:2014年3月

無治療経過観察に代わる新たな治療法

ホットな動きがあるのが低悪性度ATLの治療。

低悪性度ATLは、病気の進行が穏やかであるところからこう呼ばれるが、低悪性度から高悪性度の急性型やリンパ腫型に移行(急性転化)すると、生命の危険が一挙に高くなってしまう。

現在のところ、低悪性度ATLに対しては注意深く経過観察を続け、病気が進行して高悪性度ATLになった段階で化学療法を行う “ウオッチフル・ウェイティング”、すなわち無治療経過観察が標準治療となっている。

化学療法を行わなくてもすぐには病気が悪化しないというのがその理由。しかし、この方法だと結局は高悪性度への進行を防ぐことができず、低悪性度ATLと診断されてから5年後に生存している患者さんの割合は、約半数にすぎないと報告されている。それならば皮膚病変を改善させ、かつ高悪性度への進行を抑える治療法があればいいのだが、いまだ存在していない。

そこで今、注目されているのがインターフェロンαとエイズ治療薬であるレトロビルを併用する治療法(IFN‐α+AZT療法)。

日本ではATLに対してはいずれの薬も未承認だが、欧米など海外ではすでに標準治療になっていて、抗がん薬に比べ費用が安く済む上、外来での治療が可能で、副作用も一過性の発熱や倦怠感などでそれほど重いものではない、と評価が高いという。

塚崎さんは次のように話す。「海外のデータですが、2010年に100例ほどを調査した結果では、リンパ腫型では化学療法より効果が劣るものの、急性型では良好な成績が得られ、低悪性度ATLに対してもよく効き、予後もいいと報告されています。またこの調査では、IFN-α+AZT療法を受けた低悪性度ATLの患者さん16人を5年間追跡したところ、全員が生存していて急性転化した人はいないと報告されています。

これらの調査結果については、エビデンス(科学的根拠)のレベルが高くないと疑問視する意見もあります。しかし私たちとしては、急性型に移行するのを防いだり遅らせたりして、長生きにつながる有望な治療法ではないかとの期待を持っており、それを証明するには信頼性の高い臨床試験により明確なエビデンスを示す必要があります。そこで、世界的にみても感染者や患者さんの数が多い日本でぜひとも試験を行って、低悪性度ATLに対する治療法を確立し、日本から世界に発信していきたいと考えています」(図3)

図3 IFN-α+AZT療法の効果

2013年9月、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が計画・立案して、低悪性度ATLに対するIFN-α+AZT療法の有用性を調べるため、無治療経過観察と比較する医師主導による第Ⅲ相無作為化比較試験(JCOG1111試験)が開始された。

「試験の登録人数は計74人で、IFN-α+AZT療法と無治療経過観察とに半々に別れてもらいます(※無作為に割り付け)。厚労省の先進医療Bとして承認されたので、ATLに対して保険適用のない2薬剤を用いた臨床試験が実施可能なのですが、まず2例について安全性を確かめ、その後は全国の約40のJCOG参加施設で実施していきます。試験のおもな対象基準は、低悪性度ATLと診断され、これまで抗がん薬治療受けていない75歳以下の人。現在、登録を募っていますので、ぜひお問い合わせください」

結果は5年後ぐらいまでにはまとまり、有用性が証明されれば保険適用を得る予定。

JCOG1111試験の詳細情報は下記の国立がん研究センターHPをご参照ください。
http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/jcog1111/patient.html

レトロビル=一般名:ジドブジン

高悪性度ATLの治療にも新しい展開

低悪性度ATLより患者数が多く、全体の8割を占める高悪性度ATLの治療でも新しい展開がある。

現在のところ、高悪性度ATLの標準治療は複数の抗がん薬を併用するLSG15療法。さらに可能なら同種造血幹細胞移植を行い治癒を目指す。

日本で開発されたポテリジオという抗体医薬があり、現在は再発した高悪性度ATLの治療薬として保険適用になっているが、2013年10月に開催された日本血液学会で、初発の患者さんを対象にした臨床試験の結果が明らかになった。

現在の標準療法であるLSG15療法単独と、LSG15+ポテリジオ併用療法とを比較した第Ⅱ相無作為化試験の結果で、完全寛解(奏効)率は前者が30数%に対して、後者は50数%で、2割増の上乗せ効果があった。

「初発の患者さんに対しても治療効果を高めることが証明され、かなり期待が持てます。ただし、有害事象として重篤な発疹が現れることがあるので、使用に当たっては注意が必要です。それでも有望な治療であるのは間違いなく、同種移植とどう併用するかの検討が課題になっています」

ほかにも、レブラミド(第Ⅰ相試験の結果では2~3割のATLの患者さんに効果があり、長期生存している患者さんもいて、現在第Ⅱ相試験中)、SGN-35(CD30という抗原に対する抗体由来薬で、現在ATLを含むCD30陽性のT細胞リンパ腫にグローバルで第Ⅲ相無作為化試験中)などの新規薬剤が相次いで登場しており、早期の実用化が待たれている。

LSG15療法=オンコビン(一般名:ビンクリスチン)、エンドキサン(一般名:シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名:ドキソルビシン)、プレドニゾロン/プレゾニン(一般名:プレドニゾロン)、サイメリン(一般名:ラニムスチン)、フィルデシン(一般名:ビンデシン)、パラプラチン(一般名:カルボプラチン)という7種類の抗がん薬を使った多剤併用療法 ポテリジオ=一般名:モガムリズマブ レブラミド=一般名:レナリドミド

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