発見しにくく、効果の高い治療法がなかった病気に新たな可能性 期待の新薬・治療法が次々に登場!成人T細胞白血病・リンパ腫の治療はどう変わるか

監修●塚崎邦弘 国立がん研究センター東病院血液腫瘍科科長
取材・文●町口 充
発行:2013年1月
更新:2020年1月

低悪性度では治療せず経過観察

インドレントATLとアグレッシブATLとでは治療方針は全く異なっていて、インドレントATLに対しては、治療せずに経過観察を行います。

「ただし私は経過観察という言葉は不十分だと考えていて、ウオッチフル・ウエイティングといって患者さんに説明しています。何をウオッチ(監視)して、何をウエイティングする(待つ)のかというと、抗がん薬などは使わずにしっかり経過を見て、アグレッシブATLに急に転化したことがわかったら、すぐに治療を開始できるよう備えておくということです」

なお、くすぶり型の一部に皮膚に症状があらわれるタイプがあり、この場合は皮膚症状に対しての治療が行われます。

悪性リンパ腫に準じた強力な化学療法

■図6 造血幹細胞移植の適応
①病型:アグレッシブ成人T細胞白血病・リンパ腫

②年齢:55歳以下>通常の造血幹細胞移植 56歳以上70歳程度まで>骨髄非破壊的造血幹細胞移植(いわゆるミニ移植)

③化学療法により病勢がCR(完全奏効)、PR(部分奏効)、SD(安定)にコントロールされている
④重大な臓器障害の合併がない
⑤コントロールされていない感染症の合併症がない
⑥血縁ドナー、骨髄バンクの非血縁ドナーが存在する。血縁ドナーの場合、HTLV-1キャリアでもOK。場合によってはさい帯血も考慮

アグレッシブATLの場合は強い抗がん薬を使った化学療法を行い、そのあと可能であれば同種造血幹細胞移植を行います。ATLはリンパ節の病気が末梢血に現れたものであるため、化学療法はT��胞性悪性リンパ腫の標準治療である「CHOP療法」を行います。

CHOP療法は、4薬剤を併用する抗がん薬治療ですがG-CSFという白血球を増やす薬剤を投与することで投与間隔を短縮し、より薬剤の強さを増す「Bi-CHOP療法」として行うことができます。さらに近年、登場してきたのが、Bi-CHOP療法で使われる4剤に別の抗がん薬を併用する「LSG15療法」と呼ばれるものです。

アグレッシブATLに対するBi-CHOP療法とLSG15療法を比較した日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)による臨床試験の結果では、完全寛解率が前者は25%なのに対して後者は40%、3年生存率は前者が13%に対して後者は24%で、より良好な成績を示しているということで、副作用は強いのですが、現在はLSG15療法がアグレッシブATLの標準的な化学療法とみなされている、と塚崎さんは語ります。

1980年代ごろから取り組まれているのが同種造血幹細胞移植です(図6)。副作用が強いので通常は全身状態がよい55歳以下の人が対象となりますが、移植により3年生存率が4割を超えるまでになりました。

しかし、ATLは高齢者の患者さんが多いため、フル移植(骨髄破壊的移植)ではなく、56歳から70歳ぐらいまでであれば可能なミニ移植(骨髄非破壊的移植)を行うという方法があります。実際、3年生存率が3~4割に達したとの報告があります。

同種造血幹細胞移植=血縁者を含む他人の造血幹細胞の移植
CHOP療法=エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)による化学療法*LSG15療法=CHOP療法に、サイメリン(一般名ラニムスチン)、フィルデシン(一般名ビンデシン)、パラプラチン(一般名カルボプラチン)、エトポシド(一般名)を加えた化学療法

期待が持てる抗体薬「ポテリジオ」

新しい薬剤も登場しています。日本で開発された「ポテリジオ」という薬です。

この薬はATL細胞の表面に現れているCCR4というタンパク質をターゲットに抗腫瘍効果を発揮する抗体薬。CCR4は正常な免疫担当細胞の一部にも現れますが、ATLの患者さんでは約90%の患者さんに現れています。

臨床試験の結果では、単剤投与で奏効率50%と高い有効性が認められ、安全性も確かめられています。副作用としては白血球減少、急性輸注反応と呼ばれるアレルギー反応のような症状、発疹などの皮膚障害などがあらわれるので、慎重に扱う必要があります。

今のところ保険適応となっているのは、再発したアグレッシブATLの患者さんに単剤で使う場合ですが、現在、初発の患者さんを対象に、LSG15療法単独とポテリジオを併用した治療法の第2相試験が行われています。「結果がよければ初発の患者さんに対しても使えるようになるでしょう」と、塚崎さんは語ります。

ポテリジオ=一般名モガムリズマブ

インターフェロンα+レトロビルにも期待

もう1つ注目されているものに、インターフェロンαとエイズ治療薬であるレトロビルの併用療法があります。

海外では以前から、この治療法の有用性についての報告があり、ようやく大規模な臨床研究が行われ、2010年に100例ほどを調査した結果が明らかとなりました。それによると、リンパ腫型では化学療法より効果が劣るものの、急性型では化学療法より良好な成績が得られ、インドネレントATLに対してもよく効き、予後もいいと報告されています。

2009年に世界のATL研究者が集まってまとめた「コンセンサスレポート」でも、インドレントATLに対してインターフェロンα+レトロビル併用療法を検討することが推奨され、米国のガイドラインにも掲載されています。

このため日本でもインドレントATL腫に対してインターフェロンα+レトロビル併用療法が本当に有用かどうか検証するための第3相の臨床試験(JCOG1111試験)が始まることになっています。

ATLの治療がますます可能性を広げるなか、病気を早期発見し、よりよい治療につなげるには、患者さん・妊婦・医療者それぞれに情報が普及していくことが求められています。

レトロビル=一般名ジドブジン
【HTLV-1情報サービス (http://htlv1joho.org/index.html)】ATL、HAMなどのHTLV-1関連疾患のほか、妊婦健診のHTLV-1抗体検査について、よくある質問コーナーなどが掲載されている。臨床研究を行っている施設を検索できる。医療者向けの情報も掲載

 

レトロビルの試験にぜひ参加を!
(JCOG1111の第3相試験)

インドレント成人T細胞白血病・リンパ腫への治療として、海外ではインターフェロンα+レトロビル併用療法が推奨されています。しかし日本では、どちらの薬剤も成人T細胞白血病・リンパ腫に対して承認されておらず、JCOGが臨床試験を行えない状況が続いていました。 それが数年前に新しい制度が設けられたおかげで、臨床試験での使用が可能になったのです。これは、日本では未承認でも海外では標準治療として扱われているものを検証するための治療であれば、申請すると保険診療と併用できる、つまり混合診療が認められる制度です。現在JCOGは、インターフェロンα+レトロビル併用療法とウオッチフル・ウェイティングを比較する臨床試験(JCOG1111試験)を計画し、全国40施設で今年度中にも試験が始まります。「この意義を理解いただき、できるだけ多くの患者さんに参加してほしい」と塚崎さんは語っています。

JCOG=日本臨床腫瘍研究グループ 新しい制度=高度医療評価制度のこと。現在は、「先進医療B」と呼称を変更

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