休薬してよいかどうかの臨床試験も始まり、将来的には完治できる可能性も! 効果の高い第2世代薬が登場!慢性骨髄性白血病の治療薬をどう選ぶか
治療を開始するときにはセカンドオピニオンを

古賀 新たに慢性骨髄性白血病と診断された患者さんに、先生はどの薬を使っているのですか。
木村 制限がなくなってからは、第2世代薬のどちらかを使っています。がん治療では、できるだけ早い時期に、なるべく強い治療で徹底的にたたくのが鉄則です。慢性骨髄性白血病の治療を専門とする医師の間では、第2世代薬から使い始めるというのは、コンセンサス(総意)が得られていると思いますよ。
古賀 でも、実際にはグリベックを処方される患者さんも少なくないようです。グリベックには歴史があり、それだけ副作用などの情報もあるので、安心して使えるというのが理由のようですが。
木村 血液の専門医でも、それぞれ得意な分野があり、だれもが慢性骨髄性白血病の治療に詳しいわけではありません。インターネットで調べたり、患者会に問い合わせたりすれば、慢性骨髄性白血病を専門とする医師がわかると思います。そしてセカンドオピニオンを受けていただきたいと思います。
古賀 これまでグリベックで治療してきた患者さんは、どうしたらいいのでしょう。
イマチニブ | ダサチニブ | ニロチニブ | |
特徴的 副作用 | 胸水 消化管出血 | 不整脈 高血糖 リパーゼ(*)上昇 ビリルビン(*)上昇 | |
共通する 副作用 | 浮腫、悪心・嘔吐、皮疹、血球減少 |
木村 グリベックの治療���遺伝子異常が見つからないほどよく効いていて、副作用もあまり問題がないのであれば、新しい薬に変えてはいません。変更を考えるのは、効果が不十分な場合や、副作用が強く出ている場合です。
古賀 スプリセルとタシグナは、どう使い分けるのですか。
木村 スプリセルには、胸水がたまるという特徴的な副作用があります。そこで、肺や心臓に問題がある人には、タシグナが勧められます。一方、タシグナは、肝臓や膵臓に副作用が出やすい傾向があります。そこで、糖尿病の人や肝臓の検査値が悪い人は、スプリセルを選んだほうがより安全と考えられます。こうしたことを説明し、患者さんと相談して決めていくわけです。
古賀 スプリセルは1日1回服用するのに対して、タシグナは1日2回の服用で食事の前後は服用できないという制限があります。患者さんによっては、こうしたことも薬を選ぶ理由の1つになるかもしれませんね。
*リパーゼ=膵臓に含まれる消化酸素の1つ
*ビリルビン=赤血球中のヘモグロビンが壊れてできる色素。肝臓で処理し、胆汁を介して十二指腸に排泄する
薬の服用をやめることも可能か

木村 慢性骨髄性白血病の分子標的薬による治療は、生涯薬を飲み続ける必要があるとされてきましたが、最近になって、薬を止められる可能性が出てきました。
古賀 患者会では、その臨床試験のことが話題になっています。薬をずっと飲み続けるのは、経済的にも大変ですから。
木村 臨床試験が最も進んでいるのはグリベックで、2007年からフランスの研究グループが行っています。PCR法という精密な検査を行い、2年間にわたって異常が出ていない人に限定して、薬の服用を止めてみたのです。その結果、40%の患者さんは薬を止めることができました。この40%の患者さんでは、少なくとも3年間、再発が起きていません。残りの60%は再発しましたが、グリベックの服用を再開し、全員が薬を中止する前の段階までは回復しています。

古賀 第2世代薬ではどうなのでしょうか。
木村 現在、スプリセルとタシグナを休薬する臨床試験が、それぞれ日本で行われています。
古賀 それは、結果に期待したいですね。お子さんをもつことを希望する患者さんもいます。催奇性のある治療薬を中断できれば、妊娠を視野にいれられる時代も来るかもしれませんね。
木村 確かに慢性骨髄性白血病の治療は、死をいかに回避するかという観点から、患者さんのQOLをどう考えるかという面へと広がってきています。休薬は患者さんの生き方を広げる可能性がありますね。ただし、自己判断での休薬は決して行うべきではありません。現段階での休薬は、臨床試験に参加していただく必要があります。今回の臨床試験は、薬を飲むだけでがんが治るかどうかを明らかにする試験です。がん治療の最大のチャレンジと言ってもいいでしょう。