一生薬を飲み続けなくてもいい時代が来るかもしれない!? 完全治癒を目指して慢性骨髄性白血病の最新治療
弱点を補うスプリセル、タシグナ
そこで、グリベックの弱点を補う第2世代のBCR/ABL阻害薬が登場しています。グリベックと同じ分子標的薬であるスプリセル(*)とタシグナ(*)です。いずれも09年3月に日本でも発売されるようになりました。
試験管レベルの研究では、BCR/ABLを抑える力がグリベックに比べてスプリセルで325倍、タシグナで20~30倍ですが、臨床効果は両者に差がありません。
この2つの薬を使うと、グリベックが効かない患者さんの半数ないしはそれ以上で完全寛解が得られています。
「どちらの薬も優劣はなく、使い分けをどうするか、今、それが問題になっています。副作用としては、スプリセルは胸水と出血に注意といわれています。胸水は、高齢者、血圧の高い人、心臓病の人などに出やすいといわれていますが、ほとんどの場合は軽度です。また、出血しやすくなるので胃潰瘍の人などには使いにくいです。
一方、タシグナは、血糖値が上がるとか、膵臓機能の検査値の上昇がいわれていて、糖尿病とか慢性膵炎の人は使いにくいですが、ほとんどの場合は軽度です。肝機能へ影響することもありますが、重症化することはほとんどありません」
スプリセルとタシグナとでは飲み方に違いがあります。タシグナは食事の1時間前と2時間後は飲めず、これ以外の時間に12時間ごとに1日2回飲む必要があります。
一方、グリベックとスプリセルは1日1回の服用です。ですので、患者さんのライフスタイルが薬の選択に影響するケースもあるようです。
なお、スプリセルは慢性期、移行期、急性期のすべてで保険適用となっていますが、タシグナは慢性期と移行期での保険適用です。
さらに、スプリセルもタシグナも、当初はグリベックが効かない患者さんのみに用いられていました。しかし、グリベックを上回るほど効果があり、副作用もそれほど強くないのなら、最初から使ってもいいのではないかと、日本も参加した世界レベルでの臨床試験が行われ、その結果を受けて、昨年暮れ、タシグナが初発の慢性骨髄性白血病の第1次治療薬として承認されました。
スプリセルも、今年夏ごろには承認されるのではないかといわれています。
ま��、第3世代のBCR/ABL阻害剤としてポナチニブ(一般名)という薬の第1相試験がアメリカで行われています。この薬はスプリセルもタシグナも歯が立たない薬剤耐性の原因となる遺伝子変異(T315I陽性)にも有効ということで、期待されています。
*スプリセル=一般名ダサチニブ
*タシグナ=一般名ニロチニブ
移植の選択はあるか?

もちろん造血幹細胞移植という選択肢もあります。しかし、これについて永井さんは「グリベックが出る前は慢性期でも若い人では移植が第1選択でしたが、今はグリベックないしは新しい薬が第1選択です。それでも治療効果が不十分だった場合に、移植を考えます」と語っています。
また、急性期では、グリベックを投与して一時的には効果があっても2~3カ月すると効果がなくなってしまうことが多いといいます。そこで、グリベックが効いているうちに移植を選択します。グリベックが効かない場合でも、スプリセルといった第2世代のBCR/ABL阻害剤で時間稼ぎをして、その間に移植するという方法があります。
完全治癒を目指す取り組み

これだけグリベックや他の新しい薬で治療成績が上がったのだから、薬によって完全治癒にもっていけないかというのが、この病気のもう1つの目標になっています。
最近、ヨーロッパで、グリベックの投与で分子遺伝学的完全寛解が2年以上得られている患者さんを対象に、グリベックの投与を中止することが可能かどうかの大規模臨床試験が行われました。
薬で分子遺伝学的完全寛解が得られている患者さんが、薬をやめても再発しなければ完全に治ったといえます。
この試験では、約4割の患者さんがグリベック中止後も分子遺伝学的完全寛解が一定期間維持されています。残りの6割の人は効果が薄れて、BCR/ABL遺伝子が出てきましたが、その後グリベックを飲むと再び効果が現れました。
日本でも、分子遺伝学的完全寛解が続いている患者さんにグリベックを中止したらどの程度その状態が維持できるかの試験が行われています。自治医科大学も筑波大学を中心としたグリベック中止試験に参加して共同研究を進めているとのことです。
薬を飲み続けなくてもいい時代に──。慢性骨髄性白血病の治療はさらに進化を続けています。
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