グリベックの10倍以上の効力を持つ新しい分子標的薬も近々承認 分子標的薬の登場で大きく変わる白血病治療
100%近くの人が普通の日常生活を送っている
グリベックの効果は絶大といえそうだ。
「慢性骨髄性白血病の患者にインターフェロンとAra-C(アラシー、キノサイド)を加えた治療では14パーセントほどしか効果がなかったのに、グリベックは76パーセントの人に奏効しました。これらは、フィラデルフィア染色体がすべて消失し、正常細胞だけが残った人の割合ですから、グリベックの効果は画期的といえるでしょう」(畠さん)
しかも、もう少し日数を経ると、87パーセントの人で遺伝子の異常が消え、残り13パーセントのうち11パーセントは血液データが正常になったという。
また、5年後には98パーセントの人に何らかの効果が現れ、これらの人は日常生活をほとんど支障なく送ることができている。

「もちろんと言うべきか、5年間のうちには亡くなる方もいます。でもその多くは、慢性骨髄性白血病以外の病気、たとえば心臓病や高血圧症などが原因で亡くなっている。ほかの病気が原因で死亡した方を除けば、実に95パーセントの人が5年後もご健在です。グリベックは慢性骨髄性白血病に圧倒的に効きます」。畠さんはこう話し、さらに「これほど効く抗がん剤の類はまずないでしょう」と驚きを隠さない。
ただし、問題もある。それは、長く使っていると、薬剤に対し、耐性ができてしまうことだ。とくに、加速期と急性転化期にはしばしば耐性が現れる。耐性ができると、効果は薄れ、いずれ効かなくなる。しかし、グリベックに続く分子標的薬も、慢性骨髄性白血病に対し、間もなく承認される見通しというから心強い。
グリベックの10倍以上強力な新薬も
グリベックに続く分子標的薬とは、タシグナ(一般名ニロチニブ)とスプリセル(一般名ダサチニブ)である。いずれもグリベックと同様に飲み薬だ。ただし、これらの薬はタイプが異なる。
「タシグナはいわば“ニューグリベック”。グリベックの効果をいっそう強力にしたような薬剤です。一方の���プリセルは、グリベックやタシグナでは抑えられないSRC(サーク)という遺伝子まで抑えるため、血管内皮の中に現れたがんにも効果が期待できます。いずれの薬剤も、大まかにいって、グリベックの10倍以上強力です」(畠さん)
タシグナを慢性骨髄性白血病の患者に投与すると、3カ月後には、97パーセントの人のフィラデルフィア染色体がすべて消失し、正常細胞だけになる。半年間行うと、フィラデルフィア染色体は100パーセント消失し、すべて正常細胞になる。
また、同様にスプリセルを慢性骨髄性白血病の患者に投与すると、半年後には、94パーセントの人のフィラデルフィア染色体がすべて消失し、1年行うと、それは100パーセント消失している。
これほど強力で、しかも効果が早く出るタシグナとスプリセル。ならば、初めからタシグナ、ないしはスプリセルを使えばよいではないかと思うが、事はそう簡単ではない。
「タシグナとスプリセルも近々、慢性骨髄性白血病の患者さんに対して承認される見通しですが、費用や副作用の問題も含め、まだわからない点も多くあります。ただ、少なくとも現状でいえることは、グリベックを使っても効果のなかった人と、グリベックが合わない人に対して、まず承認される予定であることです」(畠さん)
副作用は確かに気になる。グリベック、タシグナ、スプリセル、それぞれの副作用の現状はどうなのだろうか。畠さんによると、主に次の副作用がある。
グリベックには、顔や脚のむくみ、皮膚の発疹、骨髄抑制などがある。むくみは利尿剤によって比較的簡単に取れ、発疹には、ステロイドのクリームなどを塗って対処する。また骨髄抑制は、治療を一時中断するか、グリベックの量を減らせば緩和できる。
「新型グリベック」ともいえるタシグナは、副作用もグリベックに似ている。だが「10倍以上強力」だからといって、副作用も10倍以上あるわけではない。それは「副作用を減らすように、薬をデザインしているため」(畠さん)だ。
スプリセルには、骨髄抑制や胸水が見られる。スプリセルでは、とくに胸水の管理が重要になる。
とはいえ、いずれの分子標的薬も、同種造血幹細胞移植や抗がん剤治療、インターフェロン治療に比べると、副作用はずっと少なく、かつ小さい。現にグリベックは、90歳の患者さんも受けているが、問題はまったくないという。
慢性白血病は不治の病ではなくなった
治療費も気になる。
「すでに承認されているグリベックは、ひと月25万~28万円ほどです。患者さんはそのうちの3割を負担しますから、個人負担はひと月7万~8万数千円。一定の自己負担限度額を超えた部分は、高額療養費制度によって払い戻されるから、異常に高いというわけではないでしょう」
ちなみに同種造血幹細胞移植は、1回の移植に1200万円ほどかかるというから、その差は歴然としている。 今後は新たな動きもある。その1つは、分子標的薬と抗がん剤治療との併用療法だ。しかし、果たしてこれだけ効果のある分子標的薬に、さらに抗がん剤治療を加える必要があるのか議論の余地は十分にあると、畠さんは話す。
タシグナやスプリセルに続く分子標的薬の研究・開発も進められている。ボスチニブ(商品名は未定)はその1つである。
「ボスチニブはスプリセルにやや近く、いわばグリベックにスプリセルを加えたような薬です」(畠さん)
詳細のまだわからない薬剤だが、慢性骨髄性白血病などの治療法に加わる日も近いかもしれない。 最後に畠さんは「骨髄性に関しても、リンパ性に関しても、少なくとも慢性白血病は不治の病ではなくなったといえるかもしれない」と話してくれた。
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