渡辺亨チームが医療サポートする:慢性骨髄性白血病編
渡辺亨チームが医療サポートする:慢性骨髄性白血病編―2
楠本茂さんのお話
*1 骨髄移植後の再発
慢性期の慢性骨髄性白血病が、移行期や急性転化期に進行するのを阻止し、完治させられるのは、骨髄移植を含む造血幹細胞移植だけです。条件がよければ、80~90パーセントの患者さんはフィラデルフィア染色体の数が1000分の1になります。ほぼ100パーセント治癒して急性転化に移行することはなくなります。しかし、10パーセントの患者さんは骨髄移植をしても、治療への抵抗性が出てきて再発する可能性があります。再発には慢性期再発、移行期再発、急性転化再発の3種類があります。移行期に変化すると、慢性期にはほとんどみられなかった芽球(機能異常の白血球)が骨髄や血液中に出現してきます。また、貧血の悪化や血小板の低下がみられることもあります。自覚症状としては、発熱、手足や腰などの骨の痛みがあり、脾腫の増大などが現れたら、移行期への進行が疑われます。
急性転化になれば、骨髄は芽球で占拠され、急性白血病と同じ状態といえます。ドナー細胞は排除されて、正常な血球をつくりだすことができないために、赤血球の不足による貧血症状、正常な白血球の不足による感染症状(発熱など)、血小板の不足による出血症状(鼻血、皮膚の出血斑など)が現れる可能性があります。
急性転化には、骨髄芽球が増える「骨髄芽球性急性転化」とリンパ芽球が増える「リンパ芽球性急性転化」の2つのタイプがあります。
慢性期 | 白血球数は増加しているが、未成熟な芽球細胞の割合は少ない(15%以下)。脾臓の腫大がみられる。数カ月~数年間続き、無治療では、必ず急性転化期に移行する |
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移行期 | 骨髄、末梢血中の芽球細胞の割合がやや増加し(15%~30%)、貧血、出血傾向、発熱が出現することがある。脾臓の腫大が進行する。移行期を経ないで慢性期から直接急性転化期に移行する場合もある |
急性転化期 | 骨髄、末梢血中の芽球細胞の割合が30%以上に増加する。骨やリンパ節に腫瘤ができることがある |
*2 脾腫
慢性期の患者さんでは、とくに身体的な不調の自覚はなく、血液検査異常のみが認められるケースがほとんどです。そのなかで、しばしば脾臓という臓器が腫れる「脾腫」という状態になり、左腹部の不快感や、微熱、倦怠感、寝汗などの症状が現れる患者さんがいます。また、肝臓が腫れる「肝腫」が認められることもあります。脾腫や肝腫がひどくなると、膨満感を覚えることになります。
*3 フィラデルフィア染色体の検査法
慢性骨髄性白血病の診断確定や、造血幹細胞移植、化学療法の治療効果を判定するためには、フィラデルフィア染色体の陽性率を調べる検査が欠かせません。末梢血や骨髄液中に含まれる細胞の中にあるフィラデルフィア染色体を検出する方法としては、(1)染色体検査、(2)遺伝子検査があります。
(1)染色体検査
G分染法
細胞を培養して、分裂によってできた新しい細胞から得られた各染色体のバンドを色素で染め出し、肉眼で9番染色体と22番染色体の間で起こる転座などを見つける方法です。普通は20個の分裂細胞から得られた染色体についてフィラデルフィア染色体が陽性か、陰性かについて判定します。17個が陽性と認められれば85パーセント陽性となります。治療効果判定においては、この染色体異常が消失することが重要であることがわかっています。
FISH(Fluorescence in situ Hybridization)法
フィラデルフィア染色体異常に関係するBCR-ABLキメラ遺伝子を蛍光色素で認識する方法です。迅速にフィラデルフィア染色体を検出できます。

(2)遺伝子検査
フィラデルフィア染色体に形成される異常な遺伝子そのものを、PCR法という非常に鋭敏な方法で見つけ出す検査方法です。まだ、日本では保険適応になっていません。
*4 グリベック
グリベックは慢性骨髄性白血病に対する造血幹細胞移植、インターフェロン療法に続く第3の治療薬として登場した分子標的薬です。ノバルティスファーマ社が開発したもので、日本では2001年12月から市販されました。慢性骨髄性白血病では、フィラデルフィア染色体の出現により形成されたBCR-ABLキメラ遺伝子から、BCR-ABLチロシンキナーゼと呼ばれる異常なタンパクがつくられます。骨髄で白血球や血小板のもとになる細胞を必要以上につくりすぎるなど、造血のコントロールが狂ってくるのはこのBCR-ABLチロシンキナーゼの働きと考えられます。グリベックはBCR-ABLチロシンキナーゼの働きそのものを抑えるように設計された薬です。
従来ほとんどの薬剤は、自然界に存在する物質をじゅうたん爆撃のように用いて、たまたまある疾患に有効性を発揮したものを利用していました。これに対して、グリベックは最初からターゲットを定めて、そこを狙い撃ちするもので、史上初めての「コンピュータがつくり出した薬」と言われています。
世界ではすでに、グリベックについて10年間のデータ蓄積がなされています。2003年に慢性骨髄性白血病、慢性期の初期治療でグリベックの効果について検討した「IRIS study」という臨床試験の結果が報告されました。その後、この臨床試験については、5年間のフォローアップデータが報告されています。
IRIS試験では、未治療の患者をグリベックで治療する群と、それまでの標準治療であったインターフェロン-α+Ara-C(商品名キロサイド・一般名シタラビン)併用で治療する群に無作為に割り付け、効果と副作用などを比較しました。その結果、グリベックの治療継続率は69パーセントと良好な忍容性が示され、治療中止が28パーセント、インターフェロン-α+Ara-Cへの変更は3パーセントでした。
一方、インターフェロン-α+Ara-C群の治療継続率はわずか3パーセントであり、治療中止が32パーセント、グリベックへの変更が65パーセントでした。また、グリベックで治療した場合の細胞遺伝学的完全寛解は治療開始1年で69パーセント、5年で87パーセントに達しています。そして、5年目の時点で83パーセントの患者さんが無増悪生存を達成しています。
グリベックが登場する前には患者さんの約半数が3~5年の間に移行期、急性転化に進行し、治療抵抗性となっていたことを考えると、グリベックはきわめて優れた治療効果を持つ薬剤だと言えます。
さらに特筆すべきことは、5年間のフォローという比較的、長期間の投与によっても、持続的な治療効果を示していることです。
一方、慢性期と比べて、移行期の患者さんについてはグリベックの治療成績の報告は限られています。血液学的効果として30~40パーセントくらい、細胞遺伝学的効果(フィラデルフィア染色体が0~35パーセントまで低下)としては20~30パーセントの報告がされていて、そのような効果が得られた場合においては、4年生存率が70パーセント程度と報告されています。細胞遺伝学的効果が得られない場合には、長期生存率は30~40パーセントにすぎないとされています(グリベック登場以前では、移行期慢性骨髄性白血病の生存期間中央値は1年未満と報告されています)。
グリベックは錠剤になった飲み薬なので、インターフェロンのように自己注射の必要はありません。慢性期では、1日400ミリグラム(100ミリグラム錠を4錠)を1回で内服するのが標準的ですが、移行期では600ミリグラムのほうが良好な治療効果が得られたと報告されていて、日本でも保険適応があります。
前述した内容は初発あるいは移植をしていない患者さんのデータであり、移植後再発に対するグリベックの治療成績のデータは多くありません。
[グリベックが効く仕組み]
*5 DLI
造血幹細胞移植後に慢性骨髄性白血病が再発してしまった場合に、骨髄提供を行ったドナー(同一人物)から血球分離装置を使ってリンパ球成分だけを採取して、これを患者さんに輸注するという方法です。
リンパ球の「自分でないものを排除する」というGVL効果を利用したもので、抗がん剤などを用いなくとも、条件が整えば、約80パーセントの人で長期の寛解状態(病気の細胞が消失した状態)にすることができます。ただし、十分な効果があるのは慢性期再発で、かつフィラデルフィア染色体が少ない場合であるとする報告が多いのが現状です。また、移植片対宿主病(GVHD)や白血球が減ったりして重大な合併症が出現することがあるので、慎重に適応を検討する必要があります。
*6 高額療養費制度
保険治療では、1カ月の支払額が一定の金額以上の医療費については、社会保険または市町村から支給される制度があります。高額療養費の支給を受ける場合ですが、社会保険であれば一旦、病院の窓口で支払いをすませてからその病院の領収書を持って社会保険事務所に申請することが必要です。
詳しくは病院にいるソーシャルワーカーなどに相談を受けてください。
70歳未満の一般の方が、窓口で30万円(総医療費として100万円)支払う場合 |
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【 300,000円(窓口での支払額) – 〔 80,100円 + ( 1,000,000円(総医療費) – 267,000円 × 0.01(1%) 〕 】 × 0.8(8割) = 170,056円 |
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170,000円 (貸付金額)*100円単位切り捨て |
申請先:市区町村役場、社会保険事務所、健康保険組合など、加入している保険の種類によります。
必要書類:高額療養費支給申請書もしくは高額医療費支給申請書、健康保険、病院などから発行された領収書、振り込み先銀行口座番号の分かるもの、銀行口座届印
*郵便局は取り扱いがない場合があります。
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