従来の治療薬と作用機序が異なり新しい選択肢として期待 慢性骨髄性白血病に6番目の治療薬が登場
新しい作用機序の「セムブリックス」が承認された
2022年5月、慢性骨髄性白血病の6番目の治療薬としてセムブリックス(一般名アシミニブ)が発売された。「2つ以上のチロシンキナーゼ阻害薬に治療抵抗性または不耐容の慢性骨髄性白血病」に対して使用できることになっている。
セムブリックスは、これまで使用されてきたチロシンキナーゼ阻害薬とは異なり、STAMP阻害薬と呼ばれるタイプの薬剤である。BCR-ABLチロシンキナーゼには、ATPが結合する部分以外に、ABLミリストイルポケットと呼ばれる部位がある。STAMP阻害薬は、そこに選択的に結合することで、BCR-ABLチロシンキナーゼを不活化する働きをもっている。それによって治療効果を発揮する(図4)。

「セムブリックスは、チロシンキナーゼ阻害薬とは異なる作用をもつ薬です。そのため、チロシンキナーゼ阻害薬を使っていてそれが効かなくなった患者さん、つまり抵抗性を獲得した患者さんにも効く可能性があります。もう1つは、複数のチロシンキナーゼ阻害薬が、副作用などのために服用できない、もしくは充分な量が服用できない従文できなくなっている患者さんもいます。こうした不耐容の患者さんにとっても、異なる作用の薬が使えるようになったことは朗報といえます」
セムブリックスは、「ASCEMBL試験」という臨床試験の結果に基づき、慢性骨髄性白血病の治療薬として認可されている。この試験の対象となったのは、2剤以上のチロシンキナーゼ阻害薬を使用し、抵抗性または不耐容となった患者さんである。この人たちを、セムブリックスを投与する群と、第2世代薬のボシュリフを投与する群に分け、比較試験が行われた。
主要評価項目は、24週時点の分子遺伝学的大奏効率(MMR)だった。BCR-ABL遺伝子が0.1%以下になった患者さんが、どのくらいの割合いたかを調べたわけだ。結果は、セムブリックス群が25%、ボシュリフ群が13%だった。これにより、標準治療薬であるボシュリフに対するセムブリックスの優越性が証明されたのである。また、副作用で治療を中止した人の割合(48週時点)は、セムブリックス群が7%、ボシュリフ群が25%だった。有効性と安全性で、セムブリックスの有用性が確認できたことになる。
「慢性骨髄性白血病の日常診療においては、薬の効果も重要ですが、それと同じくらい副作用の管理も重要です。長期に服用することになるので、胸水がたまるとか、脳梗塞や心筋梗塞が増えるとか、肝機能障害が現れるとか、そういった副作用をマネジメントしていく必要があるのです。
セムブリックスは副作用として血球減少が起きやすいのですが、それ以外、問題となる強い副作用はあまりありません。これまでチロシンキナーゼ阻害薬で治療していたが、副作用で十分な量を服用できなくなったような患者さんには、比較的使いやすい薬だと思います。それから、チロシンキナーゼ阻害薬を何種類か使ったが、なかなか十分な効果が得られないような場合も、作用機序が異なるセムブリックスが選択肢にあるというのは貴重だと思います」
セムブリックスは、現時点では2剤以上の前治療薬に抵抗性または不耐容となった患者さんにしか使うことができない。しかし、初回治療の臨床試験もいくつか始まっているという。セムブリックスと各種チロシンキナーゼ阻害薬の比較試験である。そうした臨床試験の結果によっては、慢性骨髄性白血病の治療が変わってくる可能性もありそうである。
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