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分子標的薬やCAR-T細胞療法などの開発で全ての血液がんに希望が 分子標的薬の新薬、次々登場で進化する血液がんの化学療法

監修●矢野真吾 東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授/腫瘍センター長
取材・文●伊波達也
発行:2019年12月
更新:2019年12月


慢性リンパ性白血病にも新しく分子標的薬が登場

白血病の約3%を占める、慢性リンパ性白血病。

「慢性リンパ性白血病の標準治療法は、今まで『FCR療法』でしたが、今はイムブルビカ(一般名イブルチニブ)が高齢者でも若年者でも、NCCNのガイドラインでは『カテゴリー1』で推奨され、標準治療になっています。イムブルビカは予後不良の染色体異常『17p/TP53変異』があっても、効果を示します」と矢野さん。

イムブルビカはブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬。BTKはB細胞の成熟と生存を制御する細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質で、BTKを阻害し、増殖を抑制する。その後、2019年5月にFDAで承認された経口BCL-2阻害薬ベネクレクスタ(同ベネトクラクス)という分子標的薬が登場した。日本では同年11月に発売になった。

承認は治療歴のない慢性リンパ性白血病に対する化学療法を含まない、一定投与期間の経口併用療法を検討した「CLL14試験」において、ベネクレクスタとガザイバ(同オビヌツズマブ)の併用群と、ガザイバとクロラムブシル(chlorambucil/一般名:日本未承認)の併用群を比較した結果、無増悪生存期間(PFS)においてベネクレクスタとガザイバ併用群が優位に延長していたことに基づくもの。

慢性リンパ性白血病は、日本人には少なく、欧米人に多い病気だ。ベネクレクスタは、リツキサンやガザイバといった薬との併用で、威力を発揮する。新薬がなかったこの病気において明るいニュースだ。

「ベネクレクスタは、今後、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫(MM)など他の悪性疾患への適応拡大が期待されています。また ベネクレクスタのもう1つの大きな利点は、高齢者に使えることです。急性骨髄性白血病は、抗がん薬が主体でしたが、高齢の患者さんにとってはつらい治療ですので、十分に治療ができず、生存期間が短いのが現状でした。ですから新たな分子標的薬の登場は高齢者にとっても大きな福音です」

慢性骨髄性白血病にも第3世代の分子標的薬

白血病の22%である、慢性骨髄性白血病は、2001年にグリベック(一般名イマチニブ)が登場して以降、最も予後を改善した病気となった。第2世代のタシグナ(同ニロチニブ)、スプリセル(同ダサチニブ)に加え、2014年には第3世代のボシュリフ(同ボスチニブ)が登場。またT315I変異にも効果を示すアイクルシル(同ポナチニブ)が2016年11月から使用可能になった。アイクルシルは慢性骨髄性白血病治療に対する最新の分子��的薬だ。その結果、治療の効果、副作用の出方、患者の併存症などを考慮しながら治療を継続していくことが可能となった。

さらに、現在、ボシュリフが初回治療で使えるようにと、適応拡大が厚生労働省へ申請されている。

4つの病気の各治療については、様々な副作用があることは確かだ。分子標的薬は細胞毒性の抗がん薬とは違った副作用がある。それぞれの薬剤によって、心毒性や血管閉塞性事象、肝毒性、アレルギー、神経障害、皮疹ほか様々だ。医師や医療スタッフの指導のもとに安全性を担保しながら治療を受けていくことも大切だ。

白血病においては、成人急性T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)のように難治性の病気もまだ存在するが、総じて、治療の現状は明るいと言えるだろう。

「臨床上では、まだまだドラッグ・ラグもありますし、様々な課題も多いことは確かですが、治療で病状をコントロールできれば、新薬の登場によって、有効な治療を受けられ、延命、そして根治につながる可能性がでてくることは確かです。また、先述したとおり、各新薬の再発・難治例への有効性が評価されれば、近い将来、これらの薬物が初回治療で使えるようになるはずです。そうすれば、白血病治療はさらに大きな進歩を遂げるでしょう」(表2)

悪性リンパ腫や多発性骨髄腫にも新薬やCAR-T免疫細胞療法が有望

白血病以外の血液がんでも治療は進化している。血液がんの中で一番患者数の多い悪性リンパ腫。そのうちの3〜4割を占める、再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対して、ポラツズマブベドチン(Polatuzumab vedotin/商品名:PORVY)という薬が今年(2019年6月)FDAで迅速承認された。

「この病気は、日本で一番多いリンパ腫です。当院でも毎月3〜4人の新規患者さんが訪れます。このような病気で新薬が登場することは患者さんにとっては朗報でしょう」

再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は、再発・難治性のCD19陽性のB細胞急性リンパ芽球性白血病とともに、2019年、大きな話題となったCAR-T(カーティ)細胞療法も適応になる病気だ。

「ただし、CAR-T細胞療法は、現在は限られた施設でのみできる治療ですし、まだ長期成績もはっきりわかりません。とは言え、現在、同様の治療法の開発も進んで、治験も行われており、それらも含めて今後は普及していく治療となるでしょう」

B細胞リンパ球ががん化する多発性骨髄腫に対しても、CAR-T細胞療法が適応できるようになりそうだという。その多発性骨髄腫も、現在9種類の新規薬剤が使えるようになり、初回治療から使える分子標的薬もあるため、薬剤の組み合わせやリレーによって、治療展望は明るいと言える。

「血液がん全般、そして白血病は、不治の病ではないということをしっかりと認識して、専門医とよく相談し、最良の治療を受けることで根治を目指せる。白血病になっても、決してあきらめる必要はありません」

最後に、力強い言葉で矢野さんは話を締めくくった。

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