「不治の病」から「治癒可能な病」になったが、まだまだあなどれない これだけは知っておきたい白血病の基礎知識
急性白血病と慢性白血病はまったく別の病気
白血病には、急性白血病と慢性白血病がある。この「急性」と「慢性」について、知っておいてほしいことがある。
「ある病気に急性と慢性があると、急性の病気が治り切らず、長期間経過することで慢性化するというのが普通です。ところが、白血病では、急性と慢性はまったく別の病気なのです。最初から進行が速く、症状が激烈なのが急性白血病。それに対し、ゆっくり進行するものだけを慢性白血病と呼んでいます」
急性白血病と慢性白血病の罹患率の比は、ほぼ3対1で急性が多い。また、急性白血病にはたくさんの種類があるが、慢性白血病に分類されるのは、慢性骨髄性白血病と慢性リンパ性白血病の2種類だけだ。
「特に慢性リンパ性白血病は進行が遅く、この病気だと診断がついても、症状がなければ、数年から10数年間は治療の必要がありません。そのくらい進行がゆっくりしているのです」
もっとも、この病気を確実に治せる治療法があるわけではない。化学療法や造血幹細胞移植も行われている。
「慢性骨髄性白血病は、初期の段階ではまったく無症状なので、かつて健康診断があまり行われていなかった時代には、脾臓が腫れてきてようやく発見されるということがよくありました。最近は、健康診断で白血球が異常に増えていることがわかり、専門の病院を紹介されて診断がつくことが多いようです」
この慢性骨髄性白血病に対しては、分子標的薬のグリベック(一般名イマチニブ)が、2001年から健康保険で使えるようになった。それまで広く行われていた治療法に比べて治療成績が優れ、約9割の患者さんで、病気の進行が食い止められることが明らかになっている。
「グリベックの登場によって、慢性骨髄性白血病の治療はがらりと変わりました。まさに画期的な薬でしたね」
坂巻さんはこう語っている。
慢性骨髄性白血病も造血幹細胞移植の対象となるが、現在では、まずはグリベックによる治療が行われる。移植を考えるのは、それが効かなくなってからでいいというわけだ。
���性白血病に対してはまず化学療法を行う
急性白血病は、何らかの症状が現れ、それに気づいて病気が発見されるケースが多い。症状としては、貧血、血小板減少による出血や紫斑があげられる。血小板は出血を止めるのに重要な働きがあり、これが減少すると小さな傷でもなかなか血が止まらなくなる。また、ちょっとしたことで内出血が起こり、紫斑が現れたり、あざができたりするのだ。
急性白血病は進行が速いので、診断がついたら早く治療を始める必要がある。まず行われるのは化学療法である。
キロサイド(一般名シタラビン)を中心に、ダウノマイシン(一般名ダウノルビシン)、イダマイシン(一般名イダルビシン)という抗生剤系の抗がん剤を併用して治療が行われる。
「抗がん剤の投与期間は1週間です。その1週間で大量の抗がん剤を使い、白血病細胞を攻撃します。ただし、抗がん剤を大量に使えば、正常な血球細胞もダメージを受けるので、貧血も、白血球減少も、血小板減少もひどくなります。いい細胞も、悪い細胞も一緒に抑えてしまう治療なのです」
この1週間の治療で、白血病細胞は大幅に減少する。治療前には、体内に10の12乗個(1兆個)の白血病細胞が存在する。これが全身をめぐる血液の中に入っているのだ。重さにすると、白血病細胞だけで1~2キログラムになるというから驚く。1週間の化学療法で、白血病細胞は10の9乗個(10億個)にまで減少する。
寛解といっても、白血病細胞が消失したわけではない
「この治療を寛解導入療法と呼んでいます。正常細胞も減ってしまいますが、使っているのは抗がん剤ですから、もちろん悪い細胞のほうが、より大幅に減ります。白血病細胞が10の12乗から10の9乗に減るといっても、どうもピンとこないかもしれませんが、これは白血病細胞の数が1000分の1になることを意味しています。ここまで減ると、顕微鏡で血液を調べても、白血病細胞はとても見つかりません」
抗がん剤の投与を中止すると、正常細胞も白血球細胞も回復し始める。どちらもダメージを受けているが、白血病細胞のほうが大きなダメージを受けているので、正常細胞のほうが回復の度合いが大きい。白血病細胞が減ったことで、骨髄でも正常細胞を生み出す余裕が生まれてくるのだ。
「白血病細胞が大幅に減って、正常細胞が回復してきた状態を“寛解”と言います。患者さんは、貧血や血小板減少が解消されて、一見元気になります。しかし、寛解は白血病細胞が消失したわけではなく、まだ10の9乗個の白血病細胞が残った状態なのです」
寛解すると、白血病が治ったのだと勘違いする患者さんがいる。しかし、このまま何もしなければ、白血病細胞が盛り返してくることは間違いない状態なのだ。
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