急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病の新しい治療薬の効果 遺伝子レベルの解明で進歩著しい急性白血病の治療
新規薬剤も続々と登場
新規薬剤療法として注目されているのは、急性骨髄性白血病治療薬で保険適用になっている、マイロターグ(一般名ゲムツズマブオゾガマイシン)だ。マイロターグは、ゲムツズマブという抗体にカリケアマイシンという抗腫瘍活性の高い抗がん性抗生物質がくっついている。骨髄性白血病細胞に発現しているCD33抗原に、マイロターグの抗体部分が結合し、細胞内に取り込まれると殺細胞効果を発揮する、という治療薬である。
「マイロターグは理論的には大変優れていて、臨床現場でも期待されていたのですが、問題点があって、1つは寛解に入ったとしても、寛解持続は比較的短いということです。マイロターグだけで治療しているケースだと、だいたい1年以内ぐらいに再発してきます。もう1つは、理論的に期待されたほど完全寛解率もそんなに高くないということです。そこで、いま、マイロターグの使い方として、海外で考えられているのは、抗がん剤の治療にマイロターグを加えることによって、より抗がん剤の治療成績があがってこないか、というマイロターグの使い方についてです。この研究については、海外で臨床試験が行われ、検討されている最中です」(内丸さん)
急性リンパ性白血病の治療薬についても、特筆すべき事項がある。
慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体(9番と22番の染色体が相互転座を起こしたもの)と呼ばれる染色体異常が認められるのが特徴だが、同じ異常を持つ急性リンパ性白血病の治療については非常に難儀で、抗がん剤治療などを含め、治療は極めて困難といわれてきた。
慢性骨髄性白血病については、分子標的薬のグリベック(一般名イマチニブ)が効果を発揮したことから、同じ染色体異常を持つフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(急性リンパ性白血病の一種)にも適応を拡大した。
急性リンパ性白血病でも効果が大きいことがわかってきたが、問題点は寛解期間が短いことだという。���半のケースで、半年以内に再発してしまうため、他の薬剤と併用してグリベックを用い、寛解に入ったところで速やかに造血幹細胞移植を行う方法が検討されていて、40パーセントの長期生存が得られたとの報告もあるという。
グリベックをより強力にした新しい薬剤としては、ニロチニブ(一般名)、ダサチニブ(一般名)があり、いずれも海外ではすでに承認済みとなっている。日本でも臨床試験が終了して承認申請中であり、早ければ来年にも承認、発売が期待されている。
このほか、T細胞急性リンパ性白血病に対する新規薬剤としてアラノンジー(一般名ネララビン)が今年になって承認・発売されている。
さらには、FLT-3と呼ばれる遺伝子に異常がある急性白血病はかなり多い。そこでFLT-3に特異的に作用する分子標的薬の開発も進行中だという。ほかにも、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、ファルネシル転移酵素阻害剤などの基礎研究や臨床試験が行われていて次の分子標的薬として期待されている。
骨髄移植の留意点
これだけ治療法が進歩しても、急性白血病に対する化学療法の成績は決してよいとはいえない。そこで、再発のリスクが高い人や完治を目指した治療法に、骨髄移植を含む造血幹細胞移植がある。
「多くの方が、白血病になったら移植をやらないと治らないと思い込んでいますが、考え方の基本として知っておいてほしいのは、移植には移植なりのリスクがあるということです。1つは、移植の前処置の段階で大量の抗がん剤、放射線を使うので、それによって臓器障害を起こしたり、移植後には、ドナー(臓器提供者)のリンパ球が患者の体を異物とみなして攻撃するGVHD(移植片対宿主反応病)による臓器障害が起こるなど、移植により、命を落とすことがあるということです。もう1つは、慢性GVHDが出て、QOL(生活の質)を落とすケースが出てくる。白血病治療については、化学療法か、移植かの判断が1番難しい」(内丸さん)
移植の適応については、「日本造血細胞移植学会が造血細胞移植ガイドラインを示しているので参考になると思います」と内丸さんは語る。
検査、治療ともに、今後の課題としては、「抗がん剤治療については、これ以上は画期的な改善は難しい。発病のメカニズムがまだわからないものも多く、基礎研究で、治療の標的を見い出すことが大事になってきます」と内丸さん。発病のメカニズムに関与する遺伝子がわかれば、PCRも開発でき、結局は治療法の選択にも結び付いていく。分子標的療法の開発が検査、治療成績の進歩の点で大きな課題となっている。
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