さい帯血移植の普及が白血病患者さんに治癒への希望を与えている さい帯血移植は骨髄移植と同程度の治療成績になってきた
諦めかけた人生が救われた
さい帯血移植が普及してきたことで、白血病の治療は選択の幅が広がり、同時に治癒の望みも増した。最後に、さい帯血移植を受けたことで、今も人生を謳歌している人の例を1つ紹介しよう。
及川友子さん(仮名)は2000年9月、急性骨髄性白血病と診断された。抗がん剤治療が功を奏し、「白血病を克服した」と喜んだのもつかの間、再発してしまう。抗がん剤治療に再チャレンジするが、効果はない。治癒への道は移植しか残されていなかった。
しかし、姉や息子たちとは、いずれもHLAが不一致。骨髄バンクでドナーを探すには時間的余裕がなく、残りの人生を諦めかけた。そのときに知ったのがさい帯血移植の存在だった。
東京大学医科学研究所に問い合わせし、転院。49歳のときにさい帯血移植を受け、生着も順調に進み、少しずつ確実に快復していった。及川さんは「さい帯血移植を受けてよかった」と、『さい帯血バンク NOW』(日本さい帯血バンクネットワーク刊)という広報誌に手記を寄せている。及川さんのケースは1例だ。全国に及川さんのような患者さんは大勢いるに違いない。
日本さい帯血バンクネットワークの役割
- 北海道臍帯血バンク
- 特定非営利活動法人宮城さい帯血バンク
- 東京臍帯血バンク
- 東京都赤十字血液センター臍帯血バンク
- 神奈川臍帯血バンク
- 東海大学さい帯血バンク
- 東海臍帯血バンク
- 京阪さい帯血バンク
- 特定非営利活動法人兵庫さい帯血バンク
- 中国四国臍帯血バンク
- 福岡県赤十字血液センター臍帯血バンク
北海道から福岡県まで現在、国内に11のさい帯血バンクがある。非血縁者間のさい帯血移植は、すべてこれらのさい帯血バンクを通して行われる。そのさい帯血バンクは「日本さい帯血バンクネットワーク」という任意団体によってとりまとめられている。
「造血幹細胞移植では、HLAがとても重要な意味を持ちます。当ネットワークでは主に、そのHLAの情報を公開して、安全に使用していただくための基準づくりなどをしています」
「日本さい帯血バンクネットワーク事務局」の鈴木孝佳さんはこのように話す。
さい帯血移植は医療施設ならどこでも行えるわけではなく、「日本さい帯血バンクネットワーク」に登録されている施設(現在、全国で187)だけが実施できる。また、移植施設とは別に、さい帯血を採取する採取施設(産科)が現在、全国に105施設ある。
さい帯血のストックはほぼ十分。保存期間は10年間

さい帯血移植の基準書などによって、さい帯血移植はかつて、骨髄バンクでドナーが見いだせない患者さんのために行うべき治療法とされてきた。それが2002年以降、治療の第1選択にできるようになった。これによって、骨髄移植かさい帯血移植かの選択も、患者と主治医でできるようになり、翌03年以降、さい帯血移植の症例は飛躍的に増大していく。さらに、ミニ移植でさい帯血移植が行われるようになったことも、さい帯血移植の普及に拍車をかけた。
増加する一方のさい帯血移植。肝心のさい帯血は足りているのだろうか。
「全国で毎年、約100万人の赤ちゃんが生まれています。そのうち、1~2万人の方のご協力を得てさい帯血をご提供いただき、3000~4000人の方のさい帯血を冷凍保存しています。毎年そのすべてが使われるわけではないので、ストックすることができ、お陰様で今、ドナーの数はほぼ十分に足りています」
こう話すのは、医師で東京都赤十字血液センター・製剤部長でもある高梨美乃子さんだ。
冷凍保存しているさい帯血はどれぐらいの期間もつのだろうか。
「半永久的にもちます。ただ、バッグ(容器)の耐久期間を考慮する必要があるため、ネットワークとして、保存期間は10年間と決めました」(高梨さん)
さい帯血移植の今後の課題は何だろうか。
「さい帯血移植は、患者さんの体重が多いほど、必要な造血幹細胞の細胞数も多くなります。近年、成人への移植が増えているため、造血幹細胞の細胞数を増やすようにしたい。もう1つは、さい帯血の品質と安全性をよりいっそう高めていきたい」(鈴木さん)
さい帯血移植の普及によって、「治る血液疾患」が増えるなら、喜ばしい限りであろう。
日本さい帯血バンクネットワーク
〒105-0012 東京都港区芝大門1-1-3 日本赤十字社ビル東館6F
TEL:03-5777-2429
FAX:03-5777-2417
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