白血病とは:治療~現状~診断
【現状】抗がん剤の副作用に耐える治療から、
遺伝子レベルで軽やかに治すがんへの転換

愛知県がんセンター総長の
大野竜三さん
白血病は、血液のがんです。
白血球、赤血球、血小板などの血球成分は、骨の芯にある骨髄で作られます。
白血病は、これらの血球の元になる「造血幹細胞」が血球成分に成長していく過程のいずれかでがん化し、異常な白血球(白血病細胞)が無制限に増殖していく病気です。
小児から高齢者までどの年代にも発症しますが、大人の白血病は高齢になるほど増えていきます。かつて「難病」の代名詞であった白血病も、今日では抗がん剤治療や造血幹細胞移植、グリベックなどの治療法の発展により治癒が可能となり、治癒率が飛躍的に向上しています。
より高い治療成績を目指して改良中
白血病は、その経過とがん化した血球細胞の種類によって大きく4種類に分けられます。造血幹細胞は、下図のようにまず「骨髄系細胞」と「リンパ系細胞」に分化します。その後、いくつもの分化過程を経て骨髄系細胞は好酸球、好中球、好塩基球、血小板、赤血球などになります。一方、リンパ系細胞は、Bリンパ球やTリンパ球になります。このうち、赤血球と血小板以外は、すべて白血球と総称されます。
この中で、骨髄系の細胞ががん化したのが「骨髄性白血病」、リンパ系の細胞ががん化したのが「リンパ性白血病」です。
さらに、それぞれ経過によって「急性」と「慢性」に分類されます。急性白血病は、まだ未熟な細胞ががん化してどんどん増殖するため、正常な働きを持つ細胞は作られなくなります。そのため、貧血、出血、感染しやすいといった典型的な症状が起こります。一方、慢性白血病はがん化した白血病細胞が、まだ成熟する能力と細胞としての働きを残しています。増殖のスピードも急性白血病よりゆるやかです。そのため、ゆっくりした経過をたどり、数年間は症状が出ないことが多いのが特徴です。

白血病治療の現状
白血病治療の第一人者である愛知県がんセンター総長の大野竜三さんは、「化学療法や造血幹細胞移植の進歩により、白血病は治癒可能な病気となりました。現在は、より高い治療成績を目指して改良が続けられているところです」と語っています。
白血病治療の基本は、まず「完全寛解」に持ち込むことです。完全寛解とは、体内の白血病細胞が10の10乗個以下に減少し、白血球や赤血球、血小板も正常値になって、症状も消失。骨髄中の白血病細胞(がん化した芽球)も5パーセント以下に減少した状態です。といっても、まだ白血病細胞は根絶されたわけではないので、さらに強力な「地固め療法」や維持療法などを行い、治癒を目指します。
これまで、白血病は強力な化学療法(抗がん剤治療)を行うほど、治癒率が高くなるとみられてきました。たとえば、子供の急性リンパ性白血病では、強力な化学療法を行うと一般には80パーセント以上、再発の危険が高いハイリスク群でも60パーセント以上が治癒するまでになっています。
しかし、「子供や若い人の場合は回復力も旺盛で、強力な化学療法にも耐えうるのですが、中高年になると体力も低下してきます。治療に合併する有害事象、つまり治療関連死があり、必ずしも強力な治療が治癒率の向上にはつながっていないのです」(大野さん)。強力な化学療法ではすでに、頭打ちの状態と考えられるのです。
実際に、この10年間、白血病の化学療法による治療成績はほとんど向上していません。たとえば、急性骨髄性白血病では、治療を強力にしても完全寛解に入る率は80パーセントを大きく超えることはなく、長期生存例も40パーセント以下にとどまっています。
こうした状態に風穴を開けたのが、グリベック(一般名イマチニブ)などの分子標的治療薬です。これらは、白血病の原因である遺伝子異常に分子レベルでターゲットをしぼり、白血病細胞を消滅させる薬です。その効果は「当初想像していた以上に、すばらしいものです」と大野さん。これによって、白血病治療はつらい副作用を乗り越えて治す治療から、遺伝子レベルで治すがんへと、新たな方向性が生まれてきたのです。
(JALSG試験、年齢(15歳~64歳)と病型(除APL)を補正)

*4年生存率
(JALSG試験、<65歳、除APL)

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